空力性能に妥協なし? プジョー、2022年WEC参戦に向け“ウイングレス”のハイパーカー「9X8」を発表
プジョーは7月6日(火)、2022年FIA世界耐久選手権(WEC)での2台体制デビューに向けて最新世代のハイパーカー「PEUGEOT 9X8」を世界初公開した。これは1992年と1993年のル・マン24時間レースで勝利を飾ったプジョー905と、2009年にフランスのクラシックレースで優勝したプジョー908の直接の後継機となる耐久レーサーだ。
2020年9月の参戦発表以来、プジョーはFIAとACOが策定したLMP1の後継となるLMH(ル・マン・ハイパーカー)レギュレーションに基づき、パリ近郊ベルサイユのファクトリーでマシン開発に熱を注いできた。
ハイブリッド・パワートレインを構成するリアに搭載されたICE(内燃エンジン)は500kW(680馬力)を発する2.6リッターV6ツインターボで、今年4月よりベンチテストが繰り返されている。
フロントには200kWのモーター・ジェネレーター・ユニットと7速シーケンシャル・ギアボックスが備えられ、高電圧(900ボルト)高密度バッテリーはプジョー・スポールとトタルエナジーズの子会社であるサフト(Saft)が共同開発する。
そんなハイブリッド・パワーユニットに全輪駆動のトランスミッションを組み合わせたこのプロトタイプで特に目を引くのはリアウイングが見当たらない点だ。ワイドなディフューザーを挟むように配置されたリアライトの上には「We didn’t want a rear wing」と書かれている。
これには「9X8」でのWEC参戦が決まっているケビン・マグヌッセンも「リアウイングがないのは大きな驚きだ。新しい時代の始まりを感じる」と唸った。
リアウイングがモータースポーツの世界に初めて登場したのは1967年のル・マン24時間レースでのシャパラル2Fだとされており、今ではコーナリング性能を高めるために不可欠なエアロパーツの一つとして広く認知されている。
リアウイングを持たないが故に「9X8」は非常に流麗なシルエットを備えているが、プジョー・スポールのWECプログラム・テクニカル・ダイレクターであるオリビエ・ジャンソニによると、これは見た目を重視した結果ではなく、あくまでもパフォーマンス追求の成果なのだという。
「新しいLMHレギュレーションは、性能向上を平準化するために策定された」とオリビエ・ジャンソニは語る。
「マシンのパフォーマンス、特にエアロダイナミクスを最適化する上で常識にとらわれない方法を探ることができた。レギュレーションでは調整可能な空力デバイスは1つだけと規定されているが、リアウイングについては何も規定がない。シミュレーションでリアウイングがなくとも高いパフォーマンスが発揮できる事が分かったのだ」
エアロダイナミクスに関する新しい技術規則が導入された事でデザインチームの貢献度が向上。プジョーはこれを積極的に噛み砕き、既成概念に囚われない新しいジャンルのハイパーカーを生み出した。
ステランティスのモータースポーツ・ディレクターを務めるジャン-マルク・フィノは「これは革新的なステップだ。我々はリアウイングを無くしても問題ないレベルのエアロダイナミクスを達成した」と補足した。
なお「9X8」というネーミングは、ブランドアイコンである「プジョー905(1990年~1993年)」と「プジョー908(2007年~2011年)」に採用された「9」に、モータースポーツにおけるプジョーの電動化戦略を体現する「X」を組み合わせ、208や2008、308や3008、そしてプジョー・スポーツ・エンジニアリング(PSE)の名を冠した最初のクルマ、508 PSEに至るまで、全現行モデルに使われている接尾語の「8」を付け加えたものとなっている。
独創的なプジョー「9X8」は、トヨタの「GR010ハイブリッド」や、スクーデリア・キャメロン・グリッケンハウスの「007 LMH」という既にLMHに参戦している2チームに加えて、同じタイミングでエントリーする予定のバイコレス・レーシングをライバルとしてルマンを含めた2022年のWECを戦う事になる。
クラス | ル・マン・ハイパーカー(LMH) |
---|---|
全長 | 5,000mm |
全幅 | 2,080mm |
全高 | 1,180mm |
ホイールベース | 3,045mm |
パワートレイン | 500KW PEUGEOT HYBRID4 全輪駆動 |
リアドライブトレイン | 500kW(680hp) 2.6ℓツインターボ90度V6エンジン 7速シーケンシャルトランスミッション |
フロントドライブトレイン | 200kW 電動モータージェネレーター 1速減速機 |
バッテリー | 高密度900V |
燃料と潤滑油 | トタルエナジーズ |