”背負い”成熟した角田裕毅と類まれな新人リアム・ローソン、アルファタウリのチーム内評価
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新人ながらも毎週末に渡ってパドックを驚かせるリアム・ローソンと、2024年のアルファタウリ残留に大きな期待が寄せられている角田裕毅。スクーデリア・アルファタウリは2人のドライバーをどのように評価しているのだろうか。
F1日本GPの初日にチーフ・レースエンジニアを務めるジョナサン・エドルズは、2年半の経験を通して明らかに成熟した角田裕毅がローソンより一歩前にいるのは疑いないとしつつも、全くの準備不足の中でF1に放り込まれたローソンは過去のアルファタウリのドライバーと比べても間違いなく上位にいると指摘した。
チームを背負う角田、速さと才能に加え更に成熟
今季型AT04の戦闘力が予想を遥かに下回った事で、ファエンツァのチームは近年としては最悪の前半戦を過ごしたが、それでも角田裕毅は高い一貫性を発揮して度々10位入賞を飾り、チームをリードしてきた。
その活躍は日本のみならず海外のジャーナリスト達をも納得させるもので、4シーズン目が確実視されていたが、サマーブレイク明けは一転、不運かつ厳しいレースが続いている。
イタリアGPではパワーユニットのトラブルにより出走できず、シンガポールでは予選Q1でトップタイムを刻むもQ2でマックス・フェルスタッペンに計測ラップを妨害され、レースではそのチームメイトであるセルジオ・ペレスの追突により1周目を前にクルマを降りた。
エドルズは「確かにその時点では苛立っているものの、彼は気持ちを切り替えるのがすごく上手い。だからモンツァでのフラストレーションを過去のものとしてシンガポールに集中することができたんだ。彼の予選でのパフォーマンスはご存知と思う」と振り返る。
「我々は彼のためにQ2をまとめ切る事ができなかった。そしてレースでは再び、接触事故によってフラストレーションを抱える事になった」
「我々は今年、期待していた程のパッケージも、これまでのシーズン程のパッケージもなく、明らかに厳しいシーズンを強いられてきたため、各々の週末にポイントを取ることさえ挑戦であったが、ユーキはそれを成し遂げてきた。彼は今年、かなり大きな一歩を踏み出したと思う」
「チームメイトがルーキーであったため、ある意味で彼はチームの中で最も経験豊富なF1ドライバーだった。彼はそれを背負いながらも上手くやってきた」
「成熟した事に疑いはない。デビューしたての頃はコックピットの中、無線を通してかなり熱くなっていたが、今ではその全てをコントロールして、クルマを理解すること、そしてドライビングに集中していると思う」
「だから今年のユーキは遥かに一貫性があると思っているし、ご存じのように、そればかりでなく本当に本当に速く、才能がある事を示している」
「シンガポールでの(Q1)ラップはその好例だし、何度も力強いレースを繰り広げてきた。だから我々としては、彼が一貫してポイントを争えるだけのパッケージを与えるためにクルマの改善に集中しなければならないのだ」
具体的に角田裕毅は昨年から今年にかけて、一体どのような部分でステップアップしたのだろうか? エドルズは「週末に対するアプローチ全体だと思う」と語る。
「一貫性、クルマを理解すること、より良いフィードバックを返すために集中している。彼はドライバーとして成熟してきているし、そのおかげで我々も、彼がより速く走るためのサポートに集中する事ができている」
「それに、バランス特性やエントリーの安定性など、クルマに求められている要素についての理解も深まっていると思う。以前は学んでいる段階だったが、彼はレギュレーションの変更を経験した」
「我々チームとしても、データや彼のフィードバックに基づいて彼から最大のものを引き出すための方法が分かってきた。つまりチームとしてまとまってきていて、それが彼のパフォーマンスに表れているんだ」
新人に不釣り合いなほど冷静で堅実なローソン
オランダGPの週末を終えた時、レッドブルのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコは2023年のドライバーラインナップにニック・デ・フリースを推した自らの決断を悔いた事だろう。
一切の準備時間がない中、デビュープラクティスは3度の赤旗により走行時間が大きく失われた。それでも21歳のニュージーランド人ドライバーは、2度の豪雨と赤旗に見舞われ3台がリタイヤを強いられた狂気のレースでさえミスを犯さず、初めてF1マシンをドライブするのにこれ以上ない最悪の状況下で13位完走を果たした。
そして2戦目のイタリアGPでポイントまであと一歩と迫る11位フィニッシュを飾ると、3戦目のシンガポールでは予選Q3進出を果たし、レースではチームの今季最高成績となる9位でチェッカーを受け、史上350人目のF1入賞者となった。
そんなローソンの印象的な点についてエドルズは「如何に冷静かという事だと思う。本当に堅実で、自分自身にプレッシャーをかけないようにしている。それが彼の大きな飛躍の理由なのだと思う」と指摘する。
「翌日が雨の予報だったオランダGPの金曜の夜に代役が決まったのは彼にとっては少しショックな事だっただろうが、すぐにそれを乗り越え、厳しいコンディションながらも素早くスピードを上げていった」
「ただ私が何より感心したのは彼の堅実さだった。予選で彼は、少しずつタイムを削っていき、一歩一歩積み上げていった」
「シンガポールもまた、彼にとっては難しいコースだった。それまでに走ったことがなかったため我々はQ1で3セットの新品を使うことにした。彼はそれをやり遂げ、Q2でもしっかりとした走りを見せれくれた」
「そしてレースでは何台かの速いクルマを抑え込んでいた。安心して見ていられた。チーム全体が彼に本当に感心していると思う」
エドルズはエンジニアリング面でのローソンについて「クルマの一般的な特性やタイヤの挙動に関する彼のフィードバックはかなり良いと思う」と付け加えた。
エドルズはローソンを非常に高く評価しているが、それでも角田裕毅が優位に立っているのは確かだと指摘する。
「チームに加わって本当にあっという間にスピードを上げてきたが、ご存知のようにユーキはまだ、彼より優位に立っている。それは経験という点で完全に予想されていた事だ」
「しかしながら彼が予選で素晴らしいタイムを出してQ3に進出し、決して競争力が高いとは言えない、時にはドライブするのが難しいクルマで早々にポイントを獲得したことは本当に素晴らしいことだと思う」
「我々から見たところ、これまでの何名かのドライバーと比べて間違いなく彼は上位にいると思う。ポテンシャルを秘めているし、ダニエルが回復するまでの間、彼と一緒にレースをするのが楽しみだよ」