マーカス・エリクソン「ペイドライバーにしては悪くないだろ?」評価されなかったF1時代、そしてインディ500王者に
一部からペイドライバーと揶揄されたF1時代を経て、マーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ)は世界で最も歴史と権威あるモータースポーツ・レースの最高峰、第106回インディ500ウィナーに輝いた。
出走97回でポイントを獲得したのは僅か11回。ベストグリッドは6番手、決勝最高位も8位と、F1時代のエリクソンは競争力に劣るケータハムとザウバーに属していた事もあり、目立った成績を残す事はなかった。
だがインディカー・シリーズに転向して3年目の2022年、世界三大レースの一つに数えられるインディアナポリス500マイルレースで勝利を掴み取り、モータースポーツ史に自身の名を刻んだ。
F1からインディ500チャンピオンへ。挫折、転向、そして成功。チャンピオン会見の一部を以下に紹介する。
Q. F1から転向して、ここで自らのイメージを刷新しました。
タフだったよ。F1では5年間に渡って小規模チームから100回近いグランプリに参戦したけど、そのほとんどが後方を争うような状況だった。F1で後ろの方を走っていてもあまり評価される事はないし、そういうドライバーが評価される事もないんだ。
でもここにいる人達は、おそらくそのことをあまり気に留めていなかったと思う。僕はアメリカのレースを学ぶために、ここでも必死に努力する必要があった。アメリカに住み、インディカー、特にインディ500のチャンピオンになるために人生の全てを捧げてきた。
本当に大変だった。楽じゃなかったよ。それでも僕は懸命に取り組んできた。努力が報われる事を示せて本当に嬉しい。インディ500で優勝できたんだ。ペイドライバーにしては悪くないでしょ?(笑
Q. オーバルに慣れ、インディ500の勝利の感触を得た転換点はどこにあったのでしょうか?
インディカーに来た理由の一つはオーバルだったんだ。自分に合うんじゃないかとずっと思っていてね。僕はハイスピードなヨーロッパのサーキットが好きだった。
F1でのキャリアが終わりに近づきはじめた時、インディカーに転向する事を目標にしたんだ。オーバルに関しては是非って感じだったし、できる限り学びたいと思ってたんだ。最初から楽しめたよ。
オーバルでは経験が何よりもモノを言う事はすぐに分かった。ドライビング、クルマのセットアップ、レース中のマシンの調整など、細かい部分に関しては最初はよく分からなかったから、理解するのに少し時間がかかった。
ヒンチ(ヒンチクリフ)やシュミット・ピーターソン、そしてディクシー(ディクソン)、T.K.(カナーン)、ジミー(ジョンソン)、アレックス(パロウ)と、僕は素晴らしいチームメイト、最高の教師から学ぶことができた。
インディカーで初めて2勝を挙げるなど、去年は僕にとって飛躍のシーズンになったけど、オーバルが弱点なのは明らかだった。
エンジニアのブラッドと一緒に、オフシーズンの間にオーバルに関する分析作業に集中的に取り組んだんだ。大量にレース映像を見たし、オンボード映像も見まくった。スコット・ディクソンのやつなんかをね。細かいところを勉強したんだ。
テキサスでの表彰台は、オフシーズンに積み重ねてきた努力が実を結んだ証だったと思う。5月に向けて大きな自信になったよ。
インディ500では初日からかなりの速さがあった。ほとんどのセッションで10番手以内、5番手以内をキープする事ができた。レースに勝てるだけのクルマがあることは分かっていたんだ。
もちろん、レースそのものはクレイジーだ。勝てるクルマがあっても、それは必ずしも勝てるという事を意味するわけじゃない。兎に角、やってみるしかなかった。
ここに至る道程が苦労の連続だったのは確かだね。
Q. F1では常に好成績を収めてきたわけではありませんが、こうして最大のレースに勝利しました。ドライバーとしての評価が上がったと感じますか? それとも今までのキャリアに対する気持ちが変わりましたか?
このレースで勝つと人生が変わるって話だから、どうなるのか楽しみだよ。
インディカーに転向した際の目標の一つは自分のスキルを発揮する事だった。F1ではそういう機会が少なかったからね。
転向して最初の数シーズンは本当に厳しかった。この手のレースに慣れるには少し時間が必要だし、ご存知の通りインディカーの競争のレベルはワールドクラスだしね。
でも、チップ・ガナッシ・レーシングという素晴らしいチームに恵まれたことでドライバーとして成長することができた。さっきも言ったように、昨年は僕にとって大きな飛躍の年だった。今年は更に上向いている気がする。
ロングビーチではミスによって表彰台を逃す事になった。あれは未だに辛い。でも今は別の次元にステップアップできたような気がするし、どんな場所でも速いクルマがある。
だれもがそう思っているとは思わないけど、僕は今、一段上に挑戦できるレベルに達したように感じている。
Q. F1のレギュレーションに関してですが、もし戻るとしたら見方を改めますか?
いや、僕はここが大好きだしね。そのことについてはみんなに聞かれるんだ。僕はここに引っ越してきてインディアナポリスに住んでいる。できるだけ長くここにいたい。
確かに、ある意味、特にF1に関しては、自分の力を発揮できないことが、かなりきつかったんだと思う。パフォーマンスについて色々と批判を受けると、それを気にしないというのは難しい。大変だったよ。
自信を持つことは凄く大切なことだと思う。F1参戦以前に持っていた自信を取り戻すのに数年かかった。
取り戻したのは去年だった。ある意味、自分自身を取り戻したような気がする。前にも言ったけど、今年は去年よりも更に良くなっていると思う。精神的な部分が大きいような気がする。