アストンマーチンにF1参戦初期のレッドブルを見出す空力の名手ダン・ファローズ
空力の要として9回のF1ワールドタイトル獲得に貢献したダン・ファローズは何故、レッドブル・レーシングを去りアストンマーチンへの移籍を選んだのだろうか?
サウサンプトン大学で航空・宇宙工学を修め、1997年にキャリアをスタートさせたファローズはローラ、ジャガー、ダラーラを経て2006年にエアロダイナミクス部門のチームリーダーとしてレッドブルに移籍した。
2010~2013年にかけてセバスチャン・ベッテル及びチームのダブルタイトル4連覇に貢献すると、2014年に空力部門の責任者に昇格。マックス・フェルスタッペンの初タイトル獲得を経て、今年4月にテクニカルディレクターとしてアストンマーチンに移籍した。
挑戦と可能性
移籍は法廷闘争の末に実現した。アストンは昨夏にファローズの引き抜きを発表したものの、レッドブルとの契約は2023年末までとなっていた。両者は契約の早期解除を求めて一件を法廷に持ち込み、最終的に和解へと至った。
今回の一件で大きな注目を浴びた事についてファローズは、UNDERCUTシリーズの一環として行われたインタビューで「本当に恥ずかしいよ。特に、友人から私に関して書かれた記事へのリンクが貼られたメッセージが送られてきた時は尚更にね」と語った。
「僕はこの手の事に興味がないんだ。興味があるのは速いマシンを作ることだけなんだ」
レッドブルが破竹の勢いで勝利を重ねて選手権連覇にほぼ王手をかけている一方、アストンマーチンはウィリアムズとの最下位争いから脱する事ができず、厳しい状況に置かれている。
数々の勝利とタイトルを手にしてきたファローズは何故、F1史上最も多くの成功を収めてきたレッドブルを去る事を選んだのだろうか?
「新しいチャレンジがしたかったからだよ。僕が最もやりがいを感じるのは、何かに挑戦して、それを乗り越えた時なんだ」とファローズは語る。
「ただ挑戦があるから、ってだけじゃない。奮わない状況から壮大なチームへと変化していく過程に携われるチャンスがあるからでもあるんだ」
「アストンマーティンはローレンス・ストロールを筆頭に、チーム全体が大きな野望を抱いている」
「だから、移籍の打診もそうだったけど、私に与えられたリソースも信じられないほど刺激的なものだったんだ」
「『ここにあるF1チームを自分の好きなように変え、好きな人材を集め、好きなように運営し、これを成功させて自分の足跡を残せ』って言われたら、なんて信頼してくれているんだろうって思うし、本当に胸が高まるだろう?」
「私がこのチャレンジに挑むことにしたのは、レッドブルのやり方でも、メルセデスのやり方でも、フェラーリのやり方でもなく、もっと違うやり方、アストンマーティン流のより良い方法があると感じたからなんだ」
レッドブルとアストンマーチンの共通点
ファローズはアストンマーチンが幾つかの点において、F1参戦初期のレッドブルに類似するものがあると感じている。
「レッドブル時代に最もエキサイティングだったのは、チームがジャガーから進化した時だった」とファローズは振り返る。
「限られた予算で運営されていた小規模チームが、突然、より多くの予算とリソースを手に入れたんだ。そして組織のトップに技術畑の人間が立った」
「その一部として、その成功に関わった1人として、チームが成長していく様を経験できたのは本当にエキサイティングだった。道半ばでミスを犯して、それを教訓にしていったことでさえもね」
「アストンマーチンで今、起きていることは、当時のレッドブルで起きたことと本当によく似ていると思う」
チームの雰囲気には共通点があるものの、F1新時代の2022年シーズンに向けて開発された今季型マシンの初期形はそうではなかった。
「初めてAMR22を目にした時、そのフィロソフィーがレッドブルと全く違う事に気がついた」
「私が退社するまでには既に空力開発の約半分が終わっていたから、レッドブルが何をしてきたのか、どのようにアプローチしてきたのかについてはよく理解しているつもりだ」
「AMR22を見て『速くない』とまでは言わないけど、レッドブルが彼らのコンセプトで達成しようとしていた水準のパフォーマンスをアストンマーチンで実現するのは大変だろうと感じた」
「ただ実際には、私が合流した時点で既に、チームは別のデザインソリューションを追求する必要があるという結論に達していた」
アイデアが浮かぶのは決まって「夜中の3時」と語るファローズのアストンマーチンでの仕事は既に、大きな注目を集めている。
ハンガリーGPに持ち込まれたアストンマーチンの”アームチェア”リアウィングは、今シーズンのレギュレーションに新たな解釈を持ち込む興味深いソリューションを備えたものだった。
「あれは私の監督下で行われた開発だが、チームの技術部門の実力と懐の深さを示す素晴らしい例だと思う」とファローズ。
「アストンマーチンのF1スタッフのクリエイティビティは非常に高い。彼らが考え出した様々な創意工夫はクルマの至るところで見られる」
「レギュレーションを最大限に活かすための異なるやり方という点では、ハンガリーで導入したリアウイングもその一つだ」