
包囲網が崩壊? F1圧縮比論争が奇妙な展開に、ライバルが自ら求めた規則変更に反対か
2026年型F1パワーユニット(PU)の圧縮比制限を巡る議論が、奇妙かつ新たな局面を迎えた。ライバル陣営が自ら求めた規則変更案に対し、一転して反対票を投じる可能性が取り沙汰されている。その背景には、政治的・技術的な駆け引きと各メーカーの利害が複雑に絡み合う状況があるようだ。
事の発端は、メルセデス製PUが、規則で定められた冷間時の圧縮比16:1という上限値には適合しつつ、走行中の高温時にはこれを超えているのではないかというライバル陣営からの疑念だった。
これを受け、パワーユニット諮問委員会(PUAC)は、従来の冷間時に加え、温間時にも測定を行うという新たな検査手順案を提示した。具体的には、シリンダーヘッドを外して測定機器を装着し、エンジンを約130度まで加熱したうえで検査する方法とされる。
浮上した「提案への反対」という逆転現象
だが、ここにきて奇妙な事態が起きている。英専門メディア『The Race』は、「ライバルメーカーが自ら提案した案に反対票を投じる可能性がある」と報じた。その理由は、一部のメーカーが「高温時のみの測定」を求めていたためだとされる。
この状況を理解するには、技術的背景を踏まえる必要がある。
一般にエンジンは温度上昇に伴い圧縮比が低下する傾向にある。パワーユニットの技術責任者を経験した人物によれば、冷間時に16:1のエンジンは、作動温度ではおよそ15.2:1程度まで下がるのが一般的だという。これは、コンロッドの膨張以上にエンジンブロックが膨張するためとされる。
3つの選択肢と各陣営の利害
圧縮比測定を巡っては、理論上3つの選択肢が存在する。
選択肢1:現状維持(冷間時のみ測定)
現行規則では、エンジンが冷えた状態で圧縮比16:1以下であることが求められている。メルセデスはこの規則を遵守していると主張しているが、ライバルは高温時に圧縮比が上昇しているのではないかと疑っている。
選択肢2:温間時のみ測定(一部ライバルの希望)
仮に温間時のみの測定に変更された場合、理論上は冷間時に16:1を超える設定とし、実際の稼働時には制限値に収める設計が可能となる。
この場合、フェラーリ、レッドブル、ホンダ、アウディのいずれか、あるいは複数のメーカーが出力向上の余地を得る可能性があり、相対的にメルセデスの優位性を削ぐ展開も想定される。
選択肢3:冷間時と温間時の両方で測定(FIA案)
だが、FIAが提示したのは「冷間時と高温時の両方で測定する」という案だった。この場合、いずれの状態でも圧縮比16:1以下でなければならない。
そうなればライバルメーカーにとって、自らが有利になると見込んだ「冷間時に高めに設定し、高温時に下げる」という戦略は採用できない。よって、FIA案を否決して現行規則を維持する方が得策と判断する可能性があるとされる。
一方、メルセデスは両方の条件を満たすことが可能なようだ。バーレーンテスト5日目にチーム代表トト・ウォルフが、FIA提案の新たな測定方法について語った以下の発言は、こうした事情を踏まえると示唆的だ。
「これであれば特定のメーカーに有利・不利は生じないと思う。フェアなゲームだ」
最終局面で揺れる圧縮比論争
この規則変更案が可決されるには、5つのPUメーカーのうち4社以上に加え、FIAおよびフォーミュラ・ワン・マネジメント(FOM)の賛成が必要となる。つまり、メルセデスが反対の立場を維持した場合、フェラーリ、レッドブル、ホンダ、アウディのうち1社でも反対に回れば、否決されることになる。
電子投票の結果についてFIAは、開幕戦オーストラリアGPの前に判明する見込みとしている。
実際に、この規則変更案が可決されるかどうかは不透明だ。ただし最終的には、公平性や技術的妥当性よりも、各メーカーの政治的思惑によって決着する可能性が高いとみられる。