F1メキシコGP:誰も予想だにせぬ”混沌の予選結果”をもたらした要因とは?
エルマノス・ロドリゲス・サーキットでは例年、思いも寄らないドラマが生まれる事が多い。Q2からQ3にかけての変化はあまりに極端であったが、2023年のF1メキシコGP予選もパドックに驚きをもたらした。
直前のFP3でトップ12圏外に沈んでいたフェラーリ勢は今季初のフロントロウ独占を飾り、全てのプラクティスで最速を刻んでいたマックス・フェルスタッペン(レッドブル)は3番手に甘んじた。
また、初日を2番手で締め括り、4戦連続で表彰台を獲得しているランド・ノリス(マクラーレン)はトラブルとミスがあったとは言え衝撃の19番手敗退を喫し、FP1とFP3で2番手を刻んだアレックス・アルボン(ウィリアムズ)は14番手に留まった。
予選後のグリッド・インタビューアーを務めた元インディカードライバーのジェームズ・ヒンチクリフは「プラクティス後の段階で、フェラーリのフロントロウに大金を賭けた人がパドックに大勢いたとは思えない」とポールのシャルル・ルクレールに声をかけた。
フェラーリは週末を通して全く存在感を示せずにいたが、ポール争いの予選最終ラウンドで突如、競争力を発揮した。フェルスタッペンがQ2からQ3に向けて0.362秒しか縮める事ができなかった一方、ルクレールは0.735秒、カルロス・サインツに至っては一気に1.149秒も自己ベストを塗り替えた。
ウィリアムズもフェラーリも予選に向けてのセットアップ変更は僅かだと認めた。この手の状況は大抵の場合、タイヤにその理由を求める事ができるが、今回もこれに該当するように思われる。
ルクレールは「ポールポジションを獲得できるなんて思ってもみなかった。FP3を終えた段階では、かなりのものが欠けているように感じていたのに、新しいタイヤを履いたら何らかの理由ですべてが上手くいったんだ」と語った。
ピレリのデータによると路面温度は予選を通して4度近く低下した。この温度変化の間にタイヤに関する状況を逆転させるしきい値が存在していた事で、ある者はアドバンテージを得て、ある者は劣勢に立たされたというシナリオが考えられる。
高地メキシコシティは平地と比べて空気が約22%薄い。タイヤを路面に押し付けるダウンフォースも同じだけ減少する。故にメキシコではフロントタイヤに熱を入れるのが難しい。
そのため路面温度が高いとこの課題が解消される方向に振れるが、逆にリアがボトルネックとなる。路面温度が下がればフロントがボトルネックとなる一方、リアの課題が解消される方向に振れる。
むろん、フロントとリアのどちらがボトルネック、つまりクルマのポテンシャルを引き出す上での障害になるかはクルマの特性にも左右される。この点においてフェラーリとウィリアムズのキャラクターは対照的だ。
例えばフェラーリはプラクティスを通して最終セクションで苦労しており、リアにボトルネックを抱えていた。だがQ3では突如、セクター3の上位に顔を並べた。路面温度の低下によりリアの課題が解消され、前後のタイヤが理想的な温度バランスを得た可能性が高い。
チーム代表を務めるフレデリック・バスールは「午後のパフォーマンスは主にタイヤによって左右された」と述べ、サインツは「新品ソフトによってリア側でかなりの恩恵があったと思う」と語った。
ウィリアムズが際立った速さを見せたFP3の路面温度は徐々に上昇していき、最終的に48℃ほどに達した。逆に予選は44℃近くまで低下した。フェラーリとは逆に、予選ではフロントに熱が入らなくなって苦戦した可能性が考えられる。
アルボンは「FP3よりコンマ4~5秒遅かったしグリップも大幅に失われてしまった」「午前と午後、気温はかなり似通っているけど、僕らがよく理解できていない何がある。ほんと、混乱するね」と語った。
ピレリのF1タイヤは作動温度領域が非常に狭い事で有名だが、C5コンパウンドは特にそうで、路面温度の僅かな差が大きな違いをもたらす事は珍しくない。
ルクレールは「ウォームアップが本当に重要だ。ここでタイヤを適切なウィンドウに収めるのは凄く難しい」と認める。
空気が薄い事に加えてメキシコの路面はスムーズで、最大レベルのダウンフォース・パッケージを持ってしてなお、ドライバーに氷の上を走っているかのような感覚を与える。
プッシュし過ぎて滑らせてしまえばタイヤの温度は急激に上昇し、もはやそのラップでタイムを改善することは期待できなくなってしまう。
フェルスタッペンは「ここでは少しでもスライドしてしまうと、まとめ上げる事ができなくなってしまう。それがあるかないかで簡単にコンマ2、3秒前後してしまうし、接戦の場合はそれが結果に影響を与える。予選で起きたのはそういうことなんだと思う」と語った。