ニキータ・マゼピン、激怒したシューマッハに「楽にやれると思うべからず」ヒヤリハットの”誤解”を説明
F1第6戦アゼルバイジャンGPのファイナルラップでの”ヒヤリハット”を巡る「誤解」の意味が明らかにされた事で、一連の謎がようやく解ける事となった。だが、ニキータ・マゼピンという人物は想像以上に曲者なのかもしれない。
事件はバクー市街地コースでの最終ラップで発生した。ミック・シューマッハは名物の超ロングストレートでマゼピンの背後に付き、スリップストリームを得て右側からオーバーテイクを仕掛けたが、マゼピンが右に寄ってきた事で接触回避のために急遽更にステアリングを切り足す必要に迫られた。
クラッシュを免れ何とかマゼピンを抜き去ったシューマッハは、追い抜き様に左を向き、チームメイトに対してジェスチャーで猛抗議した後、13位でフィニッシュラインを駆け抜けると「一体何なんだあれは!? マジで。アイツは俺らを殺す気なのか!?」と激怒した。
チーム代表のギュンター・シュタイナーは「ストレートでちょっとした事が起きたが、全て解決済みだ。幾つか誤解があったようだがもう大丈夫だ。全ては前進あるのみだ」と説明するのみで、”誤解”の具体的な内容に触れることはなかったが、ニアミス事件から2週間が経ち、遂に詳細が明らかにされた。
F1フランスGPのためにポール・リカール・サーキットに姿を見せたシューマッハは、バークでのレース後のミーティングでシュタイナー代表、小松礼雄チーフレースエンジニア、そしてマゼピンの3名を交えて一件についての話し合いを行った事を明かした。
シューマッハは「彼は映像を見て謝罪した。最終的に誰もが無事だったわけだし、その後は一件について特に考える事はなかった」と述べ、マゼピンから謝罪の言葉を受け取った事を明かしたが、まさかチームメイトからあのような危険なブロッキングを受けるとは夢にも思っていなかったという。
「相手がチームメイトだったからあんな事は想像してなかったから、むしろ混乱してしまった。もちろん、最終ラップで競り合う事は分かっていたけど」とシューマッハは語った。
「あんなふうに相手がトウを得ている場合は、ERSが残っていようがなかろうが、もう為す術はないわけで、相手を止めるためには怖がらせるか、壁に追いやるかしかない。実際に彼がやったのはそういう事だった」
「断固として引かなかったからこそ、僕は彼を交わす事ができたわけだけど、それでも僕に言わせれば予想外のことだったし、だからあんなにも強く反応してしまったんだと思う」
F1レースディレクターのマイケル・マシがスチュワードに報告を上げる事はなく、一件は審議の対象にすらならなかった。
シューマッハは「僕らは再出発を切った」という表現で、一件を過去に流したとする一方、同様の事が繰り返された場合は厳しい措置が下される事を期待している。
シューマッハはチームメイト間での出来事故に、基本的には外部的な対処を求めるより内部的に処理される内容であるとしながらも、今後同じような問題が発生すれば「スチュワードやレースディレクターに相談することになると思うし、おそらくより厳しい結果になるだろう」と語った。
一方のマゼピンは同じく木曜会見の中で、2台共が一切のダメージなくガレージに戻った事を「ポジティブに捉えたい」とした上で、ヒヤリハットが起きたのはシューマッハがどちらに動くのかを見誤ったせいだと説明した。
「僕は彼がイン側のラインを選択すると思っていたけど、実際には、彼はアウト側のラインを選んだ」とマゼピン。
「彼のその動きを見て手を引いた。結局のところポイントを争っていたわけではないし、チームとしてのリザルトを何よりも優先すべきだったからだ」
またマゼピンは「率直に言うけど、それは適切な言葉遣いじゃない」と述べ、接触に至らなかった事を理由に一件を”インシデント”と呼ぶべきではないと主張した。
危険なブロッキングに遭ったと感じたシューマッハの剣幕はかなりのもので、チーム内に険悪なムードが漂ってやしないかと懸念される程であったが、マゼピンはチームに加わった最初の段階から今に至るまで、2人の間には「ポジティブな雰囲気」があると強調した。
シューマッハへの謝罪についてマゼピンは「チーム内での話し合いはチーム内に留めておくべき」とした上で「話が公にされているのであれば、僕としては彼に謝罪したと言っておく。それは彼の感じ方の問題で、実際彼は本当に動揺していたからね」と指摘し、次のように続けた。
「でも僕としては、彼が楽にやれると思わない事が非常に重要だと言っておきたい。僕には彼をブロックしようという意思はなかったし、彼がああいった態度に出るとも思っていなかった」
「(でも)彼がそのように感じたから僕は謝った。それが僕のすべき事だと思ったからだ。でもそれは僕のあの行為に対してのものではなかった」
文化的な違いによるものなのか、母国語ではない英語での説明から来るものなのか、はたまたマゼピン個人のキャラクターによるものなのか…マゼピンは結果的にブロッキングになったとする自身の動きに関しては非があるとは考えておらず、謝罪したという意識も持ち合わせていないようだ。