アルピーヌF1チームの非常勤取締役を務めるアラン・プロスト、2021年12月11日F1アブダビGPにて
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プロストの”辛辣批判”から浮かび上がるアルピーヌF1の病巣、自らを過大評価する「無能」な指導者と構造的問題

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かつての非常勤取締役、4度のF1王者に輝いたアラン・プロストの辛辣な批判から、ルノー傘下のアルピーヌF1チームが抱える問題の核心、そしてその深刻さが浮かび上がってきた。

68歳の元F1ドライバーは、最近「特別プロジェクト」に追いやられたローラン・ロッシ元CEOを「無能」と形容し、再編によって一層複雑化した組織体制は成功を妨げる要因だと指摘した。

アルピーヌのローラン・ロッシCEOとフェルナンド・アロンソ (2)Courtesy Of Alpine Racing

アルピーヌのローラン・ロッシCEOとフェルナンド・アロンソ (2)

ルノーグループは7月の間に3度に渡って上級管理職の人事異動を行った。異例というほかにない。

まずは10日に、ヴィリー=シャティヨンのF1パワーユニット部門を率いるブルーノ・ファミンが新設のアルピーヌ・モータースポーツのバイス・プレジデント(VP)に任命され、F1第13戦ベルギーGPの初日を迎えた28日には、チーム代表のオトマー・サフナウアーとスポーティングディレクターのアラン・パーメインがスパでの週末を以てチームを離脱することが明らかにされた。その1週間前にはロッシの退任と、後任としてのフィリップ・クリーフのCEO就任が発表されたばかりだった。

更にはチーフ・テクニカル・オフィサー(最高技術責任者)のパット・フライも自らチームを去り、ウィリアムズに移籍する事がアナウンスされた。

おまけに昨年は、後手後手の対応によって2度のF1ワールドチャンピオン、フェルナンド・アロンソと、期待の大型ルーキー、オスカー・ピアストリを失っている。

ピエール・ガスリー(アルファタウリ)とアルピーヌのオトマー・サフナウアー代表、2022年Courtesy Of Alpine Racing

ピエール・ガスリー(アルファタウリ)とアルピーヌのオトマー・サフナウアー代表、2022年

プロストはチーム離脱以降、ロッシやアルピーヌに対して沈黙を貫いてきたが、仏日刊紙「レキップ」とのインタビューの中で上級管理職の相次ぐ離脱に触れ、ルノー経営陣のF1に対する姿勢に表れる問題の核心に切り込んだ。

一連の人事異動についてプロストは「大失敗」と指摘し、自らが「愛する」チームの現状に「心を痛めている」と語った。

自身を組織から追い出した実質的な張本人であるロッシについては、能力に劣る人は自らを過大評価する傾向があるとする認知バイアスについての仮説「ダニング=クルーガー効果」を引き合いに出し、「傲慢さと部下に対する人間性の欠如によって、自らの非力さを克服できると考えている無能なリーダー」と痛烈に批判。ロッシの存在によって、2016年のワークス復帰以降、チームが築き上げてきた勢いが失われたと指摘した。

プロストによると、タイトル争いにカムバックするとの目標を一向に達成できないままミッドフィールドに甘んじ続けている英国エンストンのチームが抱える問題は、F1の指揮系統が複雑な点にある。

「何が間違っていたのかを理解するためには、歴史に頼る必要があると思う」とプロストは語る。

「過去30年に渡る偉大な成功事例からは、3〜4人の強力な人材と勝てるドライバーを中心に構築されたシンプルな組織が見て取れる。これは産業組織図とは異なるものだ」

そして2000年代のフェラーリ、2010年代のメルセデス、そして現在のレッドブルとアルピーヌを対比させた。

「フェラーリはロス・ブラウンとミハエル・シューマッハを頼りにジャン・トッドが機能させた。メルセデスはトト・ウォルフがニキ・ラウダとジェームス・アリソンに支えられ、ルイス・ハミルトンを先頭に成功を収めた」

「大手メーカーの支援を受けていないとは言えレッドブルも同様だ。クリスチャン・ホーナーとエイドリアン・ニューウェイはセバスチャン・ベッテルと現在のマックス・フェルスタッペンを導いた」

「そしてこの3つ例においては、取られた行動を支えるべくF1に全面的に関与した強力なリーダーがいた。ルカ・ディ・モンテゼーモロ、ディーター・ツェッチェ、ディートリッヒ・マテシッツだ」

「彼らはF1の規範を持ち、部下に意思決定をさせる機敏性と柔軟性を備えていた」

ルイス・ハミルトンの5度目のタイトルを祝福するダイムラー会長ディーター・ツェッチェ、F1メキシコGPCourtesy Of Mercedes

ルイス・ハミルトンの5度目のタイトルを祝福するダイムラー会長ディーター・ツェッチェ、F1メキシコGP

時折口を挟むルノーのルカ・デメオCEOをトップとして、再編後のアルピーヌはその下にロッシの後任クリーフを置いた。更にその下にはモータースポーツ部門を統括するファミンがおり、将来的にはその下にサフナウアーに代わるチーム代表が置かれる事になる。

如何に優秀な人材を引っ張ってきても、新たなチーム代表の権限はこれまで以上に限られ、上層部からの口出しに晒される事になるだろう。

プロストは、ルノーがF1で成功したのは2005年から2006年にかけてフラビオ・ブリアトーレとフェルナンド・アロンソが同様のモデルを踏襲した時だけだと指摘し、自身がルノーに関与していた2017~2021年当時に「ブローニュ=ビヤンクールにある本社の廊下で、F1は本社から管理できる単純なスポーツだとの声を何度聞いたことだろうか」と付け加えた。

表彰台の上でトロフィーを掲げるルノーのフェルナンド・アロンソCourtesy Of RENAULT SPORT

表彰台の上でトロフィーを掲げるルノーのフェルナンド・アロンソ

サフナウアーの離脱を含む再編が発表された直後に行われたベルギーGPの会見では、当然の事ながらファミンに質問が殺到した。

ファミンによると、サウナウアーとパーメインがチームを離れたのは「ある段階で、幾つかのトピックについて同じ道を歩んでいない事に気づいた」からであり、「100%一致しないのであれば共に続けるのは無駄だし、自分たちはそれを理解できるだけの経験を積んでいると思う」と説明した。

アルピーヌが遅れを取っている理由の一つについてファミンは、ホンダやメルセデス、フェラーリと比べてエンジンが劣っているためだと説明したが、同じルールに則って開発を進めているにも関わらず、なぜ競合メーカーと同じような進歩を遂げる事ができなかったのかと問われると「それについては全くわからない」と答えた。

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