期待されるF1デビュー…角田裕毅は何故、ホンダとレッドブル首脳陣から高く評価されているのか?
レッドブルとホンダ双方の支援を受け、小林可夢偉以来となる日本人F1ドライバー誕生の期待を一手に背負う角田裕毅。その強さと速さの源は何処にあるのか? 来季F1昇格の可能性は? ホンダ並びにレッドブル首脳陣から高く評価されている理由は何処にあるのか?
F3参戦を経て、今季よりカーリンからFIA-F2選手権に参戦している角田裕毅は、10ラウンド20レースを終えて優勝2回で147ポイントを獲得。ムジェロでの2レースは不運もありノーポイントに終わったが、残り2ラウンドに向けてドライバーズランキング3位につけており、F1参戦に必要となるFIAスーパーライセンスの取得条件を満たそうとしている。
アルファタウリのフランツ・トスト代表は、アブダビでのポストシーズンF1テストでの角田裕毅の起用を明言しているが、F2チャンピオンシップの動向如何ではライセンス取得のためにF1の今季金曜フリー走行に出走する可能性もあり、残り2ラウンドの行方に大きな注目が集まっている。
そんな中、今季FIA-F2選手権の全セッションを配信するDAZNの特別番組「ホンダの躍進 F2 角田裕毅 激動の3連戦」に、角田裕毅本人とホンダF1の山本雅史マネージング・ディレクター、そして元F1ドライバーにしてTEAM MUGENの中野信治監督が出演。注目を集めたスパでのニキータ・マゼピンとのバトルを中心に、ベルギー、イタリア、ムジェロでの3連戦を振り返るトークの中から、角田裕毅が評価される理由の一端が浮かび上がってきた。
© Honda / 2020年FIA-F2選手権第2戦にて
マゼピンのボード飛ばしは想定内
8月末のベルギー、スパ・フランコルシャンで開催されたレース1でポールポジションを獲得した角田裕毅は、順当にトップを快走していたものの、10周目のピットストップの際に後続のロバート・シュワルツマン(プレマ)との接触を避けるべくピットアウトが遅れてしまい、ニキータ・マゼピン(ハイテックGP)に事実上のトップを奪われてしまった。
その後は、曰く「パワーロスを防ぐため、リミッターに当たらないように縁石の使い方やギアシフトを調整」したりしながらマゼピン攻略に向け仕掛け続けた角田裕毅であったが、その度に激しいブロックに合いオーバーテイクは叶わず、僅差の2位でチェッカーフラッグを受ける事となった。
だが、最終盤の攻防の際に十分なスペースを与えず角田裕毅をコースオフに追い込んだとして、マゼピンに5秒ペナルティの裁定が下った事で、角田裕毅が今季2勝目を飾る結果となった。
マゼピンの非が認められ勝利を手にしたにも関わらず、本人はレース内容に反省材料を見ていた。角田裕毅は「正直に言うと、ミドルコーナーでマゼピンの前に出た際、流石にコース外に追い出してきたりはしないだろうという思いが心のどこかにありました」と慢心があった事を認めた。
「僕の方が完全に勝っていたので当てに来る事はないだろうと。向こうもチャンピオンシップの事をちゃんと考えていると思っていましたので」
「ですがそうした油断もあった事で、マゼピンが横のカウルに当ててくるような勢いで近づいて来たので、これはレースを落としかねないと思い、安全策を取るためにすぐにランオフエリアに逃れました」
なおマゼピンに関しては別件として、レース後のパルクフェルメにクルマを停止させる際に2位ボードを跳ね飛ばした事が審議の対象となり、スチュワードは「潜在的に危険で非スポーツマン的な行為」であるとして、F2スポーツ規則第27条4項への違反があったと認定し、執行猶予付きの5グリッド降格ペナルティと共に、1点のペナルティポイントを科した。
一歩間違えば傷害の可能性もあっただけに、一件はソーシャルメディアを中心に論争の的となったが、角田裕毅にとっては想定内であったようで「相手がマゼピンなので、若干予想していたところがありました。ボードが来るだろうなと。まさか本当にやるとまでは思っていませんでしたけど…」と明かした。
冷静な観察眼とオーバーテイクへの自信
ホンダF1の山本雅史マネージング・ディレクターは「レースをよく見ているのが裕毅の強みの1つ」であり「レッドブルの首脳陣も裕毅のことは非常に高く評価している」とした上で、マゼピンとのバトルを次のように振り返り、自分の腕を信じて果敢にリスクを取る姿勢が角田裕毅の魅力の1つだと語った。
「あそこは正直、みんなイン側を締めちゃうんですよ。そうすると(後続の角田は)アウトに並んでコーナーに入る事になる。すると、次のコーナーへのアプローチが難しくなる。ランオフエリアがアスファルトなので普通に走れてしまう事もあり、多少の事では誰も譲らないんですよ。F1もそうだけど」
「でも裕毅はそういった場所でリスクを取り、アウト側から何度も攻めていく勇気を持っているし、それが可能であると自分自身を信じている。僕はそういう風に見ていました」
揺るぎない自信は過去の成功経験によってのみ培われる。角田裕毅は「オーバーテイクできる自信がある」と言い切ってみせる。
「抜ける自信があります。ですが追い抜くのは簡単ではないので、相手がどう動くのかを冷静に予想して、どこで抜こうかといった対処の仕方をシミュレートし、それに向けてまとめ上げて最終的にコース上で抜くというのが僕のスタイルです」
中野信治もまた、角田裕毅の攻めの姿勢を高く評価しており、「アグレッシブでありつつも、レースを凄く冷静に見ている」と指摘した上で、レッドブル・レーシングのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコとの会話を引き合いに出した。
「去年ヨーロッパに行った際、マルコに”裕毅の良いところは何?”って聞いたら”やっぱり彼はアグレッシブなんだよ。そこが良い。追い抜いてくるところだよ”と言っていました」
「抜くテクニックに自信があるドライバーは強い。抜かれそうになった時に無理をせず、一旦引くことができるから。こういう部分があるから山本さんやヘルムートを含めて、みんなが彼のレースを安心して見ていられる」
課題は”使い切れない”タイヤマネジメント
予選では一発のチャンスをミスなく決めて上位に食い込む速さを示し、レースでは冷静な闘志と計算で以て相手を抜き去る強さを見せつける。では、今後チャンピオンシップでより上位につけるために、そしてF1への昇格を見据えた際に課題となるのはどのエリアなのだろうか?
© Honda / カーリンをドライブする角田裕毅、2020年FIA-F2選手権 第5戦イギリス決勝レース2にて
エンターテイメントを補強するために、ピレリタイヤはデグラデーション(タイヤの性能劣化)が大きくなるよう設計されているため、タイヤマネジメントが語られる時は概ね殆どが「タイヤを保たせるのが難しい」という文脈での話となるが、角田裕毅の場合は逆の意味でこれを課題としているようだ。
モンツァのレース1を振り返った角田裕毅は、レース終盤でプッシュし始めるタイミングが遅かった事もあり、ファイナルラップでもタイヤが残っていたと明かし、「僕のドライビングは、攻めて走っても他のドライバーよりタイヤに優しいのだろうと思っていています。タイヤを保たせ過ぎてしまうというのもありますし、タイヤを使い切ってしまったという経験があんまりないんです」と続けた。
角田裕毅は、昨年のレース動画を見てデグラデーションレートの目星を付けた上で週末に挑んでいるという。
山本MDもまた、角田裕毅のタイヤマネジメントは「頭を使ってコントロールしている」「上手い」としながらも、「プッシュし始めるタイミングを2〜3周早めろと2・3度メールで送った事がある」と明かし、タイヤを限界まで使い切れない点が課題の1つだと指摘した。
目指すはF1、ファンの期待に応えたい
今季FIA-F2選手権はバーレーン・インターナショナル・サーキットでの最終2ラウンドを残すのみとなった。
角田裕毅はソチ・オートドロームでの週末に24ポイントを加算してランキング3位に浮上。理論的にはミック・シューマッハを蹴落としての逆転チャンピオンの可能性も残されているが、ランキング6位につけるニキータ・マゼピンまでは僅か7ポイントしか離れておらず、3位の堅持が現実的な目標となる。
来シーズンのF1デビューを望むかと問われた角田裕毅は「もちろんです」とキッパリ。「一番近いところでF1を見ていますし、F1とF2ではクルマも速さもドライバーのレベルも全然違うので、やっぱり一番行きたいのはF1です」と熱意を語った。
レッドブルとアルファタウリのドライバー人事を掌握するヘルムート・マルコは、僚友ピエール・ガスリーに対して見劣りする状況が続くダニール・クビアトの進退は角田裕毅の成長次第なのかとの質問に対して「そうかもしれない」と返し、来季アルファタウリ・ホンダでの角田裕毅の起用を除外していない。
とは言え、シート云々はシーズンを4位以上で終える事が最低条件。角田裕毅は残りわずかとなったシーズン最終盤に向け「攻めた走りで自分のスタイルを貫き通し、アグレッシブさを忘れずに思いっきり戦って、何よりも日本のファンの皆さんに期待に応えたいです」と力強く語った。
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