無観客で行われた第88回ル・マン24時間レースが9月20日(日)フランス現地午後2時半にチェッカーフラッグを迎え、TOYOTA GAZOO RacingのTS050 HYBRID 8号車がレベリオン・レーシングを抑えて3連覇を成し遂げた。

ポールポジションから前半を支配していた僚友7号車は、深夜にメカニカルトラブルで大きく後退して悲願の勝利を逃したが、終盤に追い上げて3位表彰台を獲得。この結果、トヨタが最終戦を待たずに2019-2020年シーズンのチームチャンピオンを確定させた。

村田久武WECチーム代表は長きに渡ったレースを振り「ル・マン24時間レースへの挑戦というのは、真の耐久性が求められる実に困難なものであると、今回改めて実感しました」と述べると共に、不遇のトラブルのために勝利のチャンスを失った7号車の悔しさは「チーム全員の悔しさ」だと語った。

「我々は、TS050 HYBRIDでル・マンを3連覇するという夢に向かって確固たる決意をもってレースに臨み、チームワークで序盤で8号車に降りかかった逆境を乗り越えました。チーム全員が素晴らしい仕事をしてくれました。しかしながら、1-2フィニッシュを狙っていたのもまた事実です」

「素晴らしいパフォーマンスを発揮してくれた7号車のドライバー、メカニック、エンジニアには本当に申し訳なく思います。我々は一つのチームです。彼らの悔しさは、チーム全員の悔しさでもあります」

「我々が今年のル・マンで経験した嬉しいこと、悲しいことをファンの皆様に現場で直接分かち合うことはできませんでしたが、来年は直接お会いすることができることを願っています」

「レベリオンの皆様、準優勝おめでとうございます。何度もプッシュされました。本当に尊敬すべきチームです。また、このような世界的な困難な状況にありながらも、我々にル・マンに挑戦する機会を与えてくださったACOにも感謝しています」

歴史に名を刻んだ中島とブエミ

全員が元F1ドライバーというセバスチャン・ブエミ、中嶋一貴、ブレンドン・ハートレーが駆る8号車は、2位レベリオン1号車に5周差をつけて勝利を挙げ、7号車を逆転してFIA世界耐久選手権（WEC）のドライバーズ選手権で首位に立った。

ブエミと中嶋一貴は3年連続のルマン制覇によって、97年に渡るル・マンの歴史の中で過去7人しか成し得なかった3連勝ドライバーに加わった。またハートレーにとっては、ポルシェ時代の2017年以来2度目となるルマン制覇となった。

だが、決して順風満帆のレースではなかった。

8号車は序盤にパンクやブレーキダクトのダメージといったトラブルに見舞われ、予定外の2度のピットストップと10分間の修復などでタイムを失った。だが、諦めることなく戦い続けて、3年連続でアンカードライバーを務めた中嶋一貴がフィニッシュラインをトップで通過した。

中嶋一貴はサルト・サーキットにおける最も成功した日本人ドライバーとしての地位を確固たるものとした。

レースを振り返った中嶋一貴は「TS050 HYBRIDでの最後のル・マンを3連覇という形で勝てたのは格別です。浮き沈みの激しい展開でしたが、7号車のクルーも含めて全員が本当に素晴らしい働きをしました。どういうわけか、僕らは他の車よりも運に恵まれているようです。7号車がトラブルに見舞われたときは、チームとしてレースに勝つことが全てでしたので、その後のレースは本当にタフでした。それだけに、このチームの一員として勝利を達成できた事が本当に嬉しいです」と語った。

またも夢破れた小林可夢偉の7号車

ポールシッターのマイク・コンウェイ、小林可夢偉、ホセ・マリア・ロペスがドライブした7号車は、悲願の初優勝を目指して中盤まで首位を快走していたものの、12時間経過直後の午前3時前に排気マニホールドの破損に見舞われ、30分をガレージで過ごしクラス最後尾にまで後退した。

レース復帰後、追い上げを図った7号車だが、フロアにダメージが及んだことで空力性能が低下していた。だがレベリオン3号車が残り1時間というところでクラッシュし、ピットでの修復を余儀なくされたことで3位に浮上。優勝の8号車から6周遅れながらも、2位のレベリオン1号車とは1周差での3位表彰台を勝ち取った。

3度目のポールによってルマン最速の称号を確固たるものにしながらも、またも夢破れた小林可夢偉は「3位は僕らが望んでいたものでも、予想していたものでもありません」とレースを振り返った。

「今年もル・マンで速さを示す事ができましたが、レースというものは残酷です。自分たちはよく戦ったと思いますし、チームも深夜に迅速な作業でマシンを修復してくれました。今回のトラブルは初めての事で、それがこうした重要なレース中に起こったのは本当に不運でした。ですが、ル・マンではこういうことも起こりえます。8号車とハードワークで2台揃っての完走を成し遂げたチームを祝福します」と語った。

コンウェイもまた、可夢偉同様に失望を隠さなかった。

「ル・マンの勝利の女神は今年も僕らに微笑んでくれなかった。チームが3連覇を達成したことは喜ぶべきことだけど、僕ら7号車からすると、また勝利を逃してしまったような感じだ。それに、チャンピオン争いで逆転されてしまったことも残念に思う。ひとつのレースで2つの大きなダメージを負ってしまったのだから」

「ル・マンでの僕らは、毎回何かに邪魔されているようだけど、8号車の勝利はチームにとって素晴らしいことだし、彼らの戦いはそれに値するものだった」

嬉しさよりも悔しさが勝る、と豊田社長

3連覇という形で伝統のル・マンを制しながらも、トヨタ自動車株式会社の豊田章男代表取締役社長は「嬉しいという気持ち以上に悔しさの方が大きい」「まだまだドライバーの気持ちに応えるクルマづくりが出来ていない」と述べ、7号車のドライバー達への謝罪を口にした。

「ル・マンでの3連覇を達成することができました。多くのファンの皆様の声援、多くのスポンサーパートナー様の支え、そして多くのスタッフの努力で成し得た3連覇です。大きなトロフィー手にすることができ、とても嬉しく思っています」

「しかし、それ以上に大きな悔しさを感じているというのが正直な気持ちでもあります」

「勝利した8号車もノートラブルで走り切れた訳ではありません。レース前半にブレーキトラブルでピットインを余儀なくされ、一時は順位を落としてしまいました。7号車のマイク、ホセ、可夢偉の3人には、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです」

「可夢偉は”忘れ物を取りに行ってくる”と言って、この決勝に向かっていきました。ここ数年の彼のル・マンを見ていれば、そんな気持ちでいることも、よく分かります。マイクもホセも、きっと同じ気持ちだったのだろうと思います」

「可夢偉は決勝前、私に”このプレッシャーを楽しんで、クルマ、メカニック、エンジニアを信じて、しっかり24時間走り抜けます”とメッセージを送ってくれました。ですが我々は、彼のクルマにトラブルを発生させてしまいました。そのせいで、また彼らは忘れ物を受け取ることができませんでした。本当に申し訳なく思います」

「我々トヨタは、WRCでチャンピオンを獲ったり、ル・マンでも3回勝つことができるようになりました。しかし、まだまだドライバーの気持ちに応えるクルマづくりが出来ていないことを、今回も痛感しています」

最終戦待たずにチームタイトルも、個人戦は混戦

2019-2020年シーズンのWEC第7戦として開催された伝統のル・マンを1-3で締め括ったトヨタは、チームタイトル争いにおいて2位のレベリオンに逆転不可能な57点差をつけ、最終戦を待たずに2014年、2018年-2019年シーズンに続く3度目となるチームチャンピオンを確定させた。

8号車のドライバーが大量ポイントを加えたことで、ドライバーズタイトル争いは11月14日にバーレーンで開催される2019－2020年シーズンの最終戦に持ち越される事となった。

逆転の首位に立った8号車と2位の7号車は僅か7ポイント差であり、8時間レースのバーレーンでは最大39ポイントの獲得が可能。両者はタイトルを懸けて最終戦に臨む事になる。

有終の美を飾ったTS050 HYBRID

来季ル・マン・ハイパーカー（LMH）規定の導入に伴い、1000馬力を誇る4輪駆動レーシングカーのTS050 HYBRIDは、ル・マンでの有終の美を飾る事となった。

2012年仕様の第1世代のLMP1ハイブリッド車両に対して燃料使用量が35%も削減されたにも関わらず、ラップタイムは1周あたり約10秒もの向上を見せ、4年連続のポールポジションと3年連続勝利の中で、予選及び決勝レース中のコースレコードを刷新。サルト・サーキットでの効率とパフォーマンスの両面で新たなスタンダードを打ち立てた。

決勝スタート前には、ル・マン直系のハイパーカー「GR Super Sport（仮称）」が初めて公に公開された。開発中のモデルをベースにオープン仕様にカスタマイズされた車両は、アレックス・ブルツのドライブの下、サーキットを1周するデモランを行った。

WEC第7戦 ル・マン24時間 決勝結果（LMP1クラス）