F1エンジンに備わる予選「パーティーモード」の秘密…知られざる16種類のプリセットと仕組み
「予選専用モード」「パーティーモード」というワードが注目を集めた2018開幕F1オーストラリアGP。パフォーマンス重視のエンジン制御モードを使用したメルセデスAMGのルイス・ハミルトンは、2番手を0.7秒近くも引き離す圧巻の速さを見せつけた。
ホンダは長らく予選エンジンモードを持っていなかったが、レッドブル・レーシングと提携した2019年になってようやくこれを搭載。19年型パワーユニット「RA619H」には、信頼性を犠牲にして予選で最大出力を得るためのモードのほか、オーストリアGPでの復帰後初優勝の際に話題となったレース用高出力モードの「モード11」などを備える。
メルセデスはエンジンモードの事を内部的に「ストラトモード(Strat Mode)」と呼んでいる。そもそもエンジンモードとは、どういう物なのだろうか?何故モードが必要なのだろうか? 各メーカー毎に仕組みや呼称の違いはあるものの、基本的な部分に大きな違いはない。以下にメルセデスAMGのPUモードの秘密を紹介する。
F1エンジンに備わる3つPUモード
2014年にF1に導入された1.6リットルV6ターボは、内燃機関(ICE)、ターボチャージャー、MGU-K(運動エネルギー回生)、MGU-H(熱エネルギー回生)、エネルギーストア(回生エネルギー用のバッテリー)、そしてコントロール・エレクトロニクス(電子制御)の六つの主要コンポーネントで構成されパワーユニット(PU)と呼ばれる。新時代のF1ハイブリッドエンジンは、旧来型のエンジン(ICE)と2つのエネルギー回生システムの計3つの動力源を併せ持つ。
メルセデスが製造するパワーユニットは2018年現在、全部で16種類のプリセットを備えており、大別すると以下の3つのモードに集約される。回生エネルギーの使用と回収のバランス配分及び、ICE性能を変化させる事でパフォーマンスの制御を行う。ICE側の出力制御は、燃焼室内に噴射する燃料量の変更や、点火タイミングの変更によって調整する。
- フリー走行モード
- 予選モード
- 決勝レースモード
フリー走行モードはエンジンに優しい低負荷仕様、決勝レースモードは性能と負荷のバランスが高次元で統合された仕様となっている。同チームが「パーティーモード」と名付けた予選モードは、予選に特化したハイパフォーマンス仕様であり、最終Q3セッションに限定して使用される事が多い。
各々のモードの中にも細かなサブセッティングがある。例えば、集団の中での走行時や、前走マシンに前を塞がれている状態、あるいはセーフティーカー先導時などには、同じ決勝レースモードの中でも低パフォーマンスのセッティングが使われる。オープニングラップ等のポジション変動が激しい局面では、回生エネルギーをフルに使用する攻撃的なセッティングが使われる。
多様なPUモードが存在する理由
何故、多様なモードが存在するのだろうか?答えの一つは現行F1レギュレーションにある。コスト削減が大きなテーマとなっているF1では、年間を通じて使用可能なエンジンの数を規約によって制限、今年は3基以下のコンポーネントで全21戦を戦わなければならない。
PUモードの役割は、パフォーマンスと信頼性のバランスを取る事にある。予選や決勝などの重要な局面ではその性能を存分に発揮しなければならない一方、フリー走行ではある種”手抜き”モードで走行し、エンジンの損傷とマイレージを最小限に抑える事が求められる。全開走行の機会が減少している理由はここにある。
エンジンの寿命を予測・管理するために、メルセデス製パワーユニットを搭載するチーム内では、「フェーズ・ドキュメント」と呼ばれるエンジンマイレージを管理するためのツールが用意されている。各イベントで走行しても良い距離数が定められており、ワークスもカスタマーも同じドキュメントを使用している。
パワーセンシティビティの高い、つまりエンジン出力がタップタイムに与える影響の高いサーキットであればあるほど、PUモードの重要性が高まる。カレンダーの中で言えば、スパ・フランコルシャンやモンツァがこれに該当する。今シーズン最初のパワーハングリーなコースは第4戦のバクー市街地コース、エンジンモードに注目しながら観戦してみるのも面白いだろう。