
また一人…FIA、SD&I責任者を解任─再編の裏で懸念拡大
F1を統括する国際自動車連盟(FIA)は2025年6月17日、サステナビリティおよびダイバーシティ&インクルージョン(SD&I)の責任者であるサラ・マリアーニを、6月20日付で解任し、同役職を廃止する人事異動を発表した。
FIAは今回の決定を組織再編の一環と説明しているが、近年、同組織では幹部層の離脱が相次いでおり、モハメド・ベン・スレイエム会長の下における組織運営の透明性、ならびに多様性や女性登用に対する姿勢に懸念を示す声が、内外から上がっている。
解任されたマリアーニ、FIAに苦言
マリアーニは2023年12月に就任し、約18か月の任期を経て今回の解任に至った。イギリスの公共放送『BBC』によれば、彼女は退職にあたり職員宛てのメールを通じて、FIA内部への苦言とも取れるメッセージを残している。
「FIA以外にも生きる場所はあります。それは、才能と献身的な取り組みが正当に評価され、リーダーシップを担う女性たちが成長し、尊重され、価値を見出される場です」
「このように突然終わるとは想像していませんでしたが、これで人生が終わるわけではありません」
この退職メッセージは、FIAの組織文化そのものが女性リーダーの活躍を阻んでいるとの指摘を示唆する内容として、受け止められている。
SD&I部門の分割がもたらす課題と懸念
FIAはマリアーニの解任にあわせて、SD&I部門の機能を二分する決定を発表した。具体的には、サステナビリティ業務をモビリティ部門の事務総長ウィレム・グローネヴァルトの管轄に、ダイバーシティ&インクルージョン業務を人事担当シニアディレクターのアレッサンドラ・マルハムの管轄に、それぞれ移すという内容だ。
FIAゼネラルマネージャーのアルベルト・ビジャレアルは、「この再編により、二つの重要分野における我々の能力は強化される」と述べたが、その具体的な根拠には触れなかった。
一方でマルハムは、「FIAは、組織内およびモビリティおよびモータースポーツ分野全体において、女性の活躍機会を推進することにコミットしています。職員の32%が女性であり、これは男性が多数を占める業界において誇るべき実績です」と強調した。
しかしながら、SD&I部門が複数部署に分割されたことで責任の所在が曖昧となり、女性リーダーの育成や多様性の推進といった課題への取り組みが後退するのではないかとの懸念が浮上している。
ベン・スレイエム会長の統治体制に高まる不信感
今回のマリアーニ氏解任は、今年4月にスポーツ担当のロバート・リード副会長が辞任したことに続くもので、2025年12月の選挙で2期目を目指すモハメド・ベン・スレイエム会長の下で進められている統治体制の強化と軌を一にする動きと見られている。
ベン・スレイエム体制下のFIAでは、上級管理職の離脱が相次いでいる。FIA女性委員会のデボラ・メイヤー委員長、競技ディレクターのスティーブ・ニールセン、技術ディレクターのティム・ゴス、CEOのナタリー・ロビン、広報責任者のルーク・スキッパーらが相次いで退任し、統治体制に対する深刻な不安が指摘されている。
さらに競技運営部門でも、F1レースディレクターのニールス・ヴィティヒ、F1上級スチュワードのティム・メイヤー、F2副レースディレクターのジャネット・タン、そして元F1スチュワードのジョニー・ハーバートらが職を離れており、FIAの組織的安定性に対する懸念は一層高まっている。
加えて今月上旬には、ベン・スレイエム会長が提案した複数の規約改正案が可決されたが、一部の加盟クラブからは「民主的後退」との厳しい批判も噴出している。
問題はFIA内部にとどまらない。ベン・スレイエム会長はF1関係者やドライバーとの間でもたびたび摩擦を生じさせてきた。
特定のF1レース結果への干渉疑惑(後に潔白と判断された)や、SNS上の発言に対するF1側からの法的対応、過去の女性蔑視的な発言、メルセデス代表トト・ウォルフ夫妻に対する調査とその即時撤回、さらにドライバーに対する言論制限方針の導入など、物議を醸す事案が立て続けに発生している。