険しい表情で空を見つめるルノーのシリル・アビテブール
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不可解なトップ人事…シリル・アビテブールは何故アルピーヌF1代表の座を追われたのか?

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シーズンがバーレーンで開幕を迎え、すっかり話題に上る事もなくなったが、オフシーズン中のトピックの一つはシリル・アビテブールの代表更迭だった。

なぜグループ・ルノーのルカ・デメオ最高経営責任者(CEO)は、ルノーからアルピーヌへのリブランドに際して突如、43歳のフランス人マネージャーを解任したのだろうか?

2016年のフルコンストラクターとしてのF1復帰以降、英国エンストンのチームの指揮を執ってきたアビテブールは、「ルノー」「ダチア」「アルピーヌ」「ニューモビリティ」の4ブランドを軸とする昨年9月のグループ・ルノー再編に際し、アルピーヌの統括責任者を兼任する事となった。

同じ年のルノーは、ダニエル・リカルドとエステバン・オコンのコンビが計3回に渡って表彰台に上がり、2016年のファクトリーチームとしてのカムバック以来、過去最高ポイントを獲得(2016年:8点、2017年:57点、2018年:122点、2019年:91点、2020年:181点)。こうした背景もあり、パドックの多くはシリル・アビテブールの続投を予想していた。

だが、蓋を開ければグループ・ルノー内におけるスポーツブランドとして新たに位置づけられたアルピーヌのCEOには、グループ・ルノーで戦略・事業開発担当ディレクターを務めていたローラン・ロッシが抜擢され、アビテブールは”アルピーヌF1”としての新たな旅路を前に職務を追われただけでなく、グループそのものを退社した。

アルピーヌの最高経営責任者に就任したローラン・ロッシCourtesy Of RENAULT

アルピーヌの最高経営責任者に就任したローラン・ロッシ

青天の霹靂として受け止められたトップ人事についてデメオCEOはこの程、独RTLとのインタビューの中で、アルピーヌはグループ内の”メインストリーム戦略”の一翼を担うブランドであり、レーシングチームの運営に掛かる器量だけでなく、ビジネスロジックをも理解する人材が必要だったと説明した。アビテブールは2007年のルノーF1チームにおけるビジネス開発マネージャー就任以降、一貫してF1チームに関与し続けてきた。

通常、チーム代表という重要な人事異動に際しては退任と同時に後任が発表されるものだが、アビテブールの場合はロッシCEOの就任がアナウンスされるに留まった。仮にクリスチャン・ホーナーやトト・ウォルフが退任するとなれば、レッドブル・ホンダやメルセデスは必ず同じタイミングで後任を発表するだろう。トップの空白は組織不安を煽る。

結局アルピーヌはこの役職を空席のままとする事を選び、チームはマネージング・ディレクターのマルチン・ブコウスキーとレーシング・ディレクターのダビデ・ブリビオの双頭体制で運営される事となった。

ジェローム・ストールのルノー・スポール社長退任を含めて、エンストンのチームはマネジメント層が一新されたものの、デメオCEOは「それほど多くのことを変更したわけではない」として、今回の人事異動の目的は、チームシステムを「よりフラットに、よりダイレクトに」する事にあったと説明した。ブコウスキーとブリビオはロッシCEO直属の部下という位置付けだ。

なおデメオCEOの説明とは裏腹にSky F1のテッド・クラビッツはアビテブール更迭について、独自取材を通して昨シーズンのコンストラクターズ選手権で3位を確保できなかった事が原因との見方を示している。