
小松礼雄が語る2026年ハースF1の戦略とシーズン予想―「最大級の規則変更」に挑む最小チーム
史上最大級の規則変更が行われる2026年シーズンに挑む、グリッド最小規模のTGRハースF1チーム。2026年型マシン「VF-26」のリバリー発表に合わせ、チーム代表を務める小松礼雄が、技術規則の大幅刷新と向き合う現状を明かした。
TGRハースは、TOYOTA GAZOO Racing(TGR)がタイトルパートナーを務めるアメリカ拠点のF1チームだ。2016年の参戦以来、一貫して限られたリソースのもと、巨大自動車メーカー主導のワークスチームらを相手に戦い続けてきた。
2026年の新たなレギュレーションは、その小さな組織に前例のない挑戦をもたらす。
日本で過ごした束の間の休息
Courtesy Of Haas
メディアの取材に応じるハースの小松礼雄代表、2025年12月5日(金) F1アブダビGPフリー走行(ヤス・マリーナ・サーキット)
小松は昨年末、10歳と12歳の息子たちを連れて東京で休暇を過ごした。息子たちにとっては初めての本格的な日本の正月であり、大晦日には伝統的な寺院を訪れて日本文化に触れるなど、貴重な時間を楽しんだという。
これは、競技規則で定められた年末シャットダウンによって可能となった。12月24日から連続9日間、チームは業務を停止させなければならない。
特に新たなレギュレーションが導入される直前のF1プレシーズンは不眠不休の過酷な日々となるのが常だが、この強制休暇が心身を整える時間になったと小松は振り返る。
一方で、束の間の平穏は、嵐の前の静けさでもあった。1月下旬から始まるテストに向けて、チームはすでに全力疾走を再開している。
過去20年以上で最大級の規則変更
Courtesy Of Haas
TGRハースF1チームが2026年型F1マシン「VF-26」に採用するリバリーのレンダリングイメージ、2026年1月19日 (5)
2026年はパワーユニットと空力の両面で大規模な技術規則変更が導入される。小松は、22年以上F1に関わってきた中でも「これほど大きな変更は記憶にありません」と語る。
小松のキャリアは、BAR、ルノー、ロータス、そしてハースと、複数のチームにわたる。その経験の中でも、2026年の変更は際立っているという。
勢力図が白紙に戻る新規則は大きな可能性を秘める一方、準備段階では強い緊張感も伴う。
「非常にワクワクしますが、同時にとても神経を使う挑戦でもあります」
小松の言葉には、期待と重圧が入り混じる。新規則は、小規模チームにとってチャンスでもあり、脅威でもある。
最小チーム代表としての重責
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複数年契約を結んだオリバー・ベアマンとハースの小松礼雄、ジーン・ハース、2024年7月4日
小松自身が認めるように、組織規模という点でハースは依然としてグリッドで「最小チーム」だ。新規則への対応は資金面と人的リソースの両面で負担が大きいと、小松は認める。
「チーム代表として、この大きな変更に対応できる体制を整える責任は非常に重いものがあります。正直、最大規模のチームであっても、完全に準備が整っていると言えるところはないでしょう。ただし、我々にとっては挑戦の難易度がさらに増します」
メルセデス、フェラーリ、レッドブルといった大組織でさえ、2026年の変更に不安を抱えている。ハースは、そうしたチームより圧倒的に限られたリソースで同じ課題に立ち向かわなければならない。
だが、小松は悲観していない。
「すでに持ち合わせているもの、得意なことに集中し、弱点を認識したうえで強みを生かす。そして学び続けることが重要です。この新たなレギュレーションでは、非常に速いスピードで学ばなければなりません」
それでも近年、チームとしての考え方やレースへの向き合い方は変化してきた。小松は「チームはかなりアグレッシブな形で成長しています」と語り、組織としての成熟が進んでいるという認識を示した。TGRとのパートナーシップ強化も、その変化の一端だ。
テスト段階では未完成が前提
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カタロニア・サーキットを周回するハースのニキータ・マゼピン、2022年2月23日F1バルセロナテスト
1月下旬にカタロニア・サーキットで行われる非公開合同テストで披露されるマシンは、開幕戦仕様とは「別物」になると小松は説明する。開幕まで1か月以上あるため、各チームが開発を止めることはない。
「それは全チーム共通だと思います。時期があまりにも早いからです」
そのため、バルセロナやバーレーンテストでコースを周回するクルマは発展途上にあり、最終形はオーストラリアで初めて揃う見通しだ。
では、テストから開幕戦オーストラリアまでに、どの程度の開発が進むのだろうか。小松は具体的な見通しを語った。
「バルセロナのシェイクダウンから最終のバーレーンテストまでの間に、グリッド全体で各車は大幅に進化することになると思います。焦点は空力パッケージです。PUに関してはハードウェアはほぼ固まっていますので」
「最大のテーマは、そのPUをどう使うかです。バルセロナでは、エネルギーの最適な使い方に全チームが集中することになるでしょう。これは各チームにとって、極めて迅速に学ぶことが求められる部分です」
一方で、空力開発については「一定の手応えがあります」と自負する。だが、新たなレギュレーションでは、設定した目標が十分かどうかが常に問われるとも強調し、テストでライバルが思いも寄らない空力コンセプトを持ち込み、それが自分たちの「見落とし」だった場合、「即座に対応しなければなりません」と危機感をにじませた。
焦点はエネルギーマネジメント
Courtesy Of Haas
ドライバーズパレードに向け談笑するハースのオリバー・ベアマンとエステバン・オコン(ハース)、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2025年11月9日(日) F1サンパウロGP決勝(インテルラゴス・サーキット)
新世代パワーユニットでは、ハードウェアの性能以上に、その使い方が問われる可能性がある。小松はバルセロナでのテストに向けて、エネルギーマネジメントを最優先課題に挙げ、オリバー・ベアマンとエステバン・オコンがシミュレーターで多様な状況を検証していると明かした。
「まだ初期段階ですが、クリスマス前に一度シミュレーターセッションを行い、今週はさらに踏み込んだ内容のセッションを計画しています」
ドライバーは、1周の中でエネルギーをどう配分するか、複数周にわたるレースでどう管理するかをシミュレーターで学んでいる。これまでのF1とは異なる、全く新しいスキルセットだ。
「まず、レース以前に、そしてテストの段階でエネルギーマネジメントをしっかり把握する必要があります。これが最大の課題です。我々自身、どこまで難しいのかを完全には理解しきれていないのが現状でしょう」と小松は語る。
「現在は、あらゆるシナリオに対する準備を整える”宿題”の段階です。組み合わせは膨大で、それらをシミュレーターで検証しています」
エネルギーマネジメントの最適化は、開幕後も続く課題となる。各チームがどれだけ早く最適解を見つけられるかが、シーズン序盤の順位を左右するだろう。
シーズン序盤の序列は無価値か
2026年は22台が参戦し、パワーユニット供給元ごとの特性も序列に影響する。一方で空力開発は自由度が高く、変化のスピードは速い。
小松は、最初の数戦で一定の序列が見える可能性を認めつつも、シーズン終盤には大きく様相が変わるとの見方を示した。
「2つの要素によって、チーム間には大きなばらつきが出るでしょう。1つ目はPUです。同じサプライヤーを使うチーム同士は近い位置になるはずです」
Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.
歴代のメルセデス製1.6リッターV6ハイブリッドF1パワーユニット、2025年12月16日英国ブラックリーのファクトリーにて
2026年シーズンでは、メルセデスがマクラーレン、ウィリアムズ、アルピーヌに加え、自チームへPUを供給する。フェラーリはハース、キャデラックに加え、自チームに供給する。
レッドブルは自チームおよびレーシング・ブルズへ供給し、アウディとホンダ(アストンマーティン)は、それぞれ自チームのみとなる。
「もう1つは空力で、こちらは完全に自由度が高く、開発スピードも速い。最初の4レースである程度の序列が見えてくるかもしれませんが、非常にダイナミックなシーズンになるでしょう」と小松は続ける。
「開幕戦や第2戦で見えた状況と、シーズン終盤では全く違う景色になっていると思います」
遂に始める未知への挑戦
TGRハースF1チームは1月26日から30日にスペインで初走行を行い、その後2月にバーレーン・インターナショナル・サーキットで公式テストに臨む。
最小チームが、最大級の規則変更に挑む。その挑戦は無謀に見えるかもしれない。だが、小松礼雄は冷静だ。
「学び続けることが重要です。この新たなレギュレーションでは、非常に速いスピードで学ばなければなりません」
「実走行が始まれば必ずサプライズがありますし、チーム一丸となって、素早く反応し、適応することが求められます」
大組織のような物量作戦は取れない。だからこそ、学習速度で、適応力で勝負する。それがハースの戦略だ。
2026年の新たな時代、小松体制下のハースはさらなる飛躍を遂げるのか。日本人チーム代表が率いる小さなチームの挑戦は、3月8日のオーストラリアGPで始まる。