アルファロメオ・レーシングを名乗るザウバーモータースポーツのファクトリーに設置されているABダイナミクス社のアドバンスト・ドライビング・シミュレータ・モータースポーツ

圧倒的没入感とGフォースまで再現するリアリティ!最新鋭のF1シミュレーターをロバート・クビサが解説

  • Updated:

コスト削減の一環として厳しいテスト制限が課されている事で、現代F1におけるシミュレーターの重要性は年々高まってきており、その相関の精度も日増しに向上している。

アルファロメオ・レーシングでリザーブ兼シミュレータードライバーを務めるロバート・クビサはシミュレーターの重要性について「シーズン中にテストを行う事ができる唯一の機会であり、様々なコンポーネントや戦略、色々なジオメトリーをテストする事ができる」と説明する。

「実際のレースは多くの場合、サーキットではなくファクトリーで行われている。コース上で速く走るためにはシミュレーターでも速い事が必要で、決して立ち止まる事なくプッシュし続けなければならない」

「もし歩みを止めてしまえば、その日からライバルとの差が広がっていってしまう事になる。フォーミュラ1での競争は本当に本当に激しい。それはシミュレーターにおいても同じなんだ」

パフォーマンスエンジニアを務めるアンドリュー・ナダルはシミュレーターの有用性について「例えばマシンを改善させるため、未知のサーキットでのレースに向けて何か必要であるかについてのフィードバックを与えてくれる」と付け加える。

アルファロメオ・レーシングを名乗るザウバー・モータースポーツのスイス・ヒンウィルにあるファクトリーには、自動車業界向けのテストシステム事業を営むAB Dynamics社製の最新鋭のシミュレーターが設置されている。

両者は昨年技術契約を提携。共同でモータースポーツ用途のシミュレーション製品の拡張および開発作業を進めている。

ファクトリーに置かれているのは、アドバンスト・ビークル・ドライビング・シミュレーター(aVDS)と呼ばれる革新的シミュレーターだ。これは高性能モーション・プラットフォームと高仕様のオーディオ及びビジュアルハードウェアを備えたもので、240度のスクリーンと相まって圧倒的な没入感を提供する。

「rFpro」と呼ばれる専用のシミュレーション・ソフトウェアは、正確かつリアルなグラフィックをタイムラグなく生成しながら、高解像度映像をリアルタイムで投影する。路面のパンプはもちろん、ブレーキングやコーナリング中のローリングやピッチング、天候や映り込みなど、あらゆる条件を正確に再現する事が可能だとされる。

それだけではない。この新世代シミュレーターはGフォースすら再現する事ができる。ただし、かつて次期F1ワールドチャンピオン候補筆頭に数えられていた35歳のポーランド人ドライバーは「必要なのは、自分の体や脳がシミュレーターから受ける感覚を、できるだけ現実に近づける事にある」と強調する。

シミュレーターが重要視されるのはチームに限ったことではない。

F1はスポーティング・レギュレーションを検討するための仮想テスト環境を持っており、セーフティーカー明けのリスタートに関する手順の改善や、導入が検討されているリバースグリッド式の予選スプリントレースなどの新たなフォーマットの是非について、専用シミュレーターを用いた検証作業を計画している他、人工知能によるレースシナリオのシミュレーションに取り組むなど、仮想環境に注力している。

F1は年間のレース開催数増加を目指しているが、そのためには各週末のフォーマットを変更してチーム側の負担を減らす必要がある。そのための対策の1つとして、金曜日のイベントを廃止して、1つのグランプリを土日の2日間のみへと変更する事が検討されているが、そうなった場合、予選と決勝に向けたプラクティスが削減されるため、持ち込みセットアップの精度が要求される事となり、シミュレーターの重要性が更に高まる事になる。