レッドブル・ホンダのクリスチャン・ホーナー代表とメルセデスのトト・ウォルフ代表
Courtesy Of Daimler AG / Red Bull Content Pool

PUの合法性を疑うレッドブル、ライバルの”気晴らし”を歓迎するメルセデス…次なる場外戦の舞台はプレナム周り

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2021年シーズンのチャンピオンシップ争いはV6ハイブリッド時代としては最も熾烈であり、その争いの舞台はコース上に留まらず、ウイングの合法性やピットストップ手順の変更など、開発やトラック上での作業に関するルールにまで及んでいる。

そんなレッドブル・ホンダ対メルセデスの場外戦の次なる舞台はパワーユニットだ。英国ミルトンキーンズのチームはシルバーストーンでのF1イギリスGP以降のシルバーアローの加速力に疑いの目を向けている。

2021年7月17日のF1イギリスGPスプリント予選後のパルクフェルメに停まるレッドブル・ホンダとメルセデスのF1マシンCourtesy Of Daimler AG

2021年7月17日のF1イギリスGPスプリント予選後のパルクフェルメに停まるレッドブル・ホンダとメルセデスのF1マシン

シルバーストーンではルイス・ハミルトンとマックス・フェルスタッペンの決闘に注目が集まったが、その裏ではコプス・コーナー(ターン9)へと至る低速のターン7からの加速でW12が大幅にタイムを稼いでいた事が明るみとなった。

更に次戦ハンガリーGPでもメルセデスがストレートで優位性を発揮していた事から、Auto Motor und Sportがこのトリック及びその合法性を疑問視するライバルチームの存在を真っ先に報じた。

報道によるとメルセデスはいずれのコースにおいても低速からの立ち上がりで印象的なスピードを示していた一方、ストレートエンドでは必ずしも速くはなかったと言う。そこで疑いの目が向けられたのがインタークーラーとプレナムチャンバーだった。

メルセデスは2021年型のF1パワーユニット「W12 E Performance」の開発に際し、ICE(内燃エンジン)のパワーアップのためにプレナムの開発に多大な労力を注ぎ込んだ。その結果、同PUを搭載するメルセデスW12やアストンマーチンAMR21のエンジンカバーにはこれを収めるための大きな”膨らみ”が設けられている。

メルセデスの2021年型F1マシン「W12」と2020年「W11」の比較画像-ボディーワークcopyright Formula1 Data

メルセデスの2021年型F1マシン「W12」と2020年「W11」の比較画像-ボディーワーク

ターボチャージャーのコンプレッサーで圧縮された空気はインタークーラーで冷却された後、プレナムを経てエンジンへと送られる。プレナムは一時的に空気を溜める事でエンジンに安定した空気を送り込む役割を持つ。サージタンクとも呼ばれる。

技術規則の第5条6項8は「プレナム内の空気温度は、周囲温度よりも10℃以上(※ラップの平均値として)高くなければならない」と定めているが、ライバルチームはメルセデスが当該規定値よりも温度が低い空気をエンジンに送り込んでいると疑っている。

空気は温度が高いほど体積が大きくなる。質量が変わらずに体積が増えれば密度は小さくなる。逆に、より冷えた空気は温かい空気よりも密度が高くなる。密度が高ければその分だけより多くの燃料を燃やす事が可能となり、ひいてはパワーアップに繋がる。

AMuSによると、メルセデスはインタークーラーとプレナムとの間のルーティングを巧みに利用する事で冷えた空気を取り出し、これを利用する事で加速時に最大20馬力相当の出力向上を達成しているという。

あるいは、メルセデスのプレナムには過冷却液体で満たされたエリアがあり、これを利用して加速時にブーストを得ているとの指摘もある。いずれにせよ、それらは短時間しか機能しないため、トップスピードという指標にこれらトリックのアドバンテージが現れる事はない。

実際にどのような仕組みであるにしろ、プレナム内部の温度は国際自動車連盟(FIA)がセンサーで監視しているため不正は困難だが、レッドブルとフェラーリはセンサーの”取付け位置”に着目しているようだ。つまり、センサーが取り付けられている以外の箇所の温度は既定値を下回っている…そう疑っているのだという。

チーム間による技術競争という側面が強いF1においては、ライバルチームに関するテクニカルな嫌疑が発生した場合、統括団体のFIAに対してルールの解釈や合法性について問い合わせを行う事が慣例となっている。

伝えられるところによるとレッドブルは既にFIAに問い合わせを行ったとされているが、クリスチャン・ホーナー代表はオランダGPの初日金曜に次のように述べるに留め、詳しい言及を避けた。

「技術面に関して不明な点を明らかにするよう求める事は、すべてのチームの間で継続的に行われている事であって、大抵の場合それは、統括団体から見て解決策として受け入れられるかどうかを確認するためのものであり、それが認められればそれに従う事になる」

「今シーズンは我々のクルマに関してこうした話題が何度もあったわけだが、これは何もレッドブルに限った事ではない」

「フォーラムや技術ワーキンググループ内でのエンジニア間の対話も継続的に行われており、取り立てて驚くような事ではないと考えている」

2021年9月3日にザントフォールト・サーキットで行われたF1オランダGPの金曜記者会見に出席したレッドブル・ホンダのクリスチャン・ホーナー代表Courtesy Of Red Bull Content Pool

2021年9月3日にザントフォールト・サーキットで行われたF1オランダGPの金曜記者会見に出席したレッドブル・ホンダのクリスチャン・ホーナー代表

一方、メルセデスのトト・ウォルフ代表は、FIAに対して問い合わせがあった事を数日前に初めて耳にしたとした上で、ライバルの”気晴らし”を歓迎する姿勢を示した。

「彼らがこうした事に時間を費やして研究しているという事実は大歓迎だ。彼らにとってそれが気晴らしになるのであれば、それはそれで良い事だ。この手の事には慣れているし、通常営業といったところだね」

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