失格メルセデス、FIA裁定プロセスを批判…レッドブルに逆恨み?
メルセデスのチーム代表を務めるトト・ウォルフはルイス・ハミルトンに対する予選失格裁定について「素直に受け止めるしかない」と口にした。しかしながら、やはり心の奥底では納得し切れていないようだ。
ハミルトン駆る44号車はF1サンパウロGP予選で最速タイムを記録した後、DRS稼働時のメインプレーンと上部フラップとの隙間寸法の検査で不合格となった。
ウイングの中央部分と左側部分の隙間は最大既定値85mmの範囲内であったが、右側部分はトト・ウォルフ曰く、0.2mm超過していた。
この結果、ハミルトンは予選結果から除外され、スプリント予選での最後尾スタートが命じられた。24周のスプリントでは驚異的な追い上げで5位フィニッシュしたものの、獲れたはずの3ポイントを失った。
トト・ウォルフは「世界選手権に関わるような話題を裁くのは、確かに容易ではない」と述べ、タイトル争いに影響を与えかねない難しい判断を強いられたスチュワードの立場への理解を示しながらも、審議のプロセスそのものに疑問を投げかけた。
4名の審判団が問題を取り上げ審議するか否かを判断する前段階にはテクニカル・デリゲートの判断が存在する。
これはジョー・バウアー個人に関わる問題という事ではなく、FIAの裁定プロセスそのものに内在する構造的な問題だが、極端な話、テクニカル・デリゲートがスチュワードに報告を上げなければ審議に至ることはない。
トト・ウォルフは「通常のプロトコルのように修理する事が許されず、逆にスチュワードに報告されてしまったプロセスを彼らは検証する必要がある」と主張した。
個人の裁量に委ねられている部分がある事は確かだ。
機械化するのは不可能だろうが、合議制にするという手はあるかもしれない。だが、現実問題として、ジョー・バウアーほどの知識と経験を持つ人材を複数名揃える事は難しいように思われる。またセッション中のような限られた時間内に迅速に決定を下さなければならない事を踏まえると、合議制にもまた課題がある。
トト・ウォルフは更に、今回の状況をメキシコGPの予選中に行われたレッドブルのリアウイングの補修作業と比較して「パルクフェルメ下にあるという点では何も変わらない」と指摘した。
「(スチュワードは)今回の件がもしセッション中に起きていたら修正を許しただろうと判断した。だが(問題が発覚したのは)セッションが終わった後だった」
「なぜセッション中は許され、終わった後は駄目なのか?そういう事だ」
これに関しては些かミスリーディングだ。真の問題はセッション中か後かではない。
スチュワードは判決文の中で「競技者が予選セッション中にこの問題を認識していれば、彼らは確かに解決のための助言を(FIAに)求めただろう。また、必要に応じてボルトの増し締めやパーツを補修する許可が彼らに与えられただろうとFIA技術部門も認めた」としている。
つまり認識していたか否か、より正確に言えば問題を認識して自ら許可を願い出たか否かの方がポイントだったと言える。ハミルトンのウイングに問題がある事が発覚したのは、FIAによる検査によってだった。
なお、パルクフェルメ下にあってレッドブルがテープによる補修を許可されたのは、F1競技規約第34条2項oに「テープの追加」が認められているためだと思われる。
インテルラゴスでの予選後にリアウィングの検査が行われたのは全車ではなく以下の14台だった。この中にハミルトンが含まれなければ…という思いをトト・ウォルフが抱いたとしても、それは痛いほど理解できる。
- ルイス・ハミルトン
- バルテリ・ボッタス
- マックス・フェルスタッペン
- セルジオ・ペレス
- ダニエル・リカルド
- ランド・ノリス
- セバスチャン・ベッテル
- フェルナンド・アロンソ
- シャルル・ルクレール
- カルロス・サインツ
- 角田裕毅
- ピエール・ガスリー
- ミック・シューマッハ
- ジョージ・ラッセル
上記の14台が選ばれた理由は明らかにされていない。だがトト・ウォルフは、レッドブル・ホンダがリアウィングの”たわみ”の件についてFIAにクレームを入れた事が自分達のマシンの検査に繋がったと考えているように思われる。
トト・ウォルフはFIAの裁定プロセスに関して「誰もが自分の仕事に最善を尽くそうとしているが、他のステークホルダーからの圧力か、あるいは単にやり方の違いなのか、この24時間の間にそれに反する事が起きた」と語った。
「もしそうであれば、今後はもっと厳しい目で他人を見る必要があるだろう。これからは全ての事に懐疑的な目を向ける事になるだろう。たとえ以前は紳士協定なるものがあったとしても、今はそんなものは存在しない」
チャンピオンシップ争いの状況を踏まえれば確かに不満を抱かずにはいられない裁定だが、ポイントは結局のところ、メルセデスのマシンがレギュレーションに適合していなかったという事実にあるのであって、非情ながらも裁定に関してそれ以外の周辺事実は大きな意味を持たない。
トト・ウォルフもハミルトンも心底辛いだろうが、担当メカニックの心境は想像に余りあるものであり、ヴィタントニオ・リウッツィらスチュワードにとってもまた、苦渋の決断だった事だろう。
なお問題のアッセンブリーはFIAによって封印・押収されているため、メルセデスは検査に不合格となった理由を自ら調査する事ができない状態にあるが、トト・ウォルフは「ウチのナンバー1(メカニック)が検査に立ち会ったのだが、彼からは何かが壊れていると思うとの報告を受けている」と述べ、何かが故障した結果として違反が生じたとの考えを示している。