アロンソ「死でさえ特権、恐怖ではなかった」敬愛の”サムライ”を熱弁、例え1%の望みであれ勝利を追い求め続ける42歳の生き様
「死でさえ特権で、恐怖ではなかった」と言い切るフェルナンド・アロンソ(アストンマーチン)にとっての日本の侍は、精神や規律、自信、恐れを知らない勇敢さという点でレーシングドライバーと多くの共通項があるという。
米国の翻訳家ウィリアム・スコット・ウィルソンによって欧米に伝えられた「Samurai」は、42歳になってなお、デビュー当時と変わらず勝利というただ一つの目標に向かって日々、鍛錬を積む2度のF1ワールドチャンピオンの生き様に大きな影響を与えたようだ。
ドライバーと侍の共通点
キャリア17回目の挑戦となる2023年の鈴鹿F1日本GPに先立ちアロンソはCrypto.comとのインタビューの中で、敬愛する日本の侍について「レーシングドライバーとサムライの間には共通する要素がかなりあると思うんだ。鍛錬、自信、恐れを知らない心。僕らは勝つというただ一つの目標のために戦っている」と語った。
「サムライにとっては死ぬことでさえ特権で、恐怖ではなかった。レーシングドライバーもまた、全てのラップ、あらゆる瞬間とコーナーで危険と隣り合わせだ。起こり得るどんなことにも備え、トレーニングを重ねなきゃならない」
「サムライも同じ精神を持ち、自分自身をより高めるために鍛錬を積んだんだと思う。レースであろうと戦いであろうと、鍛錬こそが昨日よりも自らを整えるための鍵になるんだ」
アロンソは肥前国佐賀鍋島藩士、山本常朝大が記した書物「葉隠」に感化され、背中にサムライのタトゥーを入れるほどの侍・武士道好き、アニメを含む日本文化好きとして知られる。来日の際には秋葉原に入り浸れる事も度々で、日本GPに合わせて東京国立博物館で甲冑に食い入ったシーズンもあった。
アロンソは「勇敢であるという事は、戦いに赴いてなお失敗するとは1パーセントも考えない状態のことを言うのだと思う。自分の中にあるハングリー精神や競争心を以て、前よりも果敢に攻める。それこそが自分の中にあるものを見つけ、最高の自分へと駆り立てる唯一の方法なんだ」とも述べ、勇敢である事と無謀である事は大きく異なると指摘した。
愛する鈴鹿日本に持ち込む特別なヘルメット
単に侍の国というだけでなく、日本と鈴鹿はアロンソにとって他とは異なる特別な場所だという。
「日本の文化が好きなんだ。特に規律を重んじるサムライの文化がね。それに人々は本当に礼儀正しくてサーキットやパドックではファンがいつもプレゼントをくれる。本当に感謝してる」とアロンソは語る。
「紡がれた歴史、そして熱狂的なファン。鈴鹿はレースをするのに最高のサーキットだ。いつだって素晴らしいホイール・トゥ・ホイールのレースが繰り広げられてきた」
そんな愛する日本GPにスペシャルヘルメットを持ち込むのはアロンソにとって至って自然の事だった。レースウィーク終了後は、故郷のスペイン・オビエドにある私設博物館に展示する予定だという。
「これは凄く特別なヘルメットなんだ。シンボリックな要素をたくさん取り入れた。僕の好きなサムライ文化からインスピレーションを貰ったんだ」
「背面のデザインは僕の身体にあるサムライのタトゥーに似たものになっていて気に入っている。今週末、鈴鹿でこれを被るのが楽しみだ」
1%の成功のために全力を投じ続ける42歳
2001年のミナルディでのF1デビューから数えて23年。前戦シンガポールGPでレースディスタンス10万kmの大台を突破したアロンソにとって、今週末の日本GPは史上最多記録を更に塗り替える通算371回目(出走)のグランプリとなる。
アロンソは「これほど長くF1を続ける事になるとは思ってもみなかったよ」としつつも、「もしも若いときの自分が、42歳でF1の最高峰を争っている僕の姿を見たとしても驚きはしなかっただろうね。だって当時でさえ、自分が如何にレースを愛しているかは明らかだったんだから」と語った。
「F1は僕が一番やりたいことなんだ。F1は世界最高のカテゴリー、モータースポーツの最高峰だ。自分に速さがあると感じている以上、辞める理由がどこにあるって言うんだい?」
今もトップレベルでやれるだけの自信があるというアロンソ。自分自身に疑念を持ったりはしないのだろうか?
「失敗に対する恐怖心はパフォーマンスに影響する。そのせいで遅くなる事もある」とアロンソは語る。
「レースをリードしていてチェッカーフラッグまであと10周というところで、後方から更に速いドライバーが迫ってきた時に『負けたらどうしよう?ファイナルラップで追い抜かれたら…』って考え始めるのは自然なことだ」
「でもそういった考えは決して役に立たない。パフォーマンスを制限し、最高の自分である事を妨げてしまうから、僕はそういった考えを打ち消すようにしている。これをやるにはある種の勇気が必要だ。失敗に対する恐怖心から距離を置く精神的な強さが必要なんだ」
長らく現役最高と称されながらもアロンソが最後にF1の表彰台の頂点に上がったのは2013年のスペインGPにまで遡る。すでに10年もの間、優勝から遠ざかっているが、アロンソは如何なる状況であれ勝利を信じて挑戦し続けるだけだと強調する。
「たとえ自分たちが優勝争いに足るほど強くなかったとしても、バイザーを閉じてグリーンライトが点灯した時、今日こそ僕が勝つ日だと願う自分が1パーセントいるんだ」
「99パーセントは上手くいかないけど、それでもその僅かの成功のために忍耐強く耐え、努力する価値はあると思ってる」
「いつだって勝利を渇望している。最初の1日目からそうだったし、それは今も変わっていない」
「早々にF1を辞めるつもりなんてない」