速読:メルセデスF1「W14」先代比較で何が変わった? 独自路線の中にライバル風味、最小ポッド継続は何をもたらすのか
興味深いことにV6ハイブリッド時代初の敗北を経てメルセデスは、レッドブルとフェラーリに敗れた先代「W13」のサイドポッド哲学を2023年の新車「W14」に継承した。
他のライバルのようにRB18やF1-75のコンセプトに追従しなかったのは、競争力不足の原因は独自のゼロポッド以外にあり、方向性の転換が「後退」に繋がると考えたためだった。
メルセデス風に言えば、サイドポッドの形状はフロア上部からリアへと抜ける流速の最大化と車体の冷却という2つの観点から決定される以上のものではない。
テクニカルディレクターのマイク・エリオットによれば、あらゆる速度域でのバランスの一貫性、空力性能の向上を主なターゲットに開発が進められた。無論、軽量化も課題の一つで、そのために塗装を限りなく減らした”ブラック・アロー”が復活した。
2022年型「W13」と比較しながら駆け足でブラックリーのチームの最新作を見ていきたい。
跳馬とRBのハイブリッド版ミニ・ポッド
処遇が注目されたゼロポッドは調整がなされながらも継続され、上部の側方衝撃吸収構造=SIS(赤色)をウイングに見立てたユニークなデザインも健在だ。ただ、SISとサイドポッド最前部との位置関係は異なる。
ラジエーター吸気口ならびにグランドエフェクトの起点となるベンチュリートンネルの入口と、乱流ジェネレーターとも呼ぶべき前輪からの距離は拡大している。
トンネルの入口をより前方に配置してトンネルの長さを優先した方がピークダウンフォースを追求できる。だがその反面、コーナリング時の空力バランスが悪化する傾向にある事が知られている。
サイドポッドの側面はリアへと向かう気流を意識するように長く緩やかなラインを描いており、フェラーリとレッドブルのハイブリッド版といった趣だ。ゼロポッドというよりはむしろミニポッドと呼ぶべきだろうか。
またヘイローの後方マウント位置からは、パイプ形状のライン(紫色)がエキゾーストまで伸びておりアルピーヌを想起させる。
排気ガスの排出気流を利用し、ラジエーター吸気口からカウル内部へと取り入れられた空気を引っ張ることで冷却性能を向上させる事ができる。
サイドポッド最小化の利点
エゴイスティックとも思われがちなゼロポッドではあるが、エンジニア達の追求欲を掻き立てるだけの理論的な利点がある。
ポッドを小型化してフロアの露出面積を増やすと、理論的には車体後方に流れるフロア上部の空気量が増える。これはディフューザーから抜ける床下からの空気を引っ張り上げ、より多くのダウンフォースを生み出す。また、ベンチュリートンネル入口周りのレイアウトの自由度も高まる。
グランドエフェクトカー開発における焦点はアンダーフロアにある。以前はフロントウイング:アンダーフロア:リアウイングが生み出すダウンフォース量はほぼ同じであったが、現行車両はアンダーフロア単体で全体の半分以上をまかなうとされる。
ゼロポッド搭載の先代は高速コーナーで誰よりも高いパフォーマンスを発揮したものの、ポーパシングの影響で低速コーナーへの進入が非常に不安定だった。
フロアエッジの15mm引き上げを含むポーパシング低減のためのルール変更が、メルセデスのコンセプトを正当化する可能性もあるかもしれない。
大幅に異なる後方ボディーワーク
フロアサポートは同じような位置に取り付けられており、フロアエッジの偏向版も似通っているが、サイドポッド前縁以降のボディーワークは前季型とは大きく異なっている。
外観からすぐに変化が確認できる部位であり、開発の主戦場である事から、他チーム同様、フロアに関してはお披露目用と見るべきだろう。
ロールフープ/インダクションポッドは楕円形に三角形を組み合わせた先代を踏襲するもので、中央部はV6エンジンに、外側はカウル下のクーラーへと導かれる。
側方衝撃吸収構造を活用したSISウィング(紫色)にも変更が施されており、リアの視界性向上のために導入されたリアビューミラーと統合されている。
なお下側の側方衝撃吸収構造(緑色)はW13において目に見える形で露出していたが、W14ではフロアの内部に格納される形となっている。
全面変更されたフロントエンド
車体後方の改定と呼応するように、フロント側も全面的に手が入れられている。ラジエーターの吸気口(黄色)は以前、フロアに向かって末広がりの三角形状をしていたが、長方形へと改められた。フロア上部を流れる気流の増加が期待できそうだ。
フロントウィングは全体としてかなりの変更が加えられている。フラップは上部への湾曲が抑えられ、より均一な負荷がかかるような形状となっている。
ノーズはメインプレーンまで伸びるロングノーズ形式のままだが、先端形状はわずかに異なり、メインプレーンの車体中央部は上部に孤を描いている。
鼻先にある小さな冷却スロットや翼端板外側のダイブプレーン形状にも変化が見られる。また、アルピーヌ風のアウトレットは前方から見ると上部が大きくえぐられた形状をしている事が分かる。
フロントサスペンションはプッシュロッドを継続しているが、ジオメトリが若干変更されている。
リヤサスペンションもW13と同じくプルロッド式だが、完全に再設計された。W13はバンピーな路面に対してリアサスが対応できず、バウンシングによるパフォーマンス低下に苦しんだ。
ライバル注目?フローティング・フラップ
翼端板=エンドプレートとフラップとの接続部分に目が行く。W13とは異なり、先端がカールした3枚のフラップが宙に浮くような形で連結されている。前輪が撒き散らす乱流を制御する狙いがあるのだろう。
新型フェラーリ「SF-23」に搭載されたスロットギャップ・セパレーターを使ったアイデアは見られない。実践投入こそなかったがメルセデスが先鞭をつけただけに、プレシーズンテストあるいは開幕戦で登場する可能性もありそうだ。