ホンダF1参戦元年に取引開始の町工場、エンジン試作の精密切削を金属筆記具へ「SHAFT CRAFTS」始動

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1964年に本田技術研究所の研究開発部門との取引を開始し、モータースポーツと四輪の試作部品を削り続けてきた東京・板橋の株式会社開工精機製作所が、その精密切削の技術を転用した金属筆記具「SHAFT CRAFTS」のクラウドファンディングを、8月25日(火)から9月30日(水)までGREEN FUNDINGで実施している。

新たな挑戦の背景にあるのは、自動車の電動化によって内燃機関の試作に関わる仕事が最盛期比で76.8%減ったという同社の現状であり、自動車産業とモータースポーツを舞台裏で支えてきたその技術の新たな挑戦先として選ばれたのが、「SHAFT CRAFTS」だった。

SHAFT CRAFTSは、真鍮またはステンレスのベースに、ローレット形状か多角形形状のグリップパーツを組み合わせて1本に仕上げる筆記具で、同社によれば、1/100mmの寸法公差で削られたこれらのパーツは、ネジを締め込んだ瞬間に継ぎ目が消え、複数の部品が一つの金属の塊となり手のなかに収まるという。

ホンダF1参戦元年より磨かれてきた技術

開工精機製作所内に飾られた「HONDA F1 10th ANNIVERSARY 1983~1992」の記念プレートCourtesy Of 開工精機製作所

開工精機製作所内に飾られた「HONDA F1 10th ANNIVERSARY 1983~1992」の記念プレート

開工精機製作所は1937年に東京都板橋区で創業した金属切削加工の会社で、代表取締役の伏見伸一朗氏で三代目を迎えている。

同社が得意とするのは旋盤を中心とした「軸もの加工」で、外径8〜80mm、長さ500mmまでの棒状の金属を1/100mmの公差で削り出し、自動車や産業機械に使われるシャフト部品やボルト、試作部品を手がけてきた。

本田技術研究所の研究開発部門との取引が始まったのは1964年だった。ホンダが二輪から四輪、そしてモータースポーツへと領域を広げていく過程で、エンジンの試作部品など、同社も精密部品の製造を担うパートナーとして技術を磨いてきたという。

同年、ホンダは初めてF1世界選手権に参戦し、翌年のメキシコGPでは、独創的アイデアの横置きV型12気筒エンジンを搭載する「RA272」が、リッチー・ギンサーとともにホンダF1にとっての初優勝を飾っている。

同社によれば、エンジンの試作部品では数ミクロンの誤差が性能と安全に直結する。髪の毛1本の太さはおよそ0.08mm。その20分の1ほどの狂いも許されない世界であり、ツールの選定から回転数、切削速度、切込み量まで、職人が経験と感覚で作業条件を調整する体制を積み上げてきた。

電動化で仕事76%減…切削技術で挑む新たな挑戦

その仕事を直撃したのが自動車産業界の電動化だった。内燃機関のエンジン試作に関わる仕事が激減するなど、時代の変化は部品を削る現場にまで及んでいる。

F1でも2014年以降、ハイブリッドシステムを搭載する新しいパワーユニット(PU)が導入されており、内燃機関だけで速さを競う時代は終りを迎えた。

こうした状況を受け、「精密切削の技術を使って日常的に使うプロダクトを作れないか」という問いから生まれたのが、組み替え可能な金属筆記具「SHAFT CRAFTS」だった。同社は今回のクラウドファンディングを市場テストの場と位置づけ、初期ユーザーの反応を次期モデルの開発に反映させる考えを示している。

このプロジェクトは、東京都が主催し公益財団法人日本デザイン振興会が企画・運営する2024年度の東京ビジネスデザインアワードで優秀賞を受賞している。

締め込んだ瞬間に継ぎ目が消える嵌合精度

「SHAFT CRAFTS」の金属筆記具を手に持ち、ノートに文字を書く様子Courtesy Of 開工精機製作所

「SHAFT CRAFTS」の金属筆記具を手に持ち、ノートに文字を書く様子

SHAFT CRAFTSは、真鍮またはステンレスのベースに、ローレット形状または多角形形状のグリップパーツを組み合わせる構造で、1/100mmの寸法公差で仕上げた嵌合精度により、ネジを締め込んだ瞬間に継ぎ目が消えて複数のパーツが一体の金属塊のように収まるという。

同社はこの驚くべき嵌合精度について、レース中の熱膨張や振動に耐えるエンジン部品の切削で培った公差管理の応用だと説明する。

グリップの加工方法も一般的な手法とは異なっており、通常のローレット加工が専用工具を素材に押し当てて表面の凹凸を転写・成形するのに対し、SHAFT CRAFTSでは限られた幅のグリップ部分に狙った模様を施すため、交差する溝を一本ずつ削り出している。

効率が悪く手間のかかる加工を採用した理由について同社は、削り出しならではの稜線と、指先に伝わるテクスチャ、光を受けたときの立体感を挙げている。

開工精機製作所が精密切削技術を生かして開発した金属筆記具「SHAFT CRAFTS」の限定25個の真鍮モデルCourtesy Of 開工精機製作所

開工精機製作所が精密切削技術を生かして開発した金属筆記具「SHAFT CRAFTS」の限定25個の真鍮モデル

開工精機製作所が精密切削技術を生かして開発した金属筆記具「SHAFT CRAFTS」の限定25個のステンレスモデルCourtesy Of 開工精機製作所

開工精機製作所が精密切削技術を生かして開発した金属筆記具「SHAFT CRAFTS」の限定25個のステンレスモデル

完成時の重量はステンレスモデルが約76g、真鍮モデルが約81gで、直径は12mm、キャップを閉じた状態の全長は120mm。そのキャップはペン尻として組み替えられる構造になっている。

リフィルはパーカータイプのG2規格に対応し、セットにはベース1点、格子形状と多角形形状のグリップパーツ2点、リフィル、そして繰り出し量の調整に使う2mmの六角レンチが含まれる。

価格は真鍮モデルが1セット3万9800円、ステンレスモデルが4万9800円でいずれも税別。各25セットの限定となり、それぞれ定価から1万円が引かれた先行価格に設定されている。

支援者にはシリアルナンバー入りのギャランティー・カードも付く。同社は、組み替えパーツなど今後の新製品の情報を優先して知らせるほか、試作品や1点ものを並べる展示販売のイベントにも招待するとしている。発送は2027年1月を予定する。

「万人向けではない」軽さより存在感を追求

黒い台の上に分解して並べられた「SHAFT CRAFTS」の真鍮とステンレス製パーツ、開工精機製作所の金属筆記具「SHAFT CRAFTS」Courtesy Of 開工精機製作所

黒い台の上に分解して並べられた「SHAFT CRAFTS」の真鍮とステンレス製パーツ、開工精機製作所の金属筆記具「SHAFT CRAFTS」

伏見氏は、この製品が誰にでも勧められるものではないことを自ら認める一方、その魅力をこう語っている。

「この製品は決して万人向けの筆記具ではありません。精密加工によるパーツの組み替えとカスタマイズを楽しめる構造としながら、軽さや利便性よりも、金属削り出しならではの重量感や存在感を大切にしました」

「ぜひ実際に手に取って、この質感や手応えを楽しんでいただければと思います」

企画とブランド設計はオクノテの清水覚氏、製品デザインはGK Designの井上弘介氏、ブランドビジュアルはDESIGNAMの草場有紗氏が担当している。

同社は今後、チタンやアルミニウムなど加工特性の異なる素材への展開や、グリップパターンやペン先形状、サイズなどのバリエーション追加を視野に入れており、各地の町工場と組んで一社では作れない加工表現を持つ筆記具を作ることも構想として挙げている。

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