
F1伝説スターリング・モスの巨額遺産、”母違いの兄妹”が泥沼の法廷闘争
イギリス出身の伝説的F1ドライバー、故スターリング・モスの遺産を巡り、その息子と娘が激しい法廷闘争を繰り広げている。高等法院に提出された文書により、2780万ポンド(約58億円)に上る相続を巡る生々しい主張の数々が明らかになった。
今回の争いの当事者は、異母姉弟にあたる2人の子どもだ。スターリング・モスは生涯で3度結婚している。
一方の当事者は、2番目の妻との間に生まれた長女、アリソン・ブラッドリー氏。もう一人は、3番目の妻との間に生まれた長男、エリオット・モス氏で、プロのシェフとして活動している。
問題となっている遺産を直接残したのは、スターリング・モスの3番目の妻で、2023年3月18日に69歳で亡くなったスージー・モス氏だ。エリオット氏の実母であり、アリソン氏にとっては継母にあたる。
約53億円の遺産を巡る対立
モス夫人は、2020年4月22日に90歳で死去したスターリング・モスから、約2200万ポンド(約46億円)の遺産の大部分を相続した。報道によれば、夫人の死去時点でその資産総額は2780万ポンドに達していたとされる。
アリソン氏は、夫人が亡くなる約1年前の2022年1月25日に作成した遺言書こそが「最終的に有効なもの」だと主張している。この遺言書では、遺産の配分を決める受託者としてアリソン氏と、スターリング・モス夫妻の友人であるリチャード・フランケル氏が指定され、全財産をアリソン氏に遺すことも可能な内容だったとされる。
これに対し、エリオット氏は当該遺言書の有効性を否定し、真っ向から対立している。
夫人の判断能力への疑義
エリオット氏が高等法院に提出した反論書面には、モス夫人の判断能力に関する深刻な主張が記されている。文書によれば、夫人は長年にわたりアルコール依存症とうつ病を抱え、認知機能に問題を抱えていたという。
さらに、2020年にスターリング・モスが亡くなった後、その症状は「著しく悪化した」とされる。エリオット氏は、夫の死を契機に夫人が複雑性悲嘆障害を発症し、「モスの遺灰が入った骨壺を持ち歩き、抱きかかえたり、時には遺灰を自らの耳の後ろに塗ることもあった」と主張している。
エリオット氏は、2022年の遺言書が、フランケル氏とアリソン氏に有利となるよう、「不当な影響や虚偽の誹謗中傷」によって作成されたものだと訴える。また、フランケル氏がスターリング・モスの晩年に自宅を訪れ、夫人にアルコールを供与していたとの疑いも示されている。
エリオット氏が有効だと主張しているのは、2002年4月29日に作成されたとされる別の遺言書だ。この文書には、遺産をエリオット氏に75%、アリソン氏に25%の割合で分割することを希望する旨の書面が添えられていたという。
伝説のヘルメットの行方
Courtesy Of Mercedes-Benz
F1ブエノスアイレスGPでスターリング・モスをリードするファン・マヌエル・ファンジオのメルセデス・ベンツ W 196 R、1955年1月30日
金銭面に加え、スターリング・モスが現役最後のレースで着用したヘルメットの所在も争点となっている。このヘルメットは、1962年のグッドウッドでの大事故の際にスターリング・モスの命を救ったともされる極めて貴重な品だが、現在は行方不明とされている。
スターリング・モスは1951年から1961年の間に16回のグランプリ優勝を飾り、タイトルこそ逃したものの、史上最高のドライバーの一人と称えられる。だが、その名声の裏で、家族の絆はスターリング・モスの死後、急速に崩壊していったように見受けられる。
アリソン氏は、エリオット氏の主張には事実誤認が含まれているとして、1月28日までに反論書面を提出する予定だ。F1界の英雄が残した巨額の遺産を巡る争いが、法廷でどのような結末を迎えるのか、その行方はなお不透明だ。
Courtesy Of Daimler AG
若かりし日のスターリング・モス卿