選んだのは「4ヶ月」ウィリアムズF1、FW46にメルセデスの旧式サスを採用した3つの理由
ウィリアムズは2024年型「FW46」の開発においてドライバーに運転スタイルの変更を促すほどの大幅な変更を加えたが、その後輪を支えるテクノロジーは旧スペック、つまり昨年と同じ2023年仕様のメルセデス製サスペンションのままだった。
メルセデスは先代が抱えていた予測不能なリアの挙動を改善すべく、2024年型「W15」のリアサスペンションをプルロッド式からプッシュロッド式に切り替えた。グランドエフェクトカー時代のF1では、空力的観点からリアにプッシュロッドを採用するのが主流となっている。
ウィリアムズと同じようにメルセデスからパワーユニットと合わせてギアボックスを購入しているアストンマーチンも当然、最新仕様のプッシュロッドに切り替わったが、ウィリアムズのリアはプルロッドのままだった。
その理由は3つある。
一つにはお金だ。旧型モデルを使用することで、資金が潤沢とは言えないウィリアムズはコストを削減する事ができる。これは概ね100万ドル、1億5千万円程度と見積もられている。
確かに大金ではあるが、それによってコンストラクター選手権順位を落とす位なら最新型を購入した方が遥かに得るものが大きい。
2つ目の理由はメルセデス側の都合だ。リソース上の制約から2つのカスタマーチームに新しいリアサスを供給する事が厳しかったとされる。製造能力の問題なのか、納入時期の問題なのか、制約の具体的な内容は明らかではない。
ただウィリアムズのジェームズ・ヴァウルズ代表にとって、これはお金や古巣の都合の問題ではなく、FW46の競争力を最大限に向上させる上で何を選択すべきかという戦略的決定だった。
確かにメルセデスの最新テクノロジーを採用する事でラップタイムを改善できる可能性を手に入れる事はできるが、一方で旧型を採用することでマシン開発を4ヶ月早く開始できるというメリットがあった。
独「AMuS」によるとヴァウルズは両者を天秤にかけ後者を選んだ。試算の結果、ラップタイムの短縮という観点で、最新型のサスペンションを採用した場合の2倍の効果が見込める事が分かったという。
こうして得られた4ヶ月を活かしてウィリアムズは空力設計により多くの時間を費やした。ヴァウルズによると2023年4月の時点で早くも風洞でのリアの空力試験が可能になったという。
空力性能はF1マシンのパフォーマンスに決定的な影響を与える重要な要素だ。新しい技術を導入することも重要だが、ウィリアムズは「最新型のメルセデス製リア・サスペンション」ではなく「4ヶ月」を選び、既存の技術を採用する事で空力開発に多くの時間を割く事でより大きな改善を狙った。
つまりプルロッドという形式にこだわったわけでも、やむを得ず旧式を使い続けたわけでもないというわけだ。