ホンダF1の山本雅史モータースポーツ部長
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時期尚早?それとも表彰台へ大きく前進?レッドブル・ホンダはF1で勝利を掴めるか?

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レッドブル・ホンダはF1で勝利を上げ、成功を収める事ができるのか?それとも、王者チームとの契約は時期尚早なのだろうか?

「ターゲットは優勝。表彰台の頂点に上がる事が再優先事項」ーーレッドブルとのパワーユニット供給契約を結んだホンダは、パートナーシップ締結の理由を「勝利」「挑戦」という言葉で説明する。

ホンダは2015年よりFIAフォーミュラ1世界選手権にパワーユニットを供給。3年間に渡って名門マクラーレンとタッグを組んだ後、今季よりイタリアの中堅スクーデリア・トロロッソと契約。2019年からの2年間は、英国ミルトンキーンズに拠点を構える強豪レッドブル・レーシングに追加供給する。

最強シャシーとのタッグ…表彰台の頂点に立つために

「モータースポーツ活動におけるホンダの再優先事項はレースでの勝利です」ホンダの山本雅史モータースポーツ部長はF1公式サイトに対し、次のように語った。「レッドブルとのパートナーシップによって、我々はその目標の達成に大きく近づく事になります。もちろん、トロロッソと共に優勝を果たすことも可能だと信じていますが、そこに辿り着くにはまだ幾らか必要な要素があると考えています」

「ホンダの取締役会のメンバー達は皆、マクラーレンと共に成功を収められなかった事にガッカリしましたが、次の大きな挑戦に挑むことに関して躊躇は一切ありませんでした。そのため、レッドブルとの提携に際して彼らを説得する必要はありませんでした。ホンダは”チャレンジング・スピリット”をモットーとしており、取締役の面々もその心構えを持っています」

ホンダMS本部長を務める山本雅史
© HONDA / ホンダMS本部長を務める山本雅史

優勝候補常連のレッドブル

F1界で最も著名なデザイナーであるエイドリアン・ニューウェイ擁するレッドブル・レーシングは、2010年から2013年にかけてドライバーズ及びコンストラクターズ両部門4連覇という快挙を達成。1.6リッターハイブリッドターボエンジンが導入された2014年以降も、毎シーズンに渡ってランキング上位を争っている。

レッドブルの製造するシャシー=車体は内外から高い評価を受け続けており、同チームがチャンピオンに返り咲くためには強力なエンジンが必要との認識に異論を唱える者は少ない。山本も同様の考えを持っている。

「ご存知の通り、レッドブルは過去に幾つものタイトルを獲得したチームであり、ここ数年もコンスタントに勝ち続けているチームです。シャシー性能が優れていることは誰の目にも明らかですし、勝利に向けた可能性が高くなるという点では、我々Hondaにとっては大きなチャンスです。プロジェクトに関わる全てのメンバーのモチベーションがこれまで以上に上がると思っていますが、同時に大きなプレッシャーや責任を伴うことも事実です」

レッドブルは、現状のままルノーエンジンを使い続けるよりも、信頼性とパフォーマンスを飛躍的に向上させているホンダエンジンを使う方が勝利に結びつくと判断。日本のエンジンサプライヤーと共に新しい旅路を歩むことを決断した。

トロロッソを傘下に持つレッドブルは、モータースポーツアドバイザーを務めるヘルムート・マルコを窓口にホンダとの交渉を開始。ホンダ側は山本が舵を取り話し合いを進めてきた。今年誕生したばかりのトロロッソ・ホンダは、第2戦F1バーレーンGPで2015年のF1復帰以降の最高位となる4位入賞を果たし、パフォーマンスの向上を内外に知らしめた。この事実はホンダに自信を与え、両者の交渉を加速させた。

F1アゼルバイジャンGP決勝レースで激しいチーム内バトルを繰り広げるレッドブルのダニエル・リカルドとマックス・フェルスタッペン
© Getty Images / Red Bull Content Pool、レッドブルの2018年マシン「RB14」

ホンダがレッドブルを選んだもうひとつの理由

山本によれば、ホンダがレッドブルと契約した別の理由には、レッドブルが持つブランド・アイデンティティと巧みなマーケティング戦略があるという。同チームはエナジードリンクで世界に名を轟かし、毎年50億本以上を売り上げる同名の巨大企業をオーナーに持つ。

「レース以外の面で言えば、レッドブルは特に若い世代にとって魅力的なブランドとして認知されています。我々は、このパートナーシップを通じてホンダにとっての新しい顧客を獲得できると考えました。レッドブルと提携が大きなプレッシャーである事は間違いありませんが、困難に挑戦し続けることはホンダの哲学です。モータースポーツのトップカテゴリーであるF1に参戦しているのは、それが理由なのです」

レッドブルとの協力関係によって、ホンダはF1での競争力のみならず、ビジネスにおける強力なマーケティング・パートナーを得る事が出来る。

時期尚早?パートナーに厳しいスタンスのレッドブル

ホンダは今季第7戦F1カナダGPに、内燃機関(ICE)を中心に改良を重ね馬力を向上させた新しいパワーユニットを投入。20馬力近い性能向上を果たしたとされる。ルノーも同じ様にアップデートを投入したが、レッドブルはルノーへの不信感を募らせておりこれを見限る事となった。

ルノー製パワーユニットは昨シーズン度々信頼性不足を露呈。度重なる故障によってエンジンのストックが枯渇し、最終アブダビGPでは在庫不足騒に陥った。「多額の資金を払っているにも関わらず、ルノーはその責任を果たしていない」チーム代表を務めるクリスチャン・ホーナーはルノーを公然と批判。サプライヤーに対する厳しい姿勢が波紋を呼んだ。

レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表と、ルノー・スポールのシリル・アビテブール代表
© Getty Images / Red Bull Content Pool、レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表と、ルノー・スポールのシリル・アビテブール代表

レッドブルに対してエンジンを供給するのは時期尚早では?交渉が公になって以降、レッドブルがパートナーに対して示す厳しいスタンスを理由に、ホンダの行く末を案じる声が多く上がった。その点を指摘された山本は、懸念はないと説明する。

「それについては心配はしていません。レッドブルとの話し合いを通じて、我々は彼らにモータースポーツに対する姿勢とアプローチがホンダと似通っている事を感じました。素晴らしいパートナーシップが築けると考えています」

「我々はお互いの事を良く知っています。だからこそ、トロロッソとの契約話を進める事ができたのです。我々は率直かつ誠実に話をする関係性を築く事ができています」

「ヘルムート・マルコ氏はホンダの事を深く理解してくれていますので、あらゆる選択肢を検討した上で、お互いが納得できるような譲歩を導き出す事ができています。彼はホンダに対して常に敬意ある姿勢を示してくれています。私はその事に感謝しています」


ホンダは今年、信頼性を重視するために昨年のエンジンコンセプトを継承。大幅な性能向上よりも、故障のリスクを最小限に抑える事を選んだ。レッドブルと手を組んだ以上、2019年シーズンは毎戦優勝争いが求められ、マクラーレン時代以上に大きなプレッシャーに晒される。ホンダは来季のエンジンコンセプトを一新するだろうか?

重圧に対して適切に対処し現在の開発スピードを維持できれば、ホンダがF1の表彰台に上がるのはそう遠くはないと言える。だが、仮に来年一度もポディウムに上がれなければホンダに批判が殺到するは必至。ホンダはファンからのF1撤退を強く求める声に晒される事になるだろう。

「優勝できないのはホンダエンジンの責任」バッシングを繰り返し今年ルノーと契約したマクラーレン。対照的に、最強シャシーを持つレッドブルはルノーを見限りホンダと契約。来季表彰台の上で微笑むのはどちらのチームになるのだろうか?目が離せない。