フェルスタッペン、”GP”不在の戦いへ―代役はあの名手…オーストリアで問われるレッドブルの真価

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マックス・フェルスタッペン(レッドブル)は、長年の相棒である”GP”ことジャンピエロ・ランビアーゼ不在という異例の状況で、レッドブル・リンクでの6勝目に挑むことになる。

ランビアーゼは個人的な理由で2025年F1第11戦オーストリアGPを欠場する。2016年にフェルスタッペンがレッドブルに昇格して以来、無線の向こう側から4度の世界王者獲得を支え続けてきた名参謀の不在は、チーム全体にとっても打撃だ。

2024年のF1ワールドチャンピオン獲得を祝うマックス・フェルスタッペン(レッドブル・レーシング)とレースエンジニアのジャンピエロ・ランビアーゼ、2024年11月23日(土) F1ラスベガスGP決勝(ラスベガス市街地コース)Courtesy Of Red Bull Content Pool

2024年のF1ワールドチャンピオン獲得を祝うマックス・フェルスタッペン(レッドブル・レーシング)とレースエンジニアのジャンピエロ・ランビアーゼ、2024年11月23日(土) F1ラスベガスGP決勝(ラスベガス市街地コース)

ランビアーゼは単なるレースエンジニアではない。現場全体を統括する「ヘッド・オブ・レーシング」として、レースの全体像を把握し、戦略の中枢を担う司令塔である。あの低くハスキーがかった声で「Simply lovely, Max(素晴らしいよ、マックス)」と勝利を讃える瞬間は、もはやF1を象徴する名物シーンの一つとなっている。

その声が聞こえないオーストリアGP──果たしてフェルスタッペンは、いつも通りのパフォーマンスを発揮することができるのだろうか。

立ち上がる代役—サイモン・レニーという男

その代役という重責を担うのは、F1界の隠れた名匠サイモン・レニー。これまでにダニエル・リカルド、マーク・ウェバー、アレックス・アルボンらを担当し、ルノー時代にはフェルナンド・アロンソ、ロータスではキミ・ライコネンといったトップドライバーを支えてきた。

現在はレッドブルのシミュレーション工学部門を統括しているが、豊富な現場経験とチーム内での厚い信頼を兼ね備えたレニーは、この状況における最良の人選といえるだろう。

決勝前のガレージでレースエンジニアのサイモン・レニーと会話するダニエル・リカルド(インフィニティ・レッドブル)、2015年6月21日(日) F1オーストリアGP(レッドブル・リンク)Courtesy Of Red Bull Content Pool

決勝前のガレージでレースエンジニアのサイモン・レニーと会話するダニエル・リカルド(インフィニティ・レッドブル)、2015年6月21日(日) F1オーストリアGP(レッドブル・リンク)

正念場のホームレース

今週末からのオーストリア〜イギリス連戦は、レッドブルにとって特別な意味を持つ。2026年の新レギュレーションに向けて開発の軸足を移す前の、事実上最後のアップグレードラウンドとなるからだ。つまり、ここでの結果が今季のタイトル争いの行方を左右する可能性が高い。

フェルスタッペンは現在ランキング3位で、首位のオスカー・ピアストリ(マクラーレン)とは43ポイント差。残りレース数を考えれば、ホームレースでの取りこぼしは致命的となる恐れもある。無線での些細な意思疎通のズレが、戦略判断やピットタイミングに影響を与える——そのリスクは現実的だ。

だが、フェルスタッペンにはレッドブル・リンクでの圧倒的な実績がある。過去5勝という数字が物語るように、このコースとの相性は抜群だ。そして何より、レニーという経験豊富な代役の存在が心強い。チーム内でフェルスタッペンとも馴染み深いレニーなら、その豊富な現場経験と入念な準備で、リスクを最小限に抑えることができるはずだ。

リアタイヤをグラベルに落とすマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2025年6月27日(金) F1オーストリアGP FP1(レッドブル・リンク)Courtesy Of Red Bull Content Pool

リアタイヤをグラベルに落とすマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2025年6月27日(金) F1オーストリアGP FP1(レッドブル・リンク)

組織力が試される週末

レースエンジニアとドライバーの関係は、単なる技術的サポートを超えた深い精神的な絆でもある。とりわけランビアーゼとフェルスタッペンの関係は、時に激しく、時に静かなやり取りを通じて築き上げられた、特別なパートナーシップだ。

その不在をどう乗り越えるのか。今週末のオーストリアGPは、チームの組織力、レニーの対応力、そしてフェルスタッペン自身の適応力が問われる試金石となる。

なお、ランビアーゼは翌週のイギリスGPから現場に復帰する予定となっている。相棒なきホームレースで、王者は何を見せるのか──注目が集まる。

F1オーストリアGP特集