ホンダが2019年シーズンのFIA-F1世界選手権に投入し、レッドブル・レーシングとスクーデリア・トロロッソが搭載したパワーユニット「RA619H」、2021年3月22日撮影 (2)
Courtesy Of Honda Motor Co., Ltd

F1エンジン降格ペナを巡る計算で混乱発生「15グリッド抜け穴解釈」は誤りだと指摘するFIA

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パワーユニット(PU)交換祭りの様相を呈するF1ベルギーGPでは、降格ペナルティの計算を巡って混乱が生じた。英国メディアがマックス・フェルスタッペン(レッドブル)よりもシャルル・ルクレール(フェラーリ)が前方でスタートすると報じた事がきっかけだった。

チャンピオンシップを争う両者は共にイベント初日、スポーティング・レギュレーションで許されている年間上限基数を上回るコンポーネントを開封した。

ポイントリーダーはエンジン全開率80%のスパ・フランコルシャンでの週末を前に、今季4基目となるICE(内燃エンジン)、ターボ、MGU-H、MGU-K、2基目のES(バッテリー)及びCE(コントロール・エレクトロニクス)、そして6基目のエキゾーストを開封。この結果、グリッド最後尾スタートが命じられた。

F1のルールでは以下のように、PUの主要7コンポーネントに関して年間上限基数を設けており、これを超える数を使用するとグリッド降格ペナルティが科される。

  • ICE(内燃エンジン)…3基
  • ターボ…3基
  • MGU-H…3基
  • MGU-K…3基
  • CE…2基
  • ES…2基
  • エキゾースト…8セット

7つの各コンポーネントについて、初めて超過する場合(規定数+1基目)は10グリッド、それ以降(規定数+2基目以上)の投入は5グリッド降格の対象となる。例えば4基目のICEであれば10グリッド降格だが、5基目は5グリッドに留まる。

いわゆる「バック・オブ・ザ・スターティング・グリッド」というのは、降格ペナルティの数が「15を超えた」場合、それ以上の累積計算はせず、一律にグリッド後方スタートを命じるというものだ。

フェルスタッペンの場合、4基目のICE(10グリッド)と4基目のターボ(10グリッド)だけで累積降格数が20を超える。そのため最後尾スタートを命じられたわけだ。

一方のルクレールはFP1を前に、今季3基目のES(バッテリー)及び5基目のMGU-Kを開封した。これに対してスチュワードは、15グリッド降格ペナルティを言い渡した。

ただフェラーリはFP2を前に、4基目のCE(コントロール・エレクトロニクス)を追加投入した。これにより累積降格数は20に達した。

各セッションで開封を細切れに行ったフェラーリについて英国のあるメディアは、規定の抜け穴を突いたと指摘。ルクレールは「バック・オブ・ザ・スターティング・グリッド」の対象ではないため、予選順位に関わらずフェルスタッペンより前方でレースをスタートすると報じた。

その根拠は競技規定第28条3項だ。これには「ドライバーが15グリッドを超えるペナルティを受けた場合、スターティンググリッドの後方からレースを開始することが要求される」と記されている。

こうして日本語にするとサッパリだが、英語では「ペナルティ」が複数形ではなく単数形で記されている。正確には「1回のペナルティで15を超えるペナルティを受けた場合」という解釈が可能というわけだ。

つまり、ルクレール先行理論の根拠は、パワーユニットの開封を段階的に行い、1度に科される降格数を15以下に限定すれば、週末全体での降格数が15を超えたとしても「バック・オブ・ザ・スターティング・グリッド」の対象にはならないという理屈なのだ。

レギュレーションの原文を読んだ事のあるファンの中には顔をしかめる者もあるだろう。実際この解釈に対して国際自動車連盟(FIA)は、混乱を避けるべく予選を前に声明を発表し、誤りだと指摘した。

確かに先の段落だけを切り取ればそのような解釈も可能だが、同時に競技規定第28条3項はまず先に「ペナルティは以下の表に従って適用され、累積される」と記している。

スチュワードは「罰則発行を記す文書の数に関係なく、すべての決定は競技期間中に累積され、15グリッドを超えた場合にバック・オブ・ザ・グリッドが発動される事になる」と説明した。

また、例えばレース出場停止に繋がるペナルティポイント制度がそうであるように、累積計算に基づいてペナルティを判断するというのはレギュレーションの根底にある考え方だとも指摘した。

無論、FIAのこの判断に対して異議申し立てを行う事は可能だ。フェラーリ陣営が「15グリッド抜け穴解釈」を元に細切れに交換を行ったのかどうかは不明だが、状況を見守りたい。

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