F1ドライバーに自由に発言させろ、とバーレーン人権団体…遥かに政治的なFIAに深刻な危機感
バーレーン人権民主主義協会(BIRD)は1月24日(火)、F1を統括する国際自動車連盟(FIA)に対し、F1ドライバーが自由に発言できるよう、2023年に向けて新たに追加した検閲ルールを撤回せよと要求した。
FIAは「2023年国際スポーツ競技規則(ISC)」において、書面による事前承認なしに「中立性の一般原則に著しく反する政治的、宗教的、および個人的な声明や意見」を禁止する旨の新たな条項を追加した。
セバスチャン・ベッテルやルイス・ハミルトンを中心にF1ドライバー達は近年、その知名度とプラットフォームを活かして様々な人権侵害や人種的差別に対して行動を起こしてきた。
英「RaceFans」によると、F1ドライバーとチームを検閲するFIAの新たな条項についてBIRDのディレクターを務めるサイード・アフメド・アルワダイはFIAに充てた書簡を通して「言論の自由を抑圧し、人権や人種差別を含む重要な問題について声を上げることを妨げる」ものだと批判した。
「この動きはルイス・ハミルトンをはじめとするドライバーたちが人権の歴史など、F1レースの開催地に懸念を示し、あなた方の組織が沈黙している領域に力強く踏み込んだ事に対する反動のように見える」
「我々はモハメド・ベン・スレイエムに対して、この方針は間違っており、すぐに撤回すべきだと申し上げる」
この書簡はF1の商業権保有者、メルセデスを含むF1チームやドライバーにも送られた。
ISCの改定についてFIAは、単に「国際オリンピック委員会(IOC)の倫理規範にうたわれているオリンピック運動の普遍的かつ基本的な倫理原則としてのスポーツの政治的中立性」に沿ったものだとしているが、アルワダイはハミルトンの行動を念頭に置いたものに見えると主張した。
また、「キャリアを通じてハミルトンが発したいずれの発言も、ウクライナへの侵攻を理由にロシアから撤退した昨年のFIAの決定以上に政治的とは考えられない」とも述べ、政治的なのはドライバーではなくFIA自体だと指摘した。
F1とFIAはロシアとの契約を解除した一方、イエメンの内戦に関与しているサウジアラビアやバーレーン、アラブ首長国連邦でのグランプリ契約を見直す素振りは一切見せていない。
史上最多23戦が行われる今季のカレンダーにはバーレーンに加えてサウジアラビア、カタール、アブダビの4つの中東の国々が並ぶ。中東地域からF1にもたらされる資金は年々上昇している。
アルワダイによると、ベン・スレイエムの前任であるジャン・トッド前FIA会長は「人権に関するポリシーを採用する事に熱心だった」ものの、その方針は少なくとも現時点ではアラブ首長国連邦出身のベン・スレイエムに引き継がれてはいない。
長年に渡って人権問題が指摘されているバーレーンやサウジアラビアといった国でグランプリを開催する事は、いわゆる「スポーツウォッシング」を助長する事と同義であり、ISCの改定に見られるFIAのやり方はこうした国々と同じ「独裁的」なものだとアルワダイは指摘する。
「FIAとF1がバーレーンやサウジアラビアといった世界で最も抑圧的な政権にレースの開催を許可することは、スポーツウォッシングを助長するだけでなく、これらの独裁国家に対してその恐ろしい人権記録の洗浄を許することでもある」
アルワダイは「批判者や擁護者の声を封じ込め、FIAが独裁的なビジネスパートナーの戦術を模倣している様を見るのは深刻な憂慮に堪えない」と付け加え、強い危機感と不安をあらわにした。