F1フランスGP予選を終えてヘルメットを脱ぐレッドブル・ホンダのピエール・ガスリー
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レッドブル・ホンダ、ガスリー降格人事の理由は「オーバーテイク能力不足」

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真夏の稲妻が轟いた2019年シーズンのF1サマーブレイク。レッドブル・レーシングのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコが、ピエール・ガスリーのトロロッソ・ホンダ降格と、アレックス・アルボンのレッドブル・ホンダ昇格の理由を明かした。

シーズン前半最終戦となったF1ハンガリーGPを終えて、ヘルムート・マルコとクリスチャン・ホーナー代表は、ガスリーが年末までレッドブル・ホンダに留まると公言していたものの、夏休みに入るやいなや、チームは後半9レースにおいて、ガスリーではなくアルボンをマックス・フェルスタッペンのチームメイトとする事を発表した。

予兆はあった。ヘルムート・マルコはハンガロリンクでのレースを終えて、独メディアからの「ガスリーは今年の夏の間、(解雇を告げる)電話を気にする必要があるか」との質問に対して、明確に「No」とは答えなかった。

驚きはあれども、想像だにしない人事発表ではなかった。ガスリーは悪い意味で一貫してチームメイトに大きく遅れを取り続け、チャンピオンシップでフェルスタッペンに対して118点ものビハインドを抱えていた。フェラーリとのコンストラクター争いを考慮すれば、博打に出るだけの価値がある事は間違いない。

配置転換の本当の理由は何か?ヘルムート・マルコがAuto Bildのインタビューの中で明らかにした内容によると、それはガスリーのオーバーテイク能力の欠如にあるという。

レッドブルの人事権を一手に掌握するジュニアチームの総責任者は、トラフィックに捕まった際にガスリーがポジションを上げられず、他チームの戦略によって、かえって順位を失う状況にある事が降格の理由だと説明。だからこそ「我々は対処する必要に迫られ、アレックスにシーズン末までのチャンスを与えることにした」と述べた。

ヘルムート・マルコは更に、ガスリーが残りのシーズンをトロロッソから出走する事に触れた上で、ラインナップ異動の際のリリースにあったように「誰が来年のマックスのチームメイトとなるべきかを見定めていく」とも語った。ちなみにこの文脈の中で、ドイツGPで3位表彰台の快挙を成し遂げたダニール・クビアトの名は出ていない。

ヘルムート・マルコは1999年以来、レッドブルのドライバー育成プログラムを統括し、過去に幾人もの若手を解雇・放出してきた。その中にはセバスチャン・ブエミやジャン・エリック・ベルニュと言った、後のフォーミュラEチャンピオンや、現在マクラーレンでガスリーを脅かすパフォーマンスを示しているカルロス・サインツらがいる。

いずれの面々も、世界最高峰の舞台で走るに見落とりしない能力を持っているが、それでもヘルムート・マルコは契約解除を決断した。何故か? 評価能力に問題があると指摘する事も出来るだろうが、セバスチャン・ベッテルやダニエル・リカルドを発掘・育成してきた事を考慮すれば、その指摘は妥当とは言い難い。ましてや、当時16歳だったフェルスタッペンを大抜擢した事実を踏まえれば、ヘルムート・マルコの能力に疑いを投げかける事は難しい。

ホンダF1の山本雅史マネージング・ディレクターはレッドブルについて「勝つことが常に議論の中心にあるチーム」と評した。これになぞらえば、レッドブルの人事評価軸が「そのドライバーが将来的にチャンピオンを獲得するに足る才能を持ち合わせているかどうか」と考えれば、ヘルムート・マルコの容赦ない人事裁定にも納得がいく。

では、ガスリーは「王者の素質なきドライバー」と判断されたのだろうか? 現時点ではその可能性が高いと言えよう。だが、かと言ってこれで全てが終わったとも言い難い。どん底に突き落とされて這い上がってくる者は強い。レッドブルが科した”最後の試練”にどう対処するかで、ガスリーの今後は大きく変わる事になるだろう。

ラインナップ交代のアナウンスを経て、当然の事ながら、ファエンツァのチームはガスリーのカムバックに期待感を示すコメントを発表。ガスリー当人は本件について語ることを禁じられているものの、ガスリー側のマネジメントはメディアを通じて「残り9戦で真価を証明してみせる」とポジティブな姿勢をアピールしている。

ルーキーながらも印象的な活躍を示し、ポテンシャルの高さを匂わせているアルボンが、来季もレッドブル、あるいはトロロッソで走る可能性は極めて高い。だが、シーズン後半での戦いぶり如何によっては、ガスリーないしはクビアトが放出される可能性は否定できない。その場合、誰が次のチャンスを得るのか?

ダン・ティクタムに代わってジュニア入りを果たしたパトリシオ・オワードを評価するには時間が足らず、かと言って他の若手ドライバーに目立った候補はいない。今回の人事交代、捉えよう如何では、山本尚貴にとってはチャンスと言えるのではないだろうか。