加速するメルセデスF1の再編…ウォルフ、今季末で代表退任との報道
新型コロナウイルス感染症の影響でF1カレンダーが凍結される中、舞台裏では、ダイムラーによるメルセデスのF1プロジェクト再編の動きが加速しているようだ。ドイツメディアのF1-InsiderとAuto Bildは28日(木)、トト・ウォルフが今季末を以てメルセデスAMGのチームプリンシパルの座を退任すると報じた。ダイムラーは報道を非難するリリースを出したが、これを明確に否定する事はなかった。
投資家としてF1パドックの中でも飛び抜けた資産を持つトト・ウォルフは、プリンシパルという立場でチーム全体を指揮・監督するだけでなく、30%の株式を保有するメルセデスのファクトリーチームのオーナー兼最高経営責任者でもある。残りの株式を持つのはメルセデスの親会社であるダイムラーだ。
© Daimler AG / トト・ウォルフ
ドイツを代表するモータースポーツメディア2媒体は木曜、トト・ウォルフが契約を更新せずに任期満了でプリンシパルを退任すると伝えた。ただしメルセデスとの関係を精算するわけではなく、故ニキ・ラウダと似たような監査役のような形で役員会への関与を続ける見通しだという。報道によると後任は明らかになっていない。
メルセデスと言えば先日、経営人事によるアストンマーティンとの関係強化が行われたばかりだ。英国のラグジュアリースポーツメーカーは26日(火)に、2013年からAMGの最高経営責任者を務めるトビアス・ムアースをアンディ・パーマーの後任としてCEOに任命したと発表した。
電動化などの開発コスト負担とディーゼル車の排ガス不正疑惑への関連費用で収益が大幅に悪化しているダイムラーは、追い打ちをかけるように新型肺炎の大打撃を受けている。先月発表された2020年第1四半期の決算では、メルセデスを含むグループ全体の純利益は前年同期78%減の1億6,800万ユーロと厳しく、中国方面からの敵対的買収の噂も出ている。
新型肺炎危機以前の段階から業績悪化に苦しんでいたダイムラーが、ワークスとしてのメルセデスのF1参戦計画を根本から見直している事は公然の秘密であり、エンジンサプライヤーとしての活動は継続する一方で、コンストラクターとしての関わりは今季末を以て終了するのではとの見方が強まっている。
F1-Insiderは、ダイムラーが持つメルセデスAMG-F1の株式について、トト・ウォルフとその友人でありアストンマーティン常勤会長のローレンス・ストロールが引き継ぐ可能性があると予想している。つまり、メルセデスF1の株を差し出す代わりに、ダイムラーがアストンマーティン株を受け取るという公算だ。シュトゥットガルトに本拠を構える自動車メーカーは現在、議決権なしのアストン株5%を保有している。
従業員を解雇することなくF1から撤退する事が出来るという点で、メルセデスにとっては一石二鳥の妙策と言える。ローレンス・ストロールにとっても同様だ。V6ハイブリッド時代最強を誇るブラックリーのチームを引き継ぐ事が出来るだけでなく、世界屈指の自動車メーカーをアストンマーティンの後ろ盾にすることが出来る。
そうなった場合に気がかりなのがレーシング・ポイントF1チームだ。Bチーム扱いで保持する可能性もあるが、ブラックリーと合併させる手もあれば、外部に売却という手段も考えられる。
ダイムラーAGの広報担当は、同じく独メディアのMotorsport-Totalに対して「F1からの撤退の可能性についての憶測は、依然として根拠がなく無責任だ。このスポーツはCOVID-19パンデミックの影響への対処および、将来に渡る財政的持続可能性の確保のために適切な措置を取った」と述べ、”根拠の不在”を攻撃したが、”撤退の可能性そのもの”については否定しなかった。
ダイムラーは更にその後、先の一文に「我々はマネージングパートナーであるトト・ウォルフと共に、来たるべき今後数年に渡ってメルセデス・ベンツのワークスチームとしてF1に参戦し続ける明確な意思を持っている」と付け加えた公式のリリースを出したが、これもまた噂を否定するものではなかった。