レッドブル・ホンダを含むF1チームが例年以上にマシンの細部を隠したがる理由
レッドブル・ホンダはシェイクダウンの際の新車「RB16B」の写真を一切公開せず、メルセデスは2021年型「W12」に秘密がある事を公言し、アルピーヌF1はシェイクダウンの画像こそ公開したものの、それらは全て望遠で撮ったドアップ構図のもののみだった。
ウィリアムズはライバルと比較して著しく解像度の低いCGイメージに敢えてノイズを混入させる処理を施し、アルファタウリ・ホンダは大きくトリミングしなければ車体のディティールが確認できないような空撮画像をリリースした。
「新車発表」と称しながらも、如何様にでも細工が可能なレンダリングイメージのみを公開して終わりとするようなローンチイベントは、ライバルチームにトリックを隠すことが戦略的課題の一つとも言えるF1において珍しい事ではない。ただ、今年はどのチームも例年以上に神経をとがらせているように思われる。
何故か?
アルピーヌF1チームのテクニカルディレクターを務めるパット・フライは今季のレギュレーション変更に関して、パフォーマンスへの影響は甚大であるものの、その変更が行われる箇所はクルマの中の極一部であり、それが故に、効果的なソリューションが判別しやすく模倣するのが容易だと指摘する。
増え続けるダウンフォースからタイヤを守るために、今季はタイヤの構造変更に加えてフロアやブレーキダクトの形状、ディフューザー・ストレーキの長さに制限が加えられるなど、エアロダイナミクスに影響を及ぼす幾つかの重要なルール変更が行われた。
メルセデスのテクニカル・ディレクターを務めるジェームズ・アリソンは今回の規約改定について、フロア形状の変更が最も大きな影響を及ぼす要素であるとした上で「見た目上は大きな変化ではないかもしれないが、フロアと後輪との相互作用は車の性能にとって非常に重要な要素であるため、ダウンフォースに大きな影響が及ぶ」と説明する。
パット・フライはベネトンに始まり、マクラーレン、フェラーリ、マノーと様々なチームを渡り歩いてきたベテランだが、曰くこうしたエリアは過去に在籍したどのチームにおいても「風洞内において、たわんだタイヤ形状を正確にモデル化できない領域の1つ」であり、実地走行で試してみないことにはその効果を測るのが難しいのだという。
そのため、各チームがポケットの中に隠している解決策は幾つもあり、開幕バーレーンGPを含む序盤数戦では各々のチームが無数のテストアイテムを持ち込んでくるはずだと予想する。要は誰も”本命”のソリューションを見いだせてない状況、というわけだ。
パフォーマンスは個別的ではなく全体的に決定される。メルセデスが幾ら速いとは言え、アルファロメオがそのフロントウイングだけを模倣しても同じ様にパフォーマンスが上がるわけではない。パーツの一部をコピーするにしても、そのパーツが全体の中でどのように機能しているのか、その背後にある思考を理解できなければ上手く機能させる事はできない。
だがパット・フライが「変更箇所が限定的であるため、効率的なソリューションが判別しやすい」と指摘する事から伺えるように、”速攻コピー戦略”が効果的に作用する可能性があるようだ。今シーズンはフロア終端、ブレーキダクトのウイングレット、ディフューザー・ストレーキのディティールを可能な限り隠すことが競争優位に立つためのキーポイントの一つとなる。
何しろ、現在のF1チームはライバルのテクノロジーを僅か1週間で自車に落とし込む事ができるのだというから驚きだ。競争相手のマシンに興味深い変更が確認されると、その2日後には風洞でテストを行い検証するのだという。
今シーズンは週末3回のフリー走行が全て1時間となる。従来と比べて3割減だ。シーズン途中でキャッチアップするのは難しい。開幕まで上手くトリックを隠し切れれば、上手く逃げ切れる可能性が高まるが果たして。。
なお今季は日本のF1ファンの積年の願いが叶う事となった。これまでシーズン前テストが日本で放送される事はなかったが、2021年シーズンはDAZNが全セッションを日本語解説・実況付きで完全生配信する。更に2ヶ月無料キャンペーンも同時開催だ。