ノリス:説得に応じてハンガリー優勝を返上したわけではない、20周近くに渡る懇願と反論「決め手」の一言
再三の指示にも関わらず、僚友オスカー・ピアストリにポジションを返さなかったランド・ノリス(マクラーレン)は残り3周になってようやく勝利の座を明け渡したが、説得されたがゆえの行為ではないと主張した。
ポールシッターのノリスは1周目のターン1でチームメイトにリードを奪われたものの、マクラーレンがピアストリに先行して2回目のピットストップを行うことを決めたことで再びトップに立った。
20周に渡るジョセフとノリスのやり取り
これはルイス・ハミルトン(メルセデス)のアンダーカットにより1-2フィニッシュが脅かされるのを防ぐための戦略的な決定だった。ノリスの3周後に最後のピットストップを終えたピアストリに対してレースエンジニアのトム・スターラードは「ランドのことは心配するな」と声をかけ、後にポジションを返上する計画だと伝えた。
ノリスのレースエンジニアを務めるウィル・ジョセフは20周近くに渡って、ピアストリに道を譲るよう、時に情に訴えながら懇願し続けた。タイトル争いをリードするマックス・フェルスタッペン(レッドブル)を抑えて大量ポイントを加算できるチャンスを得たノリスは、尽くその指示に従わなかった。
ジョセフはまず最初に、「都合の良い時にポジションを戻してほしい」と伝えたが、ノリスはペースを上げてピアストリに対してギャップを築いていった。そのためペースを抑えるよう伝えたが無視された。そこで無線が聞こえているかどうかを確認するよう頼むとノリスは次のように返した。
「ああ、ハッキリ聞こえてる」
これを受けジョセフは再び、タイヤを温存するよう求めるとともに、ピアストリに道を譲ってくれと頼んだが、ノリスは「そもそも彼を先にピットインさせるべきだったんじゃないの?」と返した。ジョセフが「それは関係ない」と返すとノリスは「僕にとっては関係ある、たぶんね」と返答した。
ジョセフはその後もノリスに「リアタイヤを使いすぎている」「君が正しい行動を取ると信じている」とメッセージを送り続け、残り10周には「毎週日曜の朝にミーティングがあるのを忘れないでくれ」とも伝えたが、ノリスは「じゃあ彼に追いつくように言ってくれ」と聞き入れなかった。
チェッカーフラッグが近づく中、ジョセフは「この戦略はチームの利益を考えてのことなんだ」「私は君を守ろうとしてるんだ」「ランド、あと5周だ」と訴え続けた。ノリスは「僕はチャンピオンシップのために戦ってるんだ」と返した。
そこでジョセフが「チャンピオンシップを制するには、自分ひとりの力だけでは無理だ。オスカーとチームが必要だ」「今、セーフティカーが出たら本当に厄介なことになる。今すぐやってくれ」と続けると、その翌周にノリスは一気にペースを落として2位を受け入れた。
不公平な人間だと思われたくない
無線でのやり取りを聞く限り、ノリスは渋々、チームの説得に応じたように見受けられるが、当人は最初からピアストリにトップを譲るつもりだったと主張した。
「自分が何をしようとしているのか、何をしないつもりかを分かっているのは自分だ」とノリスは説明した。
「最後のラップ、最後のコーナーまで待つつもりだった。でも、もし突然セーフティカーが出たらオスカーを前に出すことができず、僕が少し愚かに見えるだろうと言われてね。その通りだなと思ってあと2ラップかそこらで彼に行かせたんだ」
「聞いたことや知っていると思っていることについて、どう判断するかは自由だけど、僕としては最初からポジションを返すつもりだった。彼らが意見を変えない限りね」
ノリスはまた、自身は「チームプレイヤー」であり、ポジションを返すのが「フェア」なやり方であったとしつつも、タイトルを争ううえで貴重な7ポイントを自ら手放すという決断は「辛い」ものだったとも明かした。
「このスポーツでは時に、自分本位にならなきゃならない。自分を優先して考えなきゃならない」
「不公平な人間だと思われたくない。オスカーはこれまで僕のために多くのことをしてくれた。多くのレースで僕を助けてくれた。今日は僕より良いレースをした。彼の方が良いスタートを切った。僕の方は最悪だった。彼はそれに値した。そうするのが正しいことだった」
「僕とマックスのとの間のギャップがかなり大きいと言う人がいるのは分かる。でも、レッドブルとマックスが今日のようなミスを犯し続けるなら、そして僕らがチームとして改善し、今回のような週末を過ごし続けるのであれば逆転できる」
「残りの半シーズンで70ポイント差を埋められるというのは楽観的な考えだし、高いハードルではあるけど、7ポイントや6ポイントを譲るということを考えると、それが頭をよぎるのは確かだ」
「だから楽ではなかったけど、自分が置かれている状況を理解していたし、最終ラップまでには必ずやるつもりだった」
ノリスはまた、この日のハンガロリンクで勝利を逃したのはチームオーダーのせいではなく、スタートで失敗したせいだとも強調した。
ノリスがこの日、勝利を手にする方法があったとすれば、それは即座にポジションを返上し、最終スティントをまるまる使ってコース上でピアストリをオーバーテイクすることだったが、ノリスはその道を選ばなかった。
ピアストリとポジションを争うことはチーム側から許されていたのか?との質問に対してノリスは「お互いにレースをするのは許されていた」と答えた。