
MotoGPとF1の「合同開催」構想、ドルナCEOが言及―その実現可能性と課題
FIA-F1世界選手権の商業権を有する米リバティ・メディアの傘下に、ロードレース世界選手権(MotoGP)が加わったことで、両シリーズによる「合同開催」の構想が持ち上がっている。だが、その実現には多くの課題が横たわっているのが実情だ。
このアイデアについて、MotoGPを運営するドルナスポーツのカルメロ・エスペレータCEOは、その可能性と魅力を認めつつも、現実的には多くの障壁があると指摘する。
Courtesy Of Dorna Sports
ドルナスポーツ社のカルメロ・エスペレータCEO、ホルヘ・ビエガスFIM会長、エルベ・ポンシャラルIRTA会長、2022年8月20日ロードレース世界選手権(MotoGP)オーストリアGP
成功すれば相乗効果も「物理的な壁」
墺専門メディア『Speedweek』によると、エスペレータCEOは「MotoGPを新たな層に届けるという点では、試す価値がある」と前向きな姿勢を示しながらも、「現実的には年間でほんの数サーキットしか対応できない」と述べ、サーキットの物理的条件の違いが最大の障壁になるとの認識を示した。
F1とMotoGPでは、ランオフエリアの設計や縁石の形状・高さ、バリアの配置や路面のグリップ特性など、サーキットに要求される安全基準や仕様が大きく異なる。実際、両カテゴリーが開催されているサーキットは、レッドブル・リンク(オーストリア)やCOTA(アメリカ)、ロサイル(カタール)やカタロニア・サーキット(スペイン)など、ごく一部に限られる。
Courtesy Of Pirelli & C. S.p.A.
フェラーリの2台を先頭にサーキット・オブ・ジ・アメリカズ(COTA)のターン1に飛び込むF1マシン、2024年10月20日(日) F1アメリカGP決勝レース
さらに、F1もMotoGPも人気が高く、近年は多くのイベントでチケットが完売状態にある。エスペレータCEOは、「会場の観客収容力は一夜にして倍にはできない」と語り、観戦エリアを含む施設面での物理的制約が合同開催の大きなハードルになると指摘した。
また、安全基準の観点からラスベガス市街地コースでの合同開催は不可能と明言。MotoGP特有の安全装備「エアフェンス」の設置・撤去にかかる煩雑さにも触れ、「セッション間の設営が極めて複雑になり得る」と、技術面での課題の多さにも言及した。
層の違いと“本来の姿”の尊重が不可欠
両シリーズのファン層の違いという構造的な課題もある。エスペレータCEOによると、特に新興市場では、F1とMotoGPの支持層に大きな乖離があるという。
「MotoGPには毎年足を運ぶ熱心なファンが多く、F1との共同開催によってその層の来場が妨げられる可能性もある」とし、イベント設計にあたってはファンのニーズに細心の注意を払う必要があると強調した。
そして、「最も重要なのは、両シリーズがそれぞれの『本来の姿』を維持することだ」と述べ、合同開催の実現に対して慎重な立場を明確にした。
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イタリアでカート対決するアルファタウリ・ホンダF1の角田裕毅とLCRホンダ・イデミツのMotoGPライダー中上貴晶、2021年9月15日