カルロス・サインツ(フェラーリ)と健闘を称え合うルイス・ハミルトン(メルセデス)、2022年6月19日F1カナダGP決勝レース後
Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.

新人ラッセルに大敗のハミルトン、一体何故? 引退求める声の一方 メルセデス内部関係者の興味深い指摘

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7度のF1ワールドチャンピオン、ルイス・ハミルトン(メルセデス)は今年チームに加わったばかりの僚友ジョージ・ラッセルに対して大きく負け越しており、好敵手を震撼させるような昨年までの存在感を完全に失っている。

輝きが潰えたように見えるハミルトンに対して早期引退を決断するよう声が上がる一方、チームメイトに対する大差の理由について、興味深い指摘をするメルセデス内部関係者もある。

予選を終えてW13から降りるメルセデスのルイス・ハミルトン、2022年5月21日F1スペインGP予選Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.

予選を終えてW13から降りるメルセデスのルイス・ハミルトン、2022年5月21日F1スペインGP予選

2勝7敗…引き際が来た、とスチュワート

F1第9戦カナダGPを終えて37歳のイギリス人ドライバーは、13歳年下の同郷ラッセルに対し、決勝で2勝7敗と大差で遅れを取っており、ドライバーズランキングでも4位のチームメイトに対して1.4倍近いポイント差をつけられ6位に留まっている。

新加入の若手に全く歯が立たない様子のハミルトンについてジャッキー・スチュワートは、ジャーナリストのヘレン・フォスペロとのポッドキャストとの中で「彼にとっての引き際が来たのだと思う」と語った。

ハミルトンと同じナイト爵を持つスチュワートがそう考える理由は2つある。

一つは3度目のF1タイトルを花道に引退を決意したスチュワートが、アスリートは最高潮の時に惜しまれつつ引退すべきだとの哲学を持っている事、そしてもう一つはハミルトンが既に巨額の資産を築いており、趣味も幅広いため、引退後に困る事はないと考えているためだ。

「私は彼に今、辞めて欲しいと思っている。トップにいた際に去らなかったのが少し悔やまれる」と83歳の先達は語った。

「そうなると思っているわけではないが、それでも、以前やっていたことができなくなるという苦しみを味わうよりは、辞めた方が賢明だ」

「彼には音楽もあるし文化的な素養もある。ファッションが好きだし、服飾業界は彼にぴったりだろう」

「既に莫大な金額を稼いでいるのだから、今後もきっと成功するだろう」

アレックス・アルボン、ダニエル・リカルド、ジャッキー・スチュワート、2021年グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードCourtesy Of The Goodwood Estate Company Limited

アレックス・アルボン、ダニエル・リカルド、ジャッキー・スチュワート、2021年グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード

ハミルトンは目先の結果を求めていない?

何故、これほどまでにハミルトンはチームメイトに対して苦戦しているのだろうか?

自身のドライビングスタイルが今季W13と合っていないのだろうか? それともラッセルがハミルトンのかつての僚友バルテリ・ボッタスとは比較にならない程、高い実力を備えているというのだろうか?

シルバーアローのリザーブドライバーという立場でハミルトンと密接に協力しているストフェル・バンドーンは、アゼルバイジャンGPの週末に興味深い見解を示した。

バンドーン曰く、ラッセルが与えられた状況と条件で最善の結果を持ち帰る事に焦点を合わせているのに対し、ハミルトンは目先のリザルトではなくクルマの改善を優先しているというのだ。

バンドーンはラッセルについて「率直に言って、堅実に仕事をこなし、そして結果を出している」とする一方、「だからと言ってルイスが真っ当に仕事をしていないという事はない」と説明した。

「これまで常勝を重ねてきたために、ルイスは新しい物事に挑戦するなど、かなりダイナミックだ」

「彼はこのクルマのスイッチを起動させたいと思っていて、パフォーマンスがどこにあるのかを理解したいと考えている」

「対してジョージの方は、もう少し数学的だ。彼はエンジニアの話に対してより耳を傾けていて、何事もなければ十分に5位を走れるような最適なウインドウにクルマを持っていこうとしている」

「でもルイスはそうじゃなく、今は兎に角、違う事を試しているんだ。それは今のところ、あまり上手くうまくいっていないけどね」

メルセデス・フォーミュラEチームのストフェル・バンドーン、2019年4月5日Courtesy Of Daimler AG

メルセデス・フォーミュラEチームのストフェル・バンドーン、2019年4月5日

バンドーンの指摘がより意味を持つ事になったのはカナダでのレース後の事だった。

開幕バーレーンGP以来初めて表彰台に上がったハミルトンは「ひょっとしたらシーズン後半はジョージが実験を担当してくれるかもね!」と語った。あたかもこれまでは自分一人で実験的な試みに取り組んできたかのような言い方だった。

つまり現在目にしているハミルトンの負けっぷりの一因は、ラッセルとは対照的に個人としての結果を追求するのではなく、より実験的なセットアップを担当する事でクルマの課題解決に集中的に取り組んできた結果である可能性があるという事だ。

ポーパシングという目下の問題を解決した今、メルセデスはバウンシングという新たな課題に取り組む事になる。次戦イギリスGP以降、両者のパフォーマンスにこれまでと違う傾向は表れるだろうか?