フェルスタッペンはベッテルより”完成度”が低い、とレッドブル…4度のF1王者に今も及ばぬ能力とは?
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レッドブル・レーシングのレースエンジニアリング部門の元責任者、ロッキーことギヨーム・ロケリンは、マックス・フェルスタッペンよりもセバスチャン・ベッテルの方が全方位的に優れた「完成されたドライバー」だと考えている。
それはこれまでに勝ち取ったワールドチャンピオンシップの数の違いから来るものではない。2度のタイトルを手にしてなおフェルスタッペンは「技術的な面」においてベッテルよりも完成度が低いという。
今年4月を以て”GP”こと、ジャンピエロ・ランビアーゼに責任者としての役割を引き継いだロケリンは、デビッド・クルサードのレースエンジニアを務めた後、2009年から2014年までベッテルのレースエンジニアを務め、4年連続のダブルタイトルに貢献した経験を持つ。
若手ドライバーの監督役として今もレッドブルに籍を置くロケリンはポッドキャスト「Les Fous du Volant」の中で「我々の所に来た時のセバスチャンはマックスよりもドライバーとして完成されていたと思う」と語った。
「プロとしてのレベル、技術や仲裁といって点において彼は、彼のアイドルだった”(ミハエル)シューマッハ・スクール”で鍛えられた」
「多くの質問を投げかけ大量のメモを取るなど、我々のチームに来た時から彼は本当に徹底していた」
「幾つものタイトルを獲得したのは偶然ではない。技術的にも精神的にもより準備が整っていた」
「もしかするとマックスの方がより天性の才能があったのかもしれない。実際、彼はそれを拠り所としていた。でも最も完成されていたのはセバスチャンの方だった」
ロケリンによると、レッドブル昇格時のみならず、今もなおフェルスタッペンはテクニカルな部分でベッテルに対して及んでいない。
これは最高技術責任者のエイドリアン・ニューウェイやテクニカルディレクターを務めるピエール・ワシェがフェルスタッペンのフィードバック能力の高さを評価している事を踏まえると実に意外な事実だ。
おそらくフェルスタッペンのフィードバックは週末のクルマのセットアップという点でエンジニアを助けるものなのだろうが、ベッテルのそれはマシン開発そのものに直結するような更に踏み込んだものなのだろう。
かつてフェラーリ時代の上司、マウリツィオ・アリバベーネは、細部に対して徹底的に拘るベッテルに対し、マシン開発を含めた舞台裏ではなくドライビングに集中するよう檄を飛ばす場面があった。
モータースポーツのキャリアを本格的に歩み始める前に大学で機械工学を学ぼうと考えた事もあるベッテルは、現役引退後のメカニックへの転向を仄めかすなど、クルマの技術的な側面に強い関心を持ち合わせており、テストドライバーとしての経験も豊富だ。
対してフェルスタッペンは父ヨスによりクルマの技術的な側面について叩き込まれたものの、F1到達前のシングルシーターでの経験は僅か1年で、ベッテルよりも2年以上幼くして17歳165日でF1デビューを飾った。
「マックスは常に上司のように振る舞う。自信に満ち溢れ、自分が何を望んでいるかを把握しており、本当に率直だ」とロケリンは語る。
「だが正直に言えば、マックスは我々が共に仕事をしてきた他のドライバーに比べると技術面で弱さがある。まだ成長の余地はかなりあると思う」
「そのスタンスやリザルトから言って彼はリーダーに相応しい。だが技術的な観点やマシン開発という点においては改善の余地がある」
「若くしてF1デビューを果たした彼は大きな野心を秘めていたが、それに伴うほど成熟していなかった。トロロッソでキャリアをスタートさせた際は経験も乏しかった」
課題があるとは言えロケリンは、ルイス・ハミルトン(メルセデス)との激闘を経て一皮むけたフェルスタッペンの成長ぶりに感銘を受けている。
「最も印象的だったのは昨年見られたような決死の貪欲さが少し消えた点だ」とロケラン。
「成熟し、一貫性も出てきた。チャンピオンシップを勝ち取ったことで自信が深まり、これまでとは違うドライビングを見せている」
「必ずしも一つのきっかけで、ということではない。幾つかの段階があった」
フェルスタッペンがベッテルに及ばず、更なる成長の余地があるというのはある意味朗報かもしれない。
レッドブルは2021年の財務規定違反により、風洞及びCFDの稼働時間が10%削減された。今後12ヶ月間に渡って続くこの制裁措置によるマシン開発への影響は、2023年の「RB19」より2024年の「RB20」の方が大きいものと予想される。
程度の差こそあれ競争力低下の可能性は否めないが、フェルスタッペンには自らの成長によってこの損失を埋め合わせるポテンシャルがある。
フェルスタッペンについてロケリンは「彼は常に才能に溢れていた」と指摘する。
「彼がタイトルを勝ち取るようになった事で一つの時代が始まったというのは必ずしも的確ではない。それは彼が初めてレースで優勝した時から始まっていた」
「もちろん、マシンのクオリティという要素もある。我々はこれからもタイトルを勝ち取りたいと願っている。才能に見合うだけのクルマを作れるかどうかは我々次第だ」