払い戻しはおろか謝罪も一切なし…ラスベガスGPの混乱を巡る「不慣れな観客」に向けたF1の対応
高価なチケットに大金を支払い、寒さの中で日付をまたいで6時間近く待ち続けたにも関わらず、FP2を観戦できなかった観客に対してF1が取った対応は、自らの懐が最も傷まない公式オンラインショップで使える200ドル分のクーポンを配布する事だけだった。
コース設備の不備が原因で初日木曜のFP1は僅か8分35秒でセッション打ち切りとなった。FP2は2時間半遅れで開始されたものの、「ロジスティクスの問題」と説明された理由により観戦エリアは閉鎖され、観客はF1マシンが周回する姿を見る事ができなかった。
あまりに高額なため、入手できたのが初日木曜チケットだけだったというファンもいる。初日限定のチケットはグランドスタンドが235ドル、スフィア・ファンゾーンが218ドルで販売された。胸を高鳴らせ国境をまたいで観戦に訪れたファンもいる事だろう。
退去命令に納得できず、観戦エリアに留まろうとした一部ファンは、不法侵入を理由に警察に強制退去させられた。
こうした混乱を経て、事実上の同一組織であるF1とイベントの主催者であるラスベガスGP社(LVGP)が取ったのは、観客に対する誠心誠意の謝罪でも、チケット代金の払い戻しでもなく、自分たちの対応の正当性を強調することだった。
F1の商業権を持つリバティ・メディアの最高法務責任者であり、LVGPのCEOを務めるレネー・ウィリムとF1のステファノ・ドメニカリCEOは金曜のFP3を前に共同名義で声明を出したが、この長々しい文書の中に謝罪の言葉は一つもなかった。
声明の中で両組織は、イベントの監督責任はF1、国際自動車連盟(FIA)、LVGPの三組織にあることを「レースに不慣れな人々に理解してもらうことが重要」だと述べ、設備不良によってセッションが中止されるのは「世界中の他のレース、他のコースでもしばしば発生するもの」だと主張した。
傾向的に、予選も決勝も行われない初日イベントを観戦するファンはどちらかと言えばレース初心者ではなく、熱心なファンだ。
FP2の開始延期についてF1とLVGPは「ドライバー、コースサイドのマーシャル、オフィシャル、そしてファンの安全が常に我々の最優先事項」であり、この決定は「すべての関係者によって支持された」と強調し、観戦エリア閉鎖の理由について次の3点を挙げた。
1つ目は「長時間に渡って勤務に取り組み、3夜に渡って働く事が求められている地元警察や警備スタッフ」に対する懸念。2つ目は連邦法の存在ゆえに「バスを合法的かつ安全に運転できる時間が制限されていた」こと、そして3つ目は「ゲストエリアの清掃と備品の補充」だ。
バックアップを含む警備体制や地元当局との連携について詳しい説明がないため、単にリスク評価が甘く、不測の事態に対応できるだけのリソースを確保していなかっただけではとの指摘が上がるのは避けられなかった。
SNSやインターネット上で失望や怒りをあらわにしている観戦客は決して少なくない。
木曜のイベントに参加したファンの一人は、会場から締め出される際に警備スタッフと話をしたそうだ。それによると、自分たちはこのまま勤務を続けても良いと思っているのに、残業代を払う気がないと会社から告げられたと説明したという。
FP2のみならず、僅か8分で終わってしまったFP1すら見ることができなかったと憤るファンもいる。伝えられるところによるとイベントに向けて新たに建設された歩道橋に不具合が発生したため遠回りをしなければならず、そのルートが混雑していたためにセッションに間に合わなくなってしまったという。
F1とLVGPは、観客にとって「残念だった事は承知している」と寄り添う一方、天候や技術的な問題などの理由でコンサートや試合などのイベントがキャンセルされる事はままあるとして、「我々が数多くの利害のバランスを取らなければならなかった事を理解してほしい」と訴え、木曜しか観戦のチャンスがなかったファンが少なからずいるにも関わらず「レースに戻ろう」と締め括った。
訴訟大国と呼ばれるアメリカにおける対応としてはこれが正解なのかもしれない。また、起きてしまった排水設備の不良問題は十分に理解できるものだった。だが、事後の対応によって一部のファンの心がF1から完全に離れてしまったであろう事は疑いない。
皮肉にもマックス・フェルスタッペン(レッドブル)は週末に先立ち、「99%がショーでスポーツイベントとしては1%」と述べ、ラスベガスGPというイベントは本質以外を重視し過ぎていると痛烈に批判した。