トロ・ロッソ技術責任者、ホンダとのF1ワークス体制に興奮と期待そして自信「過小評価するべからず」
今季よりホンダとのパートナーとなったスクーデリア・トロロッソの最高技術責任者を務めるジェームス・キーは、自身としてもチームとしても初のワークス待遇に興奮と驚きを感じつつ、口数少ない日本の大手自動車メーカーが作るF1パワーユニットに大きな期待と自信を持っている。
「ホンダと共に働くこと、そしてワークス・チームとして仕事をすることは、我々にとってこれまでとは全く完全に異なる世界だ」とキー。Racerに対して次のように語った。「パワーユニット・サプライヤーと、これほどまでに結束したコラボレーションを持つことはトロ・ロッソにとっては初めてだからね。本当に心待ちにしていたよ」
「素晴らしい経験だ。大きな責任が伴うし、著名な大企業であるホンダと共に働く唯一のチームであるわけだから、大変な仕事だよ。でも今のところ非常にポジティブだ」
英国出身の実力派エンジニアであるキーは、2012年9月にトロ・ロッソのテクニカル・ディレクターに就任、以降技術部門のトップとしてファエンツァのF1マシンのデザインを手掛けてきた。ジョーダン・グランプリでF1に足を踏み入れ、ミッドランド、スパイカー、フォース・インディア、ザウバーと渡り歩いてきたが、自己資金でレースに参戦する自動車会社のチーム、すなわちワークスチームでの仕事は今回が初めてだ。
プライベーターは、エンジンサプライヤーが用意したパワーユニットに合わせてマシンを設計・開発する等、与えられたものに対して”合わせ込む”事を強いられるが、「トロロッソ・ホンダ」ではその逆すらもあり得る。また、これまでは制限されていたような情報へのアクセスも許可される。サプライヤーとチームが一体となってマシン開発を行うのがワークスチームの何よりもの強みだが、キーはそれ以上に有益な点があるという。
「何より素晴らしいのは、我々の間には透明性が確保されていることだと思う。お互いに、懸念や問題点を感じればそれを率直に伝えている。例えば、ホンダは彼らが昨年抱えたトラブルについて、そしてそれがどの程度克服できているのかについて非常に正直に話をしてくれているし、我々も同じようにしている。裏付けとなるデータやリソースを踏まえて、どのようにして目標を達成するのかについて心から腹を割った議論ができているんだ」
2018年シーズンの大きな見所のひとつに、マクラーレン・ルノーVSトロロッソ・ホンダの戦いが挙げられる。成績不振の全ての責任をホンダに押し付け続け、「シャシーはグリッド最強」と声高に語ってきた英国のかつての名門チームと、「口ではなく結果で語るもの」として公に多くを語らなかった日本のエンジンメーカー。口数少ないPUサプライヤーと組んだキーは、期待と自信を口にする。
「今年はいくつかの驚きをお見せできると考えている。まだまだ多くの疑問があるしコースに出て走ってみるまでは何も分からないけど、ホンダは非常に懸命に取り組んでいるし、良い形でシーズンをスタートさせたいと思っているのは確かだ」
「ホンダは優れた仕事をしていると言わざるを得ない。共通の力強い目標を共有し、これまでのところ極めて良い関係が築けている。この先この形が崩れ去る可能性はゼロだ」
F1であろうと他の業界であろうと、「職人」「エンジニア」と呼ばれるある種の人種が求めているものは世界共通だ。彼らはただ”世界一のプロダクト”が作りたいだけなのだ。そのためにはあらゆる努力を惜しまず、昼夜問わず時間を忘れてひたすらに仕事に没頭する。食事をしている間であっても、家族と過ごす休日であっても、そして布団に入った後でさえ、”世界一のプロダクト”を作るためにどうしたら良いのかを考え続けてしまう習性を持っている。
ただしそれは、コストや営業、利益や売上等、エンジニアリング以外の世界の事情を考慮する必要がない状況が与えられてこそ初めて発揮される。初のワークス待遇を得た若手有望株のデザイナーが、「優秀なデザイナー」で終わるのか「F1史に刻まれる天才デザイナー」となるのかは、今年で決するような気がしてならない。