F1:謎多き”ADUOの全貌”が見えてきた。トルクセンサーと専用関数による算出手法、ICE限定の理由とは

  • Published:
  • Googleで優先するソースとして追加する

レギュレーションに測定方法が明記されていないなど、その多くがベールに包まれている追加開発・アップグレード機会制度(ADUO)の一端が判明した。国際自動車連盟(FIA)のシングルシーター部門責任者を務めるニコラス・トンバジスが、スペインのモータースポーツメディア『SoyMotor』とのインタビューの中で明らかにした。

ADUOというアイデアはどこから生まれたのか。なぜ性能評価の対象は内燃エンジン(ICE)に限定されたのか。具体的にどのような手法でICE性能を評価しているのか。導入の目的や設計思想など、ADUOの全体像について詳細に語った。

メーカー撤退の懸念が生んだADUO

アウディのピットウォール、メルセデスのホスピタリティ、2026年1月26日F1バルセロナ・シェイクダウン初日copyright FORMULA 1

アウディのピットウォール、メルセデスのホスピタリティ、2026年1月26日F1バルセロナ・シェイクダウン初日

ADUOは、苦労して引き込んだ新規メーカーを撤退させないための対策だった。トンバジスによると、ADUOの議論は現行PU規則の策定が進められていた「4〜5年前」までさかのぼる。

FIAは当時、新たな自動車メーカーをF1に呼び込むことを重要な目標として掲げていたが、一方では、新規参入メーカーが既存メーカーに対して競争力で大きく後れを取る可能性を懸念していたという。

かつてのホンダがそうであったように、予算上限の導入前であれば、開発で出遅れたとしても多額の資金を投じて開発を進めることで、最終的に他メーカーに追いつく余地があった。

だがコストキャップが導入された時代においては開発リソースに大きな制約があり、一度後れを取ると「ほぼ恒久的」な競争力不足に陥る恐れがあるとFIAは懸念した。

トンバジスは、「常に最後尾で、誰もが『あそこはひどい』と言い続ける状況となれば、彼らが留まるはずはない。そこからADUOという考え方が生まれた」と説明する。

対象がICEに限定された理由

バーレーン・インターナショナル・サーキットを周回するアンドレア・キミ・アントネッリのメルセデスW17、2026年F1プレシーズンテストCourtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.

バーレーン・インターナショナル・サーキットを周回するアンドレア・キミ・アントネッリのメルセデスW17、2026年F1プレシーズンテスト

ADUOはICEの性能のみを対象としている。今季最初のADUO査定では、PU全体の性能で他メーカーをリードしていると広く受け止められているメルセデスが対象メーカーに選ばれ物議を醸しているが、それはADUOがICE性能のみを対象としていることが大きな要因だ。

トンバジスによれば、ADUO規定に関する初期の議論では、エネルギー回生システム(ERS)こそが2026年以降の技術競争の主要な舞台、すなわち各メーカーが覇権を争う主戦場になると考えていたという。

そのため、ICE側の開発競争はそれほど激化しないと予想し、FIAは当初、ICEの大部分を標準化する案も提案した。だがメーカー側はその方向性を支持しなかった。

結果として、主戦場とならないであろうICEで後れを取ったメーカーには挽回の機会を与えるべきとの考え方が採用されるに至ったという。

ベールに包まれた計測手法と専用関数

レース開始直後にメルセデス勢を交わしてトップに立つインターミディエイトタイヤのランド・ノリス(マクラーレン)、2026年5月24日(日)F1カナダGP決勝(ジル・ビルヌーブ・サーキット)Courtesy Of McLaren

レース開始直後にメルセデス勢を交わしてトップに立つインターミディエイトタイヤのランド・ノリス(マクラーレン)、2026年5月24日(日)F1カナダGP決勝(ジル・ビルヌーブ・サーキット)

ADUOの制度そのものは、PU規則が最初に公表された2022年の段階で既に盛り込まれていた。だが、何を測定し、どのように性能差を判定するかという詳細は決まっていなかった。

トンバジスによると、その議論は主に2025年末から2026年初頭にかけて集中的に行われた。

一時は吸気温度のような副次的要素を評価に含めるかどうかも議論された。吸気温度が高ければエンジン出力は低下する一方、冷却要求が減ることで空力性能にメリットが生じるためだ。

しかしながら、最終的にメーカー側からの要望もあり、システムは可能な限りシンプルに保たれることになった。

トンバジスによれば、現時点のADUOの評価では、公認トルクセンサーが「主要な測定手段」として使用されている。センサーはエンジンとギアボックスの間に設置されており、そこから取得したデータからERSの寄与分を除外することでICE出力を算出する。

評価対象は最高出力ではない。サーキットにおける全てのアクセル全開区間での出力を収集し、ラップタイムへの影響度に応じて重み付けを行う専用関数を使用しているという。

たとえば、ロングストレートでは終盤よりも立ち上がり直後の加速性能の方がラップタイムへの影響が大きい。そのため評価でもストレート序盤の出力がより重視される。

また予選ラップではなく、「通常はレース中の全ラップ」を対象に出力を計測する。セーフティーカー(SC)やバーチャル・セーフティーカー(VSC)などの低速ラップを除外し、これを平均化して各車の出力を算出したうえで、各PUメーカーごとに最も代表的な値を選定する。

査定に際しては通常、6レース分のデータを用いるが、サウジアラビアGPとバーレーンGPが中止されたため、今季最初の査定では開幕5戦の平均値からメーカー間の格差が割り出された。

代替方式の提言と、将来的な制度変更の可能性

マイクを握る国際自動車連盟(FIA)シングルシーター部門責任者のニコラス・トンバジス、2025年11月20日(木) F1ラスベガスGPフリー走行(ラスベガス市街地コース)Courtesy Of Red Bull Content Pool

マイクを握る国際自動車連盟(FIA)シングルシーター部門責任者のニコラス・トンバジス、2025年11月20日(木) F1ラスベガスGPフリー走行(ラスベガス市街地コース)

一方でトンバジスは、現在の評価方式が将来的にも維持されるとは限らないとの認識を示した。実際、評価対象をICE性能のみに限定する現行ルールには否定的な声も上がっている。

例えば、アウディのF1プロジェクトを統括するマッティア・ビノットは、コンストラクターズ選手権順位に応じて空力テストが制限される既存の制度と「よく似た仕組みにすべきなのかもしれない」と提言している。

「目的がフィールドをより接近させることなのであれば、ランキングに基づく仕組みが最も分かりやすい方法かもしれない。そうすれば、シャシーとパワーユニットの間で統一された制度的な枠組みを持つことができる」

FIA側も問題意識を共有しており、目下、エンジン出力だけでなく、ERS、空力、ドラッグ、タイヤ、車重、重心高、重量配分、さらにはドライバーといった広範な要素を含めた包括的な分析を通して、現行の測定方法が最良なのかどうかを見極める方針だ。

トンバジスは「誤りが見つかれば修正する」としたうえで、「今後も全く同じ仕組みを継続するかどうかは議論すべきだ」と語り、まずは相応の時間を投じて先の分析を進める考えを示した。