F1ドライバーへの暴言罰則が大幅緩和―FIAが物議の「ISC付則B」を改定、抗議を経て

  • Published:

国際自動車連盟(FIA)は、F1を含む管轄下のシリーズ全体に適用される競技規則を改定したと発表した。現地時間5月14日、第7戦エミリア・ロマーニャGPを前にしたタイミングで明らかにされたもので、ドライバーによる罵り言葉の使用やFIAに対する批判に関する罰則が、大幅に緩和された。

今回の改定は、FIA国際競技規則(ISC)の「付則B」に関わるものであり、FIAはこれを「大幅な改善」と説明している。

罰金は最大8分の1に、出場停止処分は撤廃

従来、F1ドライバーが言動違反を犯した場合、初回で最大4万ユーロ(約656万円)の罰金、3回目にはその3倍の罰金に加え、1ヶ月の出場停止および選手権ポイントの減点という重い処分が科される可能性があった。

今回のルール改定により、罰金は原則一律5,000ユーロ(約82万円)に引き下げられ、出場停止やポイント減点の罰則は撤廃された。ただし、「非常に重大な違反」に対しては、「より厳しい処分」が科される可能性が残されている。

また、シリーズの格式に応じて罰金に倍率をかける仕組みも廃止された。F1ドライバーに対しては標準罰金の4倍が課される内容であったが、今後は全カテゴリー共通の金額となる。

「場」を区別する新方針

改定では、違反が行われた場面を「統制された場」と「統制されていない場」に区別する方針も導入。これは、レース中などの感情が高ぶる場面と、記者会見など冷静な判断が求められる場面とを切り分けて評価するための基準となる。

今回の決定は、F1ドライバーや関係者からの強い反発を受けて下された。2024年のシンガポールGP後、マックス・フェルスタッペンが記者会見で不適切な言葉を使用し、FIAから「公共の利益に資する活動」に従事するよう命じられたことが発端となり、ドライバーたちはFIAに対し、自分たちを「大人」として扱うようにとの批判を表明した。

柔軟姿勢を示すFIA会長

FIAのモハメド・ベン・スレイエム会長は、「競技中に感情が高まる場面があることは、私自身の経験からも理解している。今回の変更は、スポーツマンシップを促進しつつ、競技の品位を損なう言動に対してスチュワードが的確に対処できるよう指針を提供するものだ」と述べている。

FIAドライバーズ・コミッティーのロナン・モーガン会長も、次のように述べた。

「ドライバーは若いファンにとってのロールモデルであり、モータースポーツ界全体のアンバサダーでもある。彼らの振る舞いの重要性は言うまでもないが、レース中と記者会見では状況が異なるという理解も必要だ」

ISC付則B変更点

変更後

該当規則(ISC) 罰則
第12.2.1.f条:FIAやモータースポーツの利益およびFIAが掲げる価値に損害を与える、如何なる言動、文書 違反が「統制された場」で発生した場合、情状酌量または加重要因に応じて最大5,000ユーロの罰金。ただし、非常に重大な違反については、ISCに基づく、より厳しい処分が科される場合がある。
第12.2.1.l条:侮辱的・不快・粗野・攻撃的な言動を含む不品行など 違反が「統制された場」で発生した場合、情状酌量または加重要因に応じて最大5,000ユーロの罰金。ただし、非常に重大な違反については、ISCに基づく、より厳しい処分が科される場合がある。
第12.2.1.l条:侮辱を含めた審判に対するあらゆる不正行為 スポーティング・ペナルティ(グリッド降格やタイム加算など)
第12.2.1.n条:暴力や憎悪を扇動する公の場での行為 最大2万ユーロの罰金。ただし、非常に重大な違反については、ISCに基づく、より厳しい処分が科される場合がある。
第12.2.1.o条:FIAの中立性原則に違反する政治的・宗教的・個人的な発言および掲出(事前にFIAまたは該当ASNから書面による承認がない場合) 最大2万ユーロの罰金。ただし、非常に重大な違反については、ISCに基づく、より厳しい処分が科される場合がある。また、公の場での謝罪および発言の撤回が求められることもある。
第12.2.1.p条:競技会中のFIA公式式典において、取り決めや出席に関するFIAの指示に従わなかった場合 情状酌量または加重要因に応じて最大5,000ユーロの罰金。初回違反(過去2年間を対象として)に限り、罰則の全部または一部が猶予される場合がある。また各個別シリーズにおいて別途規則が定められている場合には、代替処分が適用されることもある。

5,000ユーロの罰金は、情状酌量または加重要因に基づき、増減される可能性がある。FIA選手権、カップ、トロフィー、チャレンジまたはシリーズにおいては、可能であればそれぞれの罰則ガイドライン内で具体的な金額を明記することが推奨される。FIA世界選手権においては、違反の重大性に応じて2倍または3倍の罰金が検討される場合がある。

変更前

該当規則(ISC) 初回違反 2回目の違反 3回目の違反
第12.2.1.f条:FIAやモータースポーツの利益およびFIAが掲げる価値に損害を与える、如何なる言動、文書 €10,000 €20,000 + 1か月の出場停止(執行猶予付き) €30,000 + 1か月の出場停止 + チャンピオンシップポイント剥奪
第12.2.1.l条:侮辱的・不快・粗野・攻撃的な言動を含む不品行 €10,000 €20,000 + 1か月の出場停止(執行猶予付き) €30,000 + 1か月の出場停止 + チャンピオンシップポイント剥奪
第12.2.1.n条:暴力や憎悪を扇動する公の場での行為 €10,000 €20,000 + 1か月の出場停止(執行猶予付き) €30,000 + 1か月の出場停止 + チャンピオンシップポイント剥奪
第12.2.1.o条:FIAの中立性原則に違反する政治的・宗教的・個人的な発言および掲出(事前にFIAまたは該当ASNから書面による承認がない場合) €10,000 + 公的謝罪および発言撤回(罰金は執行猶予の場合あり) €20,000 + 公的謝罪および発言撤回 + 1か月の出場停止(執行猶予付き) €30,000 + 公的謝罪および発言撤回 + 1か月の出場停止 + チャンピオンシップポイント剥奪
第12.2.1.p条:競技会中のFIA公式式典において、取り決めや出席に関するFIAの指示に従わなかった場合 €15,000 €30,000 + 次戦でのイベント指定エリアへの立入禁止 €45,000 + 6か月間の指定エリア立入禁止 + チャンピオンシップポイント剥奪

上記の罰金は、違反が発生したシリーズに応じて下記の数字が乗算される。

シリーズレベル 対象カテゴリ 適用倍率
レベル1 国際シリーズ(※第12.2.1.o条は対象外) ×1
レベル2 FIA地域選手権およびFIAカップ ×2
レベル3 FIA世界選手権(F1を除く) ×3
レベル4 FIA F1世界選手権 ×4

F1エミリア・ロマーニャGP特集