カタロニア・サーキットでメルセデスW13をドライブするルイス・ハミルトン、2022年2月23日F1バルセロナテストにて
Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.

2022年F1のバズワード「ポーポイズ現象」とは何か? グランドエフェクトカー特有の課題を徹底解説

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グランドエフェクト効果、ベンチュリートンネルなど、テクニカル・レギュレーションが刷新された2022年シーズンのF1では、近年耳にしなかった様々なワードが飛び交う。中でもプレシーズンテストの開幕によって注目されているのがポーポイズ現象(英:Porpoising、ポーパシング)だ。

2月23日にカタロニア・サーキットで開幕を迎えたF1バルセロナテストでは、幾つかのチームが次世代マシンならではの課題を抱えている事が明らかとなった。初日を終えて元F1ドライバーのジョリオン・パーマーは、メルセデスW13がストレート区間終端のターン1でポーポイズ現象に見舞われていたと指摘した。

カタロニア・サーキットでメルセデスW13をドライブするジョージ・ラッセル、2022年2月23日F1バルセロナテストにてCourtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.

カタロニア・サーキットでメルセデスW13をドライブするジョージ・ラッセル、2022年2月23日F1バルセロナテストにて

ポーポイズ現象とは、車両に激しいピッチングを発生させるグランドエフェクトカー特有の問題だ。イルカによく似た小型の鯨類、ポーパス(和名:ネズミイルカ)に由来する言葉で、「跳ねる」と言った意味合いがある。ピッチングは車両の左右方向を軸とした回転による上下の動きを指す。

グランドエフェクトカーはアンダーフロアにトンネルを設ける事で地面との間に負圧を作り出し、これによって車体を強力に接地させダウンフォースを得る仕組みを備えるクルマだ。

グランドエフェクトカーで問題となるのは、フロント側(フロントウイングあるいはフロア・フロント)が地面と近すぎる点にある。カタロニア・サーキットのターン1のように、高速からのブレーキングの際に車体が前につんのめる形になると、アンダーボディへの空気の流れが遮断されダウンフォースが失われる。

ダウンフォースが失われるとスプリングが伸びて車高が上がるため、再びフロア下に空気が流れ込んでダウンフォースが急増する。するとクルマは再び地面へと押し付けられフロア下への気流が滞り…といった状況が繰り返されるのだ。フロア側面の密閉性が失われる事でも同様の現象が発生する。

これを外部から見ると、まるで水面を泳ぐポーポスのように、マシンが飛び跳ねているように見える。これがグランドエフェクトカーにおけるポーポイズ現象だ。なおカタカナ読みとしては「ポーパス現象」とした方が近い。

フェラーリF1-75が上下に激しく揺さぶられている上の動画で分かる通り、ストレートで発生する分にはまだ良いが、高速コーナーでダウンフォースが急変すれば危険な事故へと繋がり兼ねない。

そもそもグランドエフェクトカーはピッチングやローリング、ヨーイングといった車体姿勢の変化に敏感なマシンで、僅か数mmの車高変化がダウンフォース量に多大な影響を及ぼす。先に挙げた減速時の他、加速時、高速走行時、凹凸が激しい路面を走行する際にも同様の問題が発生し得る。

これまでの説明でお分かりの通り、ドライバビリティに大きな影響を及ぼすこの問題は今に始まったものではなく、グランドエフェクトカー全盛期のかつてのF1でも大きな問題となっていた。

シミュレーション段階では特に目立った報告はなかったものの、実際にテストが始まった事で、メルセデスやフェラーリ、アルファロメオを含む幾つかのチームがポーポイズ現象による問題に頭を抱えている事が分かってきた。

単にポーポイズ現象を防ぐだけなら車高を上げさえすれば良いのだが、それだとパフォーマンスが損なわれてしまうだけにチームにとっては悩ましい。現実的には今のところ、フロアデザインの変更が唯一有力なソリューションと考えられているようだ。

無論テストは問題を炙り出して解決する事が目的であるため、問題を抱えること自体に何も問題はない。要は3月20日のバーレーンでの開幕までに問題の原因を突き止め、今後クルマを進化させていく際に再び問題が生じないよう、理解を深めれば良いだけなのだが、果たして。