イタリアGP期間中に行われた撮影セッションに臨むMotoGPチーム代表者と2025年型マシン、カルメロ・エスペレータ(MotoGP CEO)
Courtesy Of MotoGp

F1とMotoGPが同一傘下に統合、欧州委が買収を「無条件承認」

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欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は2025年6月23日、F1の商業権を保有する米メディア大手リバティ・メディアによる、ロードレース世界選手権(MotoGP)運営会社ドルナスポーツの買収を「無条件」で承認した。

これにより、四輪最高峰のF1と二輪最高峰のMotoGPという世界二大モータースポーツが、史上初めて同一資本下に統合される見通しが固まった。過去には2006年、投資会社CVCキャピタル・パートナーズがF1とMotoGPの両商業権の保有を目指したものの、欧州委による独占懸念からMotoGPの売却を余儀なくされた経緯がある。

今回の承認をもって買収手続きは最終段階に入り、本取引は遅くとも7月3日までに完了する見込みとなった。

ドルナの経営陣は引き続き経営に残る一方で、リバティ・メディアが84%の株式を取得する。今回の取引における企業価値は43億ユーロ(約7,269億円)、株式価値は37億ユーロ(約6,256億円)と評価されている。

1年に及んだ調査と欧州委の判断

リバティ・メディアは2024年4月に買収を発表。だが同年12月、欧州委は競争上の影響を精査するため「第2段階」の詳細調査に着手した。焦点となったのは、F1とMotoGPの両放映権が単一企業に集中することで、特定市場における視聴料の上昇や放送競争の減退につながる恐れがある、という懸念だった。

とりわけ、リバティ・メディアおよびリバティ・グローバルの筆頭株主であるジョン・マローン氏の影響力が、ベルギーやアイルランド、オランダの放送市場において競争を阻害する可能性が注視されていた。

だが欧州委は、両者がスポーツ放映権市場において「直接的な競合関係にはない」との結論を下し、価格支配や放送独占といったリスクは生じないと判断。条件付き承認ではなく、「無条件」でのゴーサインとなった。

F1での成功事例をMotoGPへ─リバティの成長戦略

リバティ・メディアは、F1で構築してきた成功モデルをMotoGPに応用し、ファン層の拡大と商業的成長を加速させる方針を示している。同社は2017年にF1の商業権を取得して以降、Netflixの人気ドキュメンタリーシリーズ『Drive to Survive』や、アメリカでのグランプリ開催数増加などにより、F1のグローバル市場価値を大きく引き上げてきた。

リバティ・メディアCEOのデレク・チャンは、「MotoGPは情熱的なファンと強固なキャッシュフローを持つ非常に魅力的なスポーツであり、大きな成長の余地があると確信している。ファンとの結びつきを深め、グローバル市場への拡大を通じて、それを実現していく」と述べた。

MotoGPは現在、22戦を18カ国で開催しており、数億人規模の視聴者を持つが、アメリカ市場においてはF1ほどの存在感を示せていない。リバティは米国市場へのMotoGP本格進出を最重要課題のひとつと捉えており、商業部門の再編を通じてテレビ放映、スポンサーシップ、グッズ販売など収益源の多角化を図るとみられる。

現体制の維持とリバティ幹部の参画

買収後も、1998年からMotoGPのCEOを務めるカルメロ・エスペレータが経営に留まるほか、COO兼CFOのエンリケ・アルダマも続投する見通しだ。

一方で、リバティ・メディアの現取締役であるF1の元CEOチェイス・ケアリーや、元F1商業部門マネージングディレクターのショーン・ブラッチズらが新たに取締役としてドルナに加わる予定だ。

なお、現アプリリアMotoGPチーム代表のマッシモ・リヴォラがエスペレータの後任候補と報じられているが、現時点で体制変更の公式発表はない。

商業モデルの転換点としての意義

今回の買収は、F1とMotoGPという異なる競技体系・ファン文化を持つ2つのモータースポーツを横断的に統合し、商業面でのシナジー創出を目指す試みであるとも言える。

配信戦略、ブランド展開、ファンエンゲージメントといった領域での相互活用が期待されており、世界的なモータースポーツのビジネス構造に大きな変化をもたらす可能性がある。

F1で実績を築いたリバティ・メディアが、MotoGPにどのような「成長モデル」を持ち込むのか。その影響は2025年後半以降、段階的に明らかになっていくことになりそうだ。