一体どうやった? 意図的に1.5秒低下も11周に渡って後続を撃退、マグヌッセンのF1サウジでの走りの秘密
ケビン・マグヌッセンは1周辺り1.5秒もペースを落としたにも関わらず、DRSの援護がない状態で11周に渡って後続車両を抑え切り、僚友ニコ・ヒュルケンベルグの10位フィニッシュをお膳立てする事でハースの今季初入賞に貢献した。
セーフティーカー(SC)導入を機にハースは2024年F1サウジアラビアGPの7周目、マクラーレン、メルセデス、ザウバーと同じように、より上位のポジションを走行していた1名のみをピットストップさせた。
6周目の時点で11番手を走行するマグヌッセンと13番手ヒュルケンベルグとの差は2.709秒しかなかった。タイヤ交換のために必要となる静止時間は3秒弱。ダブルスタックによりタイムをロスする可能性が極めて高かった。
ステイアウトしたヒュルケンベルグは8番手に浮上し、タイヤ交換を行ったマグヌッセンは13番手に後退したが、チームメイトと周冠宇(ザウバー)がタイヤ交換義務を消化していなかったため、実質的には11番手だった。
マグヌッセンはポイント獲得の期待を背負って第2スティントに臨んだが、リスタート直後のターン4でアレックス・アルボン(ウィリアムズ)と接触。10秒ペナルティが科された。
マグヌッセンの入賞の芽が潰えたことで小松礼雄率いるハースのピットウォールは戦略を再考。ヒュルケンベルグのトップ10フィニッシュへと計画を切り替え、マグヌッセンにターゲットタイムを伝えた。
マグヌッセンは21周目に1分34秒923を刻んでいたが、翌周以降はチームの指示に従い1.5秒近くペースを落として走行した。にも関わらず、角田裕毅(RB)を含む後方のライバルを抑え切った。この働きにより4.391秒だったヒュルケンベルグとの差は11周を経て20.74秒にまで拡大した。
十分なギャップを経たヒュルケンベルグは33周目にタイヤ交換を終え、マグヌッセンの前方2秒の位置、11番手でコースに復帰。41周目の周冠宇のピットストップを経てポイント圏内に浮上すると、10位フィニッシュを果たして貴重な選手権ポイントを持ち帰った。
これほどまでにラップタイムを落としながら、マグヌッセンはどのようにして後続のオーバーテイクを防ぎ続けたのだろうか?
F1公式サイトが公開した32周目の2台のVF-24のテレメトリデータからは、マグヌッセンがターン4のアプローチからターン10までの区間でのみ、意図的にペースを落としていた事がうかがえる。
逆に言うと、これ以外の区間でマグヌッセンはヒュルケンベルグと遜色ないペースを刻んでいた。32周目の約2.7秒というヒュルケンベルグとのギャップの大部分は、追い抜きが困難なターン4~10区間で発生していた。
ヒュルケンベルグがピットインを終えた翌34周目にマグヌッセンは、1.6秒ほどペースを上げて1分34秒174をマークした。
インディカー・シリーズで通算6勝を誇るF1公式アナリストのジェームズ・ヒンチクリフは、サウジアラビアGPで最も印象に残ったトップ5ドライバーとして、オリバー・ベアマン、セルジオ・ペレス、アレックス・アルボン、オスカー・ピアストリと並びマグヌッセンを選んだ。
ヒンチクリフはF1公式サイトに寄せた記事の中で、ペナルティが科された事はともかく、マグヌッセンの「低速走行は評価されて然るべき」だと主張した。
「ディフェンシブにドライブすることと、遅くドライブすることにはハッキリとした違いがある。後者の方が遥かに難しい」とヒンチクリフは記している。
「特に今の時代のF1にDRSがある事を踏まえると、全力疾走している時でさえ、F1ドライバーの群れを寄せ付けないようにするのは容易じゃない」
「本来のペースより1〜2秒遅いタイムで走りながらもそれを試みることは、信じられないほどの集中力を要する。ミスを犯さないだけでなく、ポジションを奪われる可能性を排しつつ、ラップタイムを落とす場所と方法を計算しなければならない」
「ハースがこのような方法でマグヌッセンを利用した事がスポーツマンシップに則っているかどうかはさておき、これは巧妙なプランであって、それをコース上でやり遂げたマグヌッセンは本当に印象的だった」