
開幕前夜のF1に漂う「混沌」と「ショック」の予感…ドライバー達が懸念するシナリオ、メルボルンが突く新規則の弱点
2026年のF1開幕戦オーストラリアGPを前に、パドックには異例の緊張感が漂っている。新シーズンの初戦だから、ということだけが理由ではない。舞台となるアルバート・パーク・サーキットの特性が、新たな技術規則の「弱点」を正面から突く形になっているからだ。
アレックス・アルボン(ウィリアムズ)は「開幕戦としては誰にとっても、ちょっとしたショックになると思う」と語り、オリバー・ベアマン(ハース)は「現行レギュレーション下でのワーストケースになる可能性がある」と指摘した。プレシーズンテストを経てなお、不安の声は消えていない。
エネルギー不足が露呈するアルバート・パーク
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アルバート・パーク・サーキット(F1オーストラリアGP)のコースレイアウト図-2026年版
2026年規則の核心は、エネルギーのマネジメントにある。電動化が推進された新世代パワーユニットは、ブレーキングのたびに運動エネルギーを電力として回収する仕組みに、出力の約半分を依存している。だがアルバート・パークはハードな制動地点が少なく、エネルギー回生の機会が極めて限られる「エネルギーリーン」なサーキットだ。
シミュレーター作業を通じてこの問題と向き合ってきた一人、カルロス・サインツ(ウィリアムズ)はこう語る。
「バーレーンの段階では、さほど大きな課題じゃなかった。かなり大きな変化ではあったけど、まだ現実的な範囲に収まっていた。でもメルボルンに向けて取り組んだシミュレーター作業は、かなり過激な内容だった」
「コースレイアウトを考えると今週末の初戦は、この新しいレギュレーションにとって信じられないほど厳しい試練になると思う」
問題の深刻さは、規制当局の動きにも透けて見える。国際自動車連盟(FIA)は事前のシミュレーションを踏まえ、1周あたりのエネルギー回生制限を通常の最大値8.5MJより低い8MJに設定した。ストレートの途中で不自然にアクセルを戻したり、本来ブレーキを踏まない場所で減速したりといった、過剰な回生戦略を抑制するための措置とみられる。
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パドックで周囲を見渡すリアム・ローソン(レーシング・ブルズ)、2026年3月5日(木) F1オーストラリアGPメディアデー(アルバート・パーク・サーキット)
リアム・ローソン(レーシング・ブルズ)は、メルボルンのエネルギー回生事情をこう説明する。
「ターン2と3を過ぎると、ほとんどアクセル全開でブレーキを踏む機会がない。もしエンジン全開のまま走り続けようとすれば、1周を走り切るためのエネルギーが足りなくなる。いかにうまくマネジメントするかが勝負になる」
アルバート・パーク・サーキットは、ジェッダ市街地コースやモンツァ・サーキットと並び、エネルギー回生の難易度が最も高いサーキットの一つであり、「スーパークリッピング」が多用される見通しだ。
通常、エネルギー回生はブレーキング時に行われる。だがこのテクニックでは、アクセル全開での走行中にもあえてモーターを逆転させ、エネルギーを回収する。
サインツは、「遅く走るほうが速い場合もある」という表現で、新時代のエネルギーマネジメントの複雑さを指摘する。
「かなり頭を使うし、考える時間も必要だ。かなりの妥協をしつつ、バランスを見出す必要がある。コーナーを速く走ったからといってタイムが速くなるとは限らない。これはレーシングドライバーにとってかなり直感に反する状況だ」
「その前やコーナーでどれだけエネルギーを使ったか、あるいは回収したかによって結果は変わる。だから簡単じゃない。コーナーを速く走ろうとする前に、一度考えなきゃならないこれまでとはまったく違うレベルで難しい」
「0.6〜0.8秒差」オーバーテイクモードが生む極端な速度差
Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.
バーレーン・インターナショナル・サーキットを周回するアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデスW17)、2026年2月19日F1プレシーズンテスト4日目
レース本番でより直接的な混乱をもたらすとみられているのが、2026年から導入される「オーバーテイクモード」だ。アンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)は、その威力をこう語る。
「オーバーテイクモードは信じられないほど強力なんだ。みんながそれを使えば、特に1周目はちょっとしたカオスになり得る」
アントネッリによれば、このモードは1本のストレートで他車に対して「0.6〜0.8秒」もの差を生む可能性があるという。オーバーテイクモードが有効化された状態でブーストボタンを押した場合、約400馬力近い差が生まれる。
アントネッリは「相手が思っても見ない場所で仕掛けることもできる」とも語り、スタート直後やセーフティーカー再スタート時、そして終盤の接近戦で特にこうした状況が生まれるとの見方を示した。
また、ピエール・ガスリー(アルピーヌ)は、ダウンフォースが減少するストレートモード(SM)で臨む決勝スタート時に対する懸念を指摘する。
燃料満タン状態で他車と接近し、前後ウイングの負荷が抜けた状態で22台のマシンが最初のシケインに飛び込む状況は、「エキサイティング」な場面を生み出すはずだという。これがスリリングな光景になるのか、それとも単に危険なだけのシーンになるのか。その答えはまだ誰も知らない。
予選にも漂う波乱の予感
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クラッシュを経て横転したジョージ・ラッセル(メルセデス)、2024年3月24日F1オーストラリアGP
混乱の懸念は決勝だけにとどまらない。アルバート・パーク特有のトラフィックの中でドライバーとチームは、バッテリーをチャージしながらタイヤを適正な作動域に入れるという、相反する要求を一発で成立させなければならない。
これらのマネジメントにわずかな狂いが生じれば、有力候補がQ1でノックアウトされる事態も十分に起こり得る。アルボンは、適応能力が勝敗を分けると考えている。
「シミュレーションから見ても、メルボルンではFP1の取り組み方が完全に変わる。シミュレーターのデータはある程度は有効だけど、完全には当てにならない」
「誰もが同じ状況だ。重要なのは適応すること。ドライバーとしては、ドライビングスタイルや週末へのアプローチに対して、かなりオープンにならなきゃならない」
今週末のオーストラリアGPは、新シーズンの幕開けとはいえ未知数があまりにも多い。どのチームが新レギュレーションの本質を正確に掴み、どのドライバーが混沌の中に秩序を見出すのか。その答えはチェッカーフラッグが振られるまで、誰にも分からない。