アルボン赤裸々告白「そういう事か…」降格ガスリーに共感、電撃F1交代劇とフェルスタッペン中心のレッドブル
2019年シーズン途中に勃発したレッドブルへの電撃F1移籍、そしてそれにより明らかとなったマックス・フェルスタッペン中心のレッドブルのクルマ作りについて、4年の時を経てアレックス・アルボンが赤裸々に語った。
トロロッソでのデビューから1年半、2019年8月12日にそれは起きた。ガスリーは僅か12戦で古巣ファエンツァへの出戻りを命じられ、フェルスタッペンの新たなチームメイトとしてアルボンが起用された。
あまりの衝撃の大きさ故にガスリーは、レッドブルのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコからの運命の電話が鳴った時刻を正確に覚えていた。
そして、”聞かされていた話”とは異なる決断に、戸惑いとショックを受けた事を明かした。マルコがアルボンに電話をかけたのは、前半最終戦のハンガロリンクでのレース後のことだった。
ヘルムートは本当にとんでもない男
アルボンは「ザ・プレイヤーズ・トリビューン」に寄稿した記事の中で「そろそろ休みたいと思っていたら、ヘルムートから電話がかかってきたんだ。グラーツに来られないか?ってね」と綴った。
「何の件だが、さっぱり分からなかった。僕は当時、イギリスからモナコへの引っ越しの最中で、彼がその手伝いをしてくれていたから、その関係かなとは思ったんだけど。でも何だか遠回しな感じで、ちょっと奇妙だった」
「彼は市内に所有する自分のホテルに僕を泊めてくれて、翌日に通りの向こうで彼に会った。最初の20分位はこれまでのシーズンのこと、引っ越しのことや何かについて色んな話をした」
「そして最後に彼はこう言ったんだ『よし、お前はスパからメインチーム入りだ。30分後に発表するから、必要な人に電話したりしてくれ』ってね」
「つまり、、なんて言ったらいいんだろう。ヘルムートは本当にとんでもない男だよ」
「願ってもない状況だった。それがどれだけ恵まれているかって事を見失ったりはしなかった。(レッドブルは)ドライバーであれば誰もが望む場所なんだから」
「レースに勝ち、チャンピオンシップを争う。そのために僕らはここにいるんだ」
「でも僕はこの状況に対して頭をひねった。分かる?? 何年も前から見ていて、ピエールが如何に実力あるドライバーかは分かっていたわけだからね。メガ級の才能の持ち主だし僕より経験も豊富だ」
「でも何らかの理由でレッドブル・レーシングでの仕事がうまくいかなくなり、僕と交代することになった」
「一体何故? 夏休みの間、ずっとそのことを考えていた」
そういう事か…独特過ぎるレッドブル
喜びを噛み締めながらもアルボンは、ガスリーほどの実力者が梯子を外されたのには何か決定的な理由があると直感した。そしてそれは実際にレッドブルのマシンに乗る事で具体的な見解へと変わった。
「クルマに乗って何度かセッションをこなした時、ピエールのことを思い出したんだ」とアルボンは続ける。
「そういう事か、わかったよ、相棒。って感じだった」
「レッドブルやマックスの悪口を言うわけじゃないんだ。でもクルマのセットアップがリードドライバー、つまりマックスを中心に組み立てられた独特なものだったんだ」
「その理由はよく分かる。詰まるところ彼は史上最高のドライバーかもしれないわけだからね」
「でも彼のドライビングスタイルは本当に独特で、クルマのセットアップも他の多くのドライバーには到底、乗りこなせないようなものだったんだ」
アルボンはリアが不安定なクルマに対応できないドライバーではない。ただレッドブルのそれは余りにもルーズで尖っていたという。
アルボンは「もちろん自分のクルマに手を加えたり微調整したりはできるけど、兎にも角にも、レッドブルはマックスのスタイルに合ったマシンだった」と振り返る。
「僕はフロントエンドとノーズが強いクルマが好みでね。ジョージ(ラッセル)やシャルル(ルクレール)とチームメイトだったこともあるけど、彼らよりも遥かにノーズがある方が好みなんだ」
「基本的にはフロントエンドの感度が僕の焦点なんだ。でもレッドブルのクルマはノーズがありすぎて、ホイールに息を吹きかけるとスピンしてしまうほどだった」
「コール・オブ・デューティとか、ああいうゲームをやる時に感度を最高値にまで上げてみてほしい。あのクルマに乗るっていうのは、そういう感じなんだ」
「さっきも言ったように、その理由は完全に理解できる。マックスは当時、未来のワールドチャンピオンだった。それは誰の目にも明らかだった。だから当然、彼の好きなようなクルマを作ることになる」
「でも僕のようにF1で12戦を走っただけの人間にとっては、全く別のクルマ、別のチームで走るのはちょっとした調整事だった。問題ない!って感じた」
「その年の残りのシーズンで6位以下になったのは1回だけだった。全力を尽くしてスピードを上げていった」
コロナの大打撃、そしてシート喪失
キャリア2年目の2020年。新型コロナウイルスの世界的流行が勃発し、カレンダーは大混乱に陥った。当初オーストラリアで予定されていた開幕は4ヶ月近く延期され、ドライバーはフィジカル、走行感覚といった点で十分な準備ができないままにシーズンを迎えた。
レッドブル・リンクでの開幕戦では3番手にまで浮上したものの、ルイス・ハミルトン(メルセデス)に接触されコースアウト。最終的にはパワーユニットのトラブルによりリタイアと、これ以上ない苦しい滑り出しを余儀なくされた。
前年同様、リアがナーバスな「RB16」に苦戦しながらも、第9戦トスカーナGPでは3位フィニッシュを果たし、自身初、タイ人初のF1表彰台に上がった。また第15戦バーレーンGPでも3位表彰台と、シーズンを通して2度のトップ3を達成したが、この年を以てセルジオ・ペレスにシートを奪われた。
アルボンはレッドブルでの2年目について「次のシーズンは簡単じゃなかった。すべてがパンデミックの影響を受けた。クルマに乗る時間は失われ、僕にはその埋め合わせのための時間が本当に必要だった」と振り返る。
「(2019年の)アブダビから(2020年の)開幕戦までは大きく空いてしまった。でも誰もが大変な思いをしていることは理解していたし、僕は集中してパフォーマンスを発揮しなきゃならなかった」
「当然、もっと上手くやりたかった。もっと準備する時間が欲しかった。もう少し違った形になっていればとも思う」とアルボンは語る。
「でも、後悔はしていない。自分が如何に運が良かったかは分かってるからね。全力を尽くした自分を誇りに思う。時にはうまくいかないこともあるさ」
「それがF1であり、人生だ。今はその事をちゃんと分かってる」