リカルドは角田裕毅に勝てない、テスト結果は鵜呑みにできないと指摘する大御所…大注目のF1ハンガリー対決や如何に
1996年のF1ワールドチャンピオン、デイモン・ヒルはアルファタウリでF1復帰を果たすダニエル・リカルドの前には超えるべき「巨大な山」が待ち受けており、即座に角田裕毅を打ち負かすのは難しいと考えている。
キャリア通算232戦で優勝8回、表彰台32回、ポールポジション3回を記録した34歳のオーストラリア人ドライバーはニック・デ・フリースの後任として、7月13日のF1第12戦ハンガリーGPでF1に復帰する。
最弱アルファタウリAT04との相性もさることながらヒルは、マクラーレン離脱後の2年を経て2021年にアルピーヌでカムバックした2度のF1王者、フェルナンド・アロンソに言及し、半年以上に渡ってコースを離れていたブランクは想像以上に大きいと指摘した。
ポッドキャスト「F1 Nation」の中で62歳の元イギリス人ドライバーは「ダニエルはスピードを取り戻すために巨大な山を登らなければならない。時間がかかるはずだ」と語った。
「暫くの間、外に出ていたアロンソが復帰した際も楽ではなかった。あらゆるニューロンと末端神経に再び火を入れるには少し時間が必要だ」
ハンガロリンクでの最大の注目ポイントの一つが、リカルドと角田裕毅のチームメイトバトルである事に異論を唱える者は殆どいないだろう。
悪癖強いマクラーレンのハンドリング特性に苦戦し、3年契約を全うできずにウォーキングのチームを去ったリカルドは、レッドブルのサード・ドライバー就任後、ミルトンキーンズのシミュレーターを走らせた。
レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表曰く、これは「完全な大惨事」であったが、勝手知ったる顔なじみに囲まれセッションを重ねていくうち、果敢なドライビングスタイルでファンを魅了したかつてのリカルドを取り戻していったという。
とは言え、AT04のステアリングを握るのは今回が初めてであり、その行方を予想する事は極めて困難だ。それでもヒルは、リカルドが即座に角田裕毅を上回るパフォーマンスを発揮する事は難しいと考えている。
リカルドはハンガリーGP予選で角田裕毅を上回れると思うか? そう問われたヒルは「そうでないことを祈るが、ノーだと思う」と答えた。
「ダニーには華麗な復活を遂げてほしいと思っているし、あらゆる注目を集める放蕩息子であってほしいと思ってる。そうなれば素晴らしいストーリーだ」
「つまり我々は常に、最善を求めているのであって、誰かが苦しむ姿は見たくないものだが、現実には誰かが代償を支払わなければならない」
「ようするに例えば彼がユーキより速ければ、ユーキが苦しむ事になる。昔からそうだ。この厳しいビジネスにおいては二人ともが勝者になる事はできない」
1995年の全日本F3チャンピオンであり、1999年から2012年にかけてアロウズ、ジャガー、マクラーレン、ザウバー、そしてHRTでF1を戦ったペドロ・デ・ラ・ロサも「いずれ分かる事だが、すぐさまユーキより速く走るのは難しいだろう」と述べ、ヒルの意見に同意した。
「ダニエルが自らを強化して更に積み上げていく事は間違いないと思うが、チームは新しく、クルマも彼が乗り慣れたものとは違う」
「それにツノダの速さも評価しなければならない。彼は数シーズン前からこのクルマをドライブし続けてきた」
「だから(リカルドは)一歩一歩進んでいくしかない。彼は間違いなく強さを増していくと思うが、ハンガリーでそんな事が起きるとは思わない」
リカルドがマクラーレン時代の不調から立ち直りつつあるとする根拠の一つにシルバーストン・サーキットで行われたタイヤテストでのパフォーマンスがある。ホーナー曰くそれは、その数日前に行われたイギリスGP予選のフロントロウに匹敵するものだった。
だが、F1史上最も経験豊富なテストドライバー、デ・ラ・ロサはテストでのパフォーマンスは鵜呑みに出来ないと警告する。
「グランプリが終わった後のコースは通常、雨でリセットされなければ、より速くなっているものだ」と52歳の元スペイン人ドライバーは語る。
「例えばアブダビではレースを終えた次の火曜と水曜にピレリ、あるいは若手ドライバーのためのテストが行われるが、そこで記録されるタイムはいつだってポールポジションよりも速い。だから注意が必要なんだ」
デ・ラ・ロサはまた、利用可能なタイヤが無制限にあり、幾らミスをしても問題のない環境下で走るのは、実際の週末で走るよりも「遥かに楽」であり、テストでのリカルドのパフォーマンスには「かなり多くの疑問符がある」と付け加えたが、同時にチーム側にはあらゆる詳細なデータが揃っており、それを「非常に専門的な方法で分析する」とも指摘した。
アルファタウリでの今後を占う上で、シルバーストンでのテスト結果が直接的に役に立たないもうひとつの理由はクルマだ。AT04がグリッドで最下位を争うほどに遅い一方、RB19はシーズン全勝すら見据える最強最速のマシンであり、当時とは大きく異なるとは言え、リカルドのかつての愛機の後継機でもある。
「ダニエルがレッドブルに慣れ親しんでいるという点も指摘する必要がある」とデ・ラ・ロサは語る。
「リカルドは5・6年に渡ってレッドブルと共に仕事をしてきた。挙動を含めたクルマの事、人々、シミュレーター、エンジン関係のツール、そういったものに慣れていて、よく知っているわけだ」
「彼にはレッドブルのクルマのパワーステアリングを握り、それによってフロントタイヤに関わるあらゆるフィードバックを得てきた経験がある。これは現代のF1マシンにおいて極めて重要な事だ」
「彼が復帰するのはレッドブルではなくアルファタウリである点を忘れてはならない。つまり、彼は自分自身をリセットしなければならないという事だ。グリップレベルは違うし、グリップの感じ方も異なる」
「エンジンが同じである事は確かだが、適応しなければならないことはたくさんある。シルバーストンのような楽なテストとはならないだろう。新しい環境の中での自分を見つけ出す必要がある」