2022年F1レギュレーション、抑えておきたい主要変更点のまとめ

2021年以降のF1マシンのレンダリングCGcopyright Formula One World Championship Limited

F1と国際自動車連盟(FIA)は2022年シーズンより新たな道を歩む。現行の技術及び競技レギュレーションは抜本的に改定され、オーバーテイクの促進を狙う次世代マシンが導入された。

何がどう変わるのだろうか? 空力の鬼才エイドリアン・ニューウェイに「過去40年で最大の変化」と言わしめる2022年F1レギュレーションの主要変更点をまとめる。

大改訂の目的はオーバーテイクの促進

2022年のF1グリッドについた20台のF1マシンの外観は、決して美しさを追求した上で生まれたものではなく、テール・トゥ・ノーズ、ホイール・トゥ・ホイールの白熱した接戦を生み出すために必要な要件を突き詰めていった結果のフォルムだ。

目指したいのは接近戦、オーバーテイクの促進だ。

ロス・ブラウンとニコラス・トンバジスから成るF1テクニカルチームは2年以上の歳月を費やして研究を続けてきた。ブラウンが「非常に高速だが、レースができるクルマではない」と語るように、2021年以前のマシンは速いものの前走車両を追走する事が難しく、オーバーテイクが非常に困難だった。

F1は新たな時代のあるべき姿として速さよりも競争を優先し、そのためのソリューションとしてダーティーエアーの撲滅と、これに伴うダウンフォースの減少に対してグランドエフェクトを導入する事を決めた。

ダーティーエアーの撲滅

Courtesy Of Red Bull Content Pool / Ferrari S.p.A.

2022年F1バルセロナテストでカタロニア・サーキットを周回するレッドブル・レーシングRB18とスクーデリア・フェラーリF1-75

2022年以降のF1マシンには斬新なデザインフィロソフィー、グランドエフェクトの導入を含む新たな空力コンセプトが持ち込まれ、外観は大きな変貌を遂げた。全ては「ダーティーエアー」の撲滅を狙ったものだ。

F1は次世代マシンの方向性を探るために、約7,500回ものシミュレーションを実施した。CPU1コアあたりに掛かった時間は1,650万時間で、仮にインテルi9クアッドコアの高性能ノートPCで計算した場合、計算が終わるのに471年掛かるというから驚きだ。また風洞実験にはスイスのウィンヒルにあるザウバーの風洞が用いられた。

バトル促進のためには、前走車を追走する際に生じるダウンフォースの損失を最小限に抑える必要があった。前にクルマがいる状態で走行すると理想的な気流がマシンに当たらず、空力性能に大きな悪影響が出てしまう。

F1の調査によれば2019年型マシンは前走車から3車身(約20m)後方を走行するとダウンフォースが35%減少し、1車身(約10m)にまで近づくと47%もの喪失が発生していた。これは前のクルマが吐き出す後方乱気流=ダーティーエアーの影響によるものだった。

対して次世代マシンは、3車身後方走行時のダウンフォース減少量が僅か4%、1車身にまで接近しても18%のロスに留まるという。

copyright FORMULA 1

2022年型F1マシンのダーティーエアーの影響

これを実現させるべくバージボードは姿を消し、複雑なボディーワークは一掃され、フロントウィングは更にシンプルな形状に変更された。また、ダーティーエアーを生み出すホイールウェイクを制御するための新しいホイールカバーとオーバーホイール・ウイングレットが導入され、足回りとしてはサスペンションが簡素化された。

なお取り敢えず2022年に関してはDRSが継続される。

Courtesy Of Pirelli & C. S.p.A.

2022年型F1マシンのオーバホイール・ウイングレット、2021年7月15日F1イギリスGPの舞台シルバーストン・サーキットのコース上にて (1)

グラウンドエフェクトの導入

ボディーワークがシンプルとなった事によるダウンフォースの損失分は、2本のベンチュリートンネルが設置されたアンダーフロアで補う。

copyright FORMULA 1

2022年型F1マシンのフロア下部に設置された2本のベンチュリートンネル

グラウンドエフェクト、日本語で言う地面効果は、1970年代後半のF1でトレンドとなった空力思想で、飛行機が空に浮く原理を上下逆転させてボディー下面に強力な負圧を発生させる事でクルマを地面に押さえつける力、すなわちダウンフォースを得るものだ。

当時のマシンはサイドポンツーンを飛行機の主翼を上下反転させた形状として、マシンの側面から下部に流れ込む気流を防ぐためにサイドスカートを配置。強力なダウンフォースを得ていたが、車体の上下移動に対して脆弱であり、スカートによる遮断が機能しなくなると一気にダウンフォースが失われ危険であったため、グランドエフェクトカーと呼ばれていたこの類のマシンは1982年末に禁止された。

2022年型のF1マシンにスカートは備わっておらず、完全なグランドエフェクトカーではないものの、アンダーフロア・トンネルの採用により従来以上にグランドエフェクトを利用する事が可能となっている。

グランドエフェクトの導入は図らずも、ポーパシング(ポーポイズ / バウンシング)現象という40年ぶりの課題をチームに突きつけた

18インチタイヤ

Courtesy Of Pirelli & C. S.p.A.

2022年仕様のピレリ製18インチF1タイヤ5種類 (1)

18インチタイヤ導入の背景にはサプライヤー側の思惑がある。F1が履く13インチの野太いタイヤは市販車市場とは無縁だ。マーケットではホイールの大口径化がトレンドであり、ピレリにとっては技術相互流用という観点もさることながら、ブランディング上のメリットが大きい。

ただ、18インチの導入により見込めるメリットはそれだけでない。最たるものはチーム間格差の是正だ。

現行の13インチタイヤは車体全体の空力に与える影響が極めて大きく、これを分析するためには多大な予算が必要で、必然的に大規模チームが利する構造がある。新しく導入される扁平タイヤはサイドウォールが硬く、タイヤの動きが悪化するため、空気力学的な影響がシンプルとなり、開発コストの減少が期待されている。

速さよりも競争を…最大3.5秒遅くなるマシン

新ルールが速さを突き詰めた結果の産物ではない証拠に、規約が初導入される2022年のマシンは当初、現在よりも1周あたり3~3.5秒遅くなると見積もられていた。18インチタイヤの導入や、コスト削減のために導入されるPU素材の変更、そして更なる安全対策の結果、マシンの最小重量は46kgも増加して史上最大の798kgへと引き上げられた。

無論、激しい開発競争が続くため、シーズンを経る毎に再びスピードを取り戻すであろう事は想像に難くないが、いずれにせよラップタイムは一時的に大きく低下する事になる。

コスト上限…小規模チームへのチャンス増大

スポーツをより公正で持続可能なものとすべく、1年先立って2021年より予算制限が導入された。その効果が大きく出るのは2022年シーズンからだ。

いわゆるコストキャップと呼ばれる財務に関するルールがF1に導入されるのは今回が初。チームが年間に費やす支出額は、過去数十年間で指数関数的に上昇しており、対策が求められていた。

F1では、投下コストとマシンパフォーマンスに強い相関があり、大規模リソースを持つチームのみが表彰台の頂点に立つ時代が続いている。2016年のオーストラリアGPから2019年のメキシコGPまでの期間内には、合計240回の表彰台獲得回数が記録されているものの、この内、メルセデス、フェラーリ、レッドブル以外のドライバーがポディウムを獲得したのは僅か6回に留まっている。

コストキャップの導入によってチーム間の予算は平準化され、小規模チームの持続可能性が確保されると共に、プライベーターであっても表彰台やタイトルを手にできる可能性が高まると期待されている。

チームの年間予算は2021年の1億4500万ドル(約165億円)に対して更に引き下げられ、1億4000万ドル(約160億円)に減額された。

対象となるのはマシンパフォーマンスに直結する支出のみとなり、マーケティング関連のコストやドライバー及びチームの上位3名の給与等は除外される。この金額はシーズンが21戦である場合のものであり、1戦増加すること毎に100万ドルの追加コストが認められ、1戦減少する毎に100万ドルの制限が加算される。

なお、財務規制が守られているかどうかを監視するために、コスト上限管理制度が創設され、国際的な会計事務所であるデロイト・トウシュ・トーマツ社が監査役に任命された。厳格な監視こそがこのルールの成否を握る。

予算制限に違反した場合はペナルティが科せられる。

違反内容としては、1)支払報告書を期限内に提出しないなどの手続き上の違反、2)5%未満の予算超過の場合、3)5%以上の予算超過の3種類が想定されており、軽微な違反の場合は罰金、中程度の場合は選手権ポイントの剥奪やレースへの出場停止処分、テスト制限(CFD含む)、追加の予算制限など、そして悪質な場合にはチャンピオンシップの失格処分が科される。

空力パーツの開発コストを更に削減すべく、週毎に使用可能な風洞テストの回数にも制限が加えられる。F1側はこれによって、CFD(数値流体力学)シミュレーションの活用を促したい考えだ。

競技関連のルール変更

燃料ポンプ等の全チーム共通の標準化パーツは増加され、ホイールカバーなどの一部パーツは決められた設計での製造が義務付けられる。また、ブレーキパッドなどの交換部品の回数制限が引き上げられる。

パワーユニット開発の凍結

パワーユニットに関しては、現行と同じくMGU-KとMGU-Hの2つの回生システムを備える1.6リッターV6ハイブリッド・ターボが継続されるが、2段階のホモロゲーションを経て2025年まで開発が完全凍結される。

2026年には100%持続可能な燃料を使用するMGU-Hを廃止した次世代ハイブリッドPUが採用される。現行PUは既に成熟期を迎えており、開発の費用対効果は低下しつつある。

凍結されるのはICE(内燃エンジン)、ターボチャージャー、MGU-K、MGU-H、ES(バッテリー)、CE(コントロール・エレクトロニクス)、エキゾースト・システム、燃料、エンジンオイルの9種類だ。

いずれも2022年中に1度限りのアップグレードが認められているが、以下のように別個のデッドラインが設定されている。期限を過ぎての仕様変更は禁止される。燃料やオイルを含め、2023年から2025年まで新たな開発物を投入する事は認められない。

各PUコンポーネントの凍結期限
コンポーネント 凍結期限
ICE 2022年3月1日
ターボチャージャー 2022年3月1日
MGU-H 2022年3月1日
MGU-K 2022年9月1日
ES 2022年9月1日
CE 2022年9月1日
エキゾースト 2022年3月1日
燃料 2022年3月1日
オイル 2022年3月1日

例外も設けられている。技術規定は「信頼性、安全性、コスト削減、または最小限の付随的な変更のみを目的とした」変更を認めている。一旦信頼性に関わる問題が発生すれば、そのメーカーのPUを使うチームは以降4シーズンに渡ってその問題に悩まされ続ける事になる。

変更の申請はFIAテクニカル部門にて書面で受け付ける。メーカーは必要に応じて問題が発生しているという明確な証拠を出さなければならない。妥当性を判断するためにFIAは、提出された書面を全メーカーに配布し見解を募り、変更の可否を判断する。

Courtesy Of Honda Motor Co., Ltd

ホンダが2019年シーズンのFIA-F1世界選手権に投入したパワーユニット「RA619H」

なお、排気系や各種配線、ターボ/コンプレッサー/ウェイストゲートの位置など、シャシーに搭載するに際して調整が必要な部位も存在する。これらに関してはFIAの承認を得た上で「最小限の変更」が認められている。

更に燃料とオイルに関しても、性能の追求を目的としたものではなく商業的な目的であれば変更が認められる。

加えて、上記に関わらずバラスト、フライホイールやPU/オリフィス間のブリーザー・システム・ダクト、ヒートシールドとその取り付け金具、ヘッダータンク、熱交換器関連、一部の燃料供給ポンプ等は2023年以降も引き続き変更する事が可能だ。

また、2030年のカーボンニュートラル実現に向けて、2022年の燃料はエタノール含有量が現行の7.5%から10%へと引き上げられる。いわゆる「E10」と呼ばれるものだ。

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