一端が判明した「ルノーF1エンジン終焉計画」の詳細・背景と実現の見通し、アルピーヌチーム売却の可能性
かねてから噂されていたルノーのF1エンジンプロジェクト終焉の可能性が公式に確認された。カスタマーチームと比較して競争上の優位性があるとされるワークスのステイタスを捨てる理由はどこにあるのか? 再び高まるチーム売却の可能性は如何ほどなのか?
光明見えないルノーの挑戦と戦略変更
2026年の次世代パワーユニット規定の発表はルノーにとって、現行のV6ハイブリッド・ターボにおける失敗に終止符を打ち、レッドブルと共に支配的な時代を築いたV8エンジン以来の栄光を取り戻すためのスタートラインになるはずだった。
2014年に1.6リッターV6ハイブリッド・ターボが導入されるとルノーは競争力と輝きを失い、レッドブルはホンダに乗り換えて大成功を収めた。一方のルノーは2016年にワークスチームを復活させたものの、3年前のハンガリーでの1勝を除いて、タイトル争いはおそか優勝争いにも絡めておらず下位に沈み続けている。
F1ベルギーGPの初日に8月末での退任を発表したアルピーヌのブルーノ・ファミン代表は、ルノーのF1への関与が断続的だったこと、2009年末にワークスチームを売却してエンジンサプライヤーに転向し、売却から6年後にエンストンのチームを買い戻すなどの「チームの複雑な歴史」が長年に渡る期待外れのシーズンの理由の1つだと指摘した。
ホンダやフェラーリ、メルセデスら他のメーカーに対する遅れを取り戻すべくファミンは、2年前に導入されたPU開発凍結措置の緩和を求めたものの認められず、その後、2026年の新時代に焦点を切り替えた。
2026年に向けたPU開発部門、ヴィリー=シャティヨンの仕事ぶりについてファミンは「誰もが素晴らしい仕事をしている」と言い、現在のルノーPUは「2014年以降で最も改善されたエンジンの1つだ」と強調する。
「ヴィリーで進められている2026年型エンジンの作業は素晴らしい。我々は本当に高い目標を設定したが、これを達成できると確信している。ダイナモで得た数値は素晴らしく良好だ」
それにもかかわらず、ルノーは自社製F1エンジンの開発を終了し、少なくとも2026年にはカスタマーチームに戻る見通しが固まりつつある。この一見、理解しがたい決定についてファミンは、PUの競争力不足が理由ではないと主張する。
新プロジェクトの詳細と自社開発を放棄する理由
ファミンによればルノーとアルピーヌは、ヴィリーのスタッフを市販製品の開発に充てることを計画している。これはF1エンジン開発の範疇を遥かに超えた「アルピーヌ・ブランドとしての変革プロジェクト」だという。
アルピーヌは今後数年間で最先端技術を搭載した7つの新しいロードカーを開発するという野心的なプロジェクトを掲げており、これに関連してフランス以外の世界各国でブランドを構築・認知させたいと考えている。
この計画はベルギーGPを週末に控えた今週火曜日に、ヴィリーおよび、アルピーヌF1チームの拠点であるエンストンの両従業員に対して説明が行われた。
ファミンは「今週初めにヴィリーのスタッフ代表に提示されたプロジェクトは、リソースを一方からもう一方へと再配置するというものだ。ヴィリーで行われているF1パワーユニット開発のリソースとスキルを、ブランドの新技術や新製品の開発に専念させる」と説明した。
このプロジェクトを実現させるために、自社製PUの開発を中止して他のメーカーからパワーユニットを購入する必要があるというのがファミンの言い分だ。
現行のエンジン規定が導入された当時、メルセデスはパワーユニットとシャシーを内製化することで圧倒的な優位性を発揮した。次世代の覇者となる可能性を秘めたその優位性をルノーはなぜ放棄するのだろうか?
「統合開発には幾つかのポテンシャルがあるが、結局のところそれは机上の空論だ。なぜなら今や、すべてのPUメーカーはプロジェクト初期から各チームと緊密に協力しており、シャシーとPUの統合は驚くほど最適化されている」とファミンは説明する。
「フェラーリやメルセデスのエンジンを例にとれば、すべての統合、すべてのパッケージングが既に非常に優れていると確信している」
最終決定と労働法の遵守
この「変革プロジェクト」を成功させるには現在ヴィリーで働く従業員の雇用を守ることが最低条件となる。ルノーはとりわけ「厳格」なことで知られるフランスの労働法を尊重しなければならない。
ファミンは「解雇は一切ない」と強調する。
「フランスでは労働組合との厳しい社会的プロセスを遵守しなければならず、そのプロセスが完了するまで決定を下すことはできない。そのため、幾つかのPUメーカーと話をしているが、このプロセスが終了するまで契約を結ぶことはできない」
あまり現実的とは思えないが、早ければ2025年にもエンジンの切り替えが行われる可能性があるとも噂されている。いずれにせよ鍵となるのは労働組合側の反応だろうが、ファミンは全てのプロセスが滞りなく完了すると考えている。
「私は遅れが発生するとは考えていない。このプロセスは数週間かかるが、それでもかなり迅速に進むだろう。義務付けられた全ての手順を順守しており、適切に進まない理由はない」
チーム売却の可能性
外交手腕が高く評価されてきた元ルノーF1代表のフラビオ・ブリアトーレがF1担当エグゼクティブアドバイザーとしてチームに加わり、その直後にアルピーヌのカスタマーチーム化計画が発覚したことから、一連の動きはエンストンのチーム売却に向けた一歩と見る向きもある。
売却交渉を任せるのにブリアトーレ以上の適任は存在しないというわけだ。
ルノーはレッドブルが渇望したシャシー&PUの統合開発基盤を自ら手放そうとしている。これによりパフォーマンスの理論的上限値が下がるのは疑いないが、将来的に買い手を探す場合、こちらの方が遥かに交渉が容易になることは確かだ。
しかしながらルノーグループのルカ・デメオCEOと同じようにファミンもまた、「F1プロジェクトはアルピーヌブランドにとって引き続き重要なプロジェクトだ」と述べ、売却の可能性を否定した。
「F1を通してブランドの認知度をグローバルに向上させたいと考えていることに変わりはない。このプロジェクトはリソースを再配置してブランドをより発展させることを目的としており、その基盤としてモータースポーツ、特にF1が重要な役割を果たすことになる」
アルピーヌは既にチームの24%株を投資コンソーシアムに売却しているが、依然として手元には約1500億円以上相当の株が残っている。真にリソースの再配置を考えているのであれば、成果に乏しい価値のある資産を売却するのは理にかなっているように思える。