やらせなきゃ怒るだろ…フェルスタッペンのFL要求を飲んだレッドブル、脳裏をよぎった故マテシッツの信念

レースを前にガレージ内で談笑するマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2023年7月2日F1オーストリアGP決勝レースにてCourtesy Of Red Bull Content Pool

レッドブルは当初、優勝が確実視されたマックス・フェルスタッペンに対する追加のピットストップに消極的だったが、一度言い出したら聞かない野心的なポイントリーダーからの要求に応じてソフトタイヤを履かせた。

後続のシャルル・ルクレール(フェラーリ)に対してピットストップ1回分以上に相当する24秒ものリードを築いていたとは言え、交換作業でのロスや取り付けミスがあれば、手中に収めかけた勝利がこぼれ落ちる可能性もあった。

レッドブルの首脳陣は2つの方法を検討した。一つは今履いているタイヤを一旦休ませ、使い古したそのタイヤでファステストを狙う方法。もう一つは失敗に繋がりうる「400」もの事象、リスクを引き受け、新品ソフトに履き替える方法だった。

ラスト2周、ピットウォールはフェルスタッペンの要求を受け入れた。ピットストップ作業に定評のあるレッドブルのピットクルーは堅実に仕事をやり終え、フェルスタッペンをルクレールの前でコースに送り出した。

蘭「De Telegraaf」によると、レッドブルのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコは要求を受け入れた事について「ファステストラップがなければ彼が怒るのは分かっていた。マックスにはハッピーでいてほしかった」と笑みを浮かべた。

クルマをウェービングさせながらアウトラップでタイヤを温めたフェルスタッペンは、ファイナルラップで1分7秒012のファステストラップを刻み、チームの母国で26ポイントを獲得。同じく勝利を収めたスプリントを含めて満額34ポイントを加算し、ランキング2位の僚友セルジオ・ペレスとの差を優勝3回分以上に相当する81ポイントにまで拡げてみせた

Courtesy Of Red Bull Content Pool

ポディウムでトロフィーを掲げるレッドブルのマックス・フェルスタッペン-2023年F1オーストリアGP決勝

チーム代表を務めるクリスチャン・ホーナーは失敗のリスクがあった事を認めた上で、それでもピットストップを行い「最終ラップで最速ラップを狙う事にした」「メカニックは最高の状態にあったため、最終的にはさほどリスクはないと考えた」と説明した。

決断に際してホーナーの脳裏には、昨秋に亡くなったレッドブルの共同創業者、ディートリッヒ・マテシッツの「No risk, No fun」との信念が浮かんだという。

「ディートリッヒが亡くなって以来、我々がここに来たのは今回が初めてだ。今日のチームの素晴らしいパフォーマンスは本当に胸を打つものがあった」とホーナーは語る。

「彼の信条は常に『リスクがなければ楽しくない』だった。あれが私の頭の片隅にあった」

「ここに彼がいないのは本当に奇妙な感じだが、それでもなお、滞在中のホテルであろうがなんだろうが、どこにいようとも彼の存在を感じた」

「彼がオーストリアでのグランプリを復活させた際の喜びようと、レースに対する情熱は今でも覚えている。彼は今日、ここにはいないが、至るところにその存在を感じることができる。きっと楽しんでくれたものと思う」

無論、当のフェルスタッペンはピットストップでのチームのミスを懸念してはいなかった。連勝記録を5に伸ばした後、25歳のオランダ人ドライバーは「僕にとってはリスクじゃなかったけど、チームの方は少しばかり緊張していたかもね」と語った。

F1オーストリアGP特集

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