モンツァ・サーキットを走行するマクラーレンMCL38のリアウイング、2024年F1イタリアGP
Courtesy Of McLaren

マクラーレン封じ? FIAが方針転換「F1フレキシウイング」規制強化へ

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国際自動車連盟(FIA)が方針を転換し、F1マシンのフロントウイングおよびリアウイングの柔軟性に関する新たな負荷試験を2025年シーズンに導入し、規制を強化することを発表した。

FIAは当初、既存の検査を変更する予定はないとしていたが、フレキシブルウイングに関する議論が絶えることがなかった2024年シーズンを経て、さらなる規制強化に踏み切ることを決定した。

規制強化の背景

今回の規制強化の背景には、2024年シーズンのコンストラクターズ選手権を制したマクラーレンが、ウイングの柔軟性を巧みに活用し、大幅なパフォーマンス向上を実現していたことが挙げられる。

静的検査に合格する一方、高速走行時にしなるフロントウイングやリアウイングをめぐっては、これまでにも数々の論争が巻き起こってきた。

昨年9月のシンガポールGPでマクラーレンは、FIAとの協議を経てリアウイングの修正を余儀なくされた。

「2024年シーズン終了後、FIAシングルシーター部門によるさらなる分析を経て、2025年シーズンにおいてボディワークの柔軟性が論争の的とならないよう取り組むことを決定した」とFIAはコメントした。

新たな規制では、フロントウイング外側の”たわみ許容値”が従来の15mmから10mmに、中央部は3mmから2mmに削減される。これにより、非線形的なたわみを生じさせることが困難になり、高速域での空力的なアドバンテージを得にくくなる。

新たな負荷試験は2段階に分けて導入される。リアウイングに関する規制は、オーストラリアでのシーズン開幕戦から適用されるが、フロントウイングの新規則は6月のスペインGPまで適用が延期される。

この段階的な導入により、チームは2024年型のウイングを引き続き使用しつつ、新たな規則に適応するための時間的猶予を確保できる。これには無駄な開発コストを抑える狙いもある。

フレキシウイング戦争

近年、ウイングの柔軟性はF1における技術戦争の主要な焦点となっている。特に2022年のグラウンドエフェクトカー規定導入以降、その重要性は増しており、2024年シーズンにマクラーレンはフレキシブルウイングの活用により急速に競争力を高め、レッドブルの支配体制を崩すことに成功した。

この進化を牽引したのは、レッドブルの元チーフデザイナーであるロブ・マーシャルのマクラーレン移籍だった。彼の技術的知見がチームの空力開発を飛躍的に向上させたとされる。

マクラーレンの技術革新

マクラーレンは2024年5月のマイアミGPで大規模なアップグレードを投入。この新型フロントウイングは従来よりも空力的な柔軟性を強化した設計となっており、以降、マクラーレンは常に上位争いを展開。時には圧倒的な強さを見せるまでになった。

このウイングの最大の特徴は、中央部分(インボード)は剛性を維持しつつ、端部分(アウトボード)でより大きなたわみを発生させる構造にあった。

フロントウイングの柔軟性は、低速時のダウンフォースを増やしつつ、高速時には適度にたわむことで、過剰なフロントエンドのダウンフォースを抑える効果を持つ。これにより、マシンのバランス調整が容易になり、セットアップの選択肢が広がることとなった。

今回の規制強化は、「あまりに効果的な技術はルールによって封じられる」というF1の歴史を繰り返すものと言える。

過去にはレッドブルが、ブロウンディフューザーや、ロブ・マーシャル指揮の下でフレキシブルウイングを武器に成功を収めたが、いずれも規制強化によって封じられた。そして今回は、マクラーレンがその立場に置かれることとなった。

今後の展望

フェラーリとレッドブルは、フレキシブルウイングの厳格な規制を求める立場を取っていた。一方、マクラーレン、メルセデス、アルピーヌは2024年シーズン中盤からこの技術を積極的に導入し、アストンマーチンも競争力を高めるために同様のアプローチを採用していた。

この規制強化により、マクラーレン、メルセデス、アルピーヌ、アストンマーチンはウイング設計を見直す必要があり、特にスペインGPまでの間に適応策を見出さなければならない。一方で、レッドブルやフェラーリはこの技術に依存していなかったため、相対的に有利な立場に立つ可能性がある。