F1マシンの非破壊試験(NDT)の実際、目に見えない損傷を見つけ出す方法
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目に見えない僅かな損傷でさえリタイヤに繋がる危険性があるため、F1チームの裏方、非破壊試験(NDT)部門の仕事は、レースの合間における最も慌ただしく、そして重要なものの一つと言える。
決勝を終えてファクトリーへと戻ったマシンは、サスペンションやウィング、ギアボックスのメインケース、そしてシャシーからフロアに至るまで、何百ものパーツが取り外され、次のレースに向けて厳しいテストを受ける。ダメージが見つかり修理不能と判断されれば破棄される。
そんな知られざるNDTの仕事について、シミュレータードライバーのアンソニー・デビッドソンがNDT技術者のカミラ・ワシウラに話を聞く様子を収めた動画がメルセデスより公開された。彼女は元々、航空機用エンジンや航空宇宙事業を主力とするユナイテッド・テクノロジーズでキャリアをスタートさせたエキスパートだ。
NDTについてワシウラは「非破壊検査の略で、材料の欠損を検出するためのあらゆる方法に関する工学の一分野です。私たちのファクトリーでは4つの方法を使っています」と説明する。
「非破壊」の名の通り、NDTを用いると分解・破壊せずにパーツが寿命に達しているかどうかを評価する事ができる。
- 超音波探傷試験
- 渦流探傷試験
- 浸透探傷試験
- 磁粉探傷検査
超音波試験
超音波試験はその名の通り、超音波(高い振動数をもつ音波)をパーツに当てて、その反射波の強さや位置などを測定し、損傷の有無や大きさを確認する方法だ。カーボンや金属製のパーツの検査に使われる。
ワシウラは「これは超音波検査です。高周波のプローブ(測定用の針)を使って、被検査材に超音波を照射する装置です」と説明する。
「超音波はパーツの内部を突き抜けて後壁に当って反射し、変換器に戻ります。そしてこの装置で超音波を電気信号に変換します。その結果がこれ(上図のディスプレイ)に表示されます」
デビッドソンが「パーツの表面をスキャンするだけのものだと思っていた」と感想を口にするとワシウラは「超音波は内部を探るために使われます。表面だけではなく全体をスキャンするものですね」と説明した。
渦流試験
渦流(かりゅう)試験は金属材の表面に発生する渦電流(うずでんりゅう)の変化を測定してパーツの損傷箇所を見つけ出す方法だ。
「これは磁場を利用した方法で、この小さなプローブ(測定用の針)の中にはコイルが入っており、ここに電流を流して磁場を発生させます」とワシウラは語る。
「これは(下図)は渦電流と金属によって発生する磁場の変化をトラッキングしたものです。欠陥があると磁場が変化します」
浸透試験
浸透試験では、蛍光染料の入ったタンクにパーツを入れて約30分間に渡って亀裂に染み込ませた後、表面に液が残らないように洗浄。オーブンに入れて乾燥させた後、暗室でUVライトを照射する。傷があれば表面に蛍光塗料の線が浮き上がるという仕組みだ。
浸透試験はNDT部門の仕事の中で最も大変な作業の一つだ。1パーツあたり1時間程度もの時間がかかる。マシンのパーツ数を考えると寒気がする。
ワシウラは「傷からにじみ出る蛍光染料を通して、表面破断の兆候を明らかにするために用いられる方法です。暗室で紫外線を照射して行います。UVライトを使って視覚的に確認する方法です」と語った。
磁粉検査
最後の方法についてワシウラは「磁場を利用して表面の傷を検査する方法です。パーツに磁場を生じさせた上で、電流を流すことによって磁化します」と説明した。
磁化、つまり磁石になったパーツに着色された鉄粉などをかけると、それが傷の周りに集まって模様を描く。これは表面付近(2~3mm)に傷があると、その傷の両端に磁極(N極・S極)が生じるという性質を利用したものだ。
磁場を使うという意味では渦流試験と似ているが、渦流試験は装置を使って可視化する必要がある一方、磁粉探傷検査(じふんたんしょうしけん)は目視により確認できるという点が異なる。ワシウラは「同じような原理です。両方、磁場を使うので」と説明した。
デビッドソンは、時速300km以上で走るF1マシンが徹底的に検査されていた事を知り「何年も前に知っていれば良かったな」と締め括った。