ウェイクフォレスト大学法学部の模擬裁判の様子、2014年9月8日
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マッサ弁護団、2008年F1王座奪還に自信の証拠…障害ルールの存在にも関わらず

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奪還の障害となるレギュレーションが存在しているにも関わらず、フェリペ・マッサの弁護団は、クラッシュゲート事件によりルイス・ハミルトン(メルセデス)の手に渡る事となった2008年のF1タイトルを取り戻すに足る証拠があると信じている。

15年前、ルノー首脳陣の指示を受けネルソン・ピケJr.が故意にクラッシュした事でマッサ(当時フェラーリ所属)は1点差で初のチャンピオン獲得を逃した。このシンガポールGPが選手権から除外、あるいは事故発生前の時点の順位がリザルトとして認定されていれば、王座はマッサのものだった。

F1ワールドチャンピオンの夢を奪われ表彰台の上で涙するフェラーリのフェリペ・マッサ、2008年11月2日にインテルラゴス・サーキットで開催されたF1ブラジルGPにてCourtesy Of Ferrari S.p.A.

F1ワールドチャンピオンの夢を奪われ表彰台の上で涙するフェラーリのフェリペ・マッサ、2008年11月2日にインテルラゴス・サーキットで開催されたF1ブラジルGPにて

既報の通りマッサ陣営は、当初予想された単なる金銭的賠償ではなく「公正性、つまりワールドチャンピオンシップを取り戻す」ために今年8月、国際自動車連盟(FIA)とフォーミュラ・ワン・マネジメント(FOM)に対して訴訟手続を開始した。

とは言え、タイトル奪還は不可能だと広く考えられている。その理由の一つは、当該競技会の14日後、そのシーズンのFIA授与式の4日前に再審査請求権は失効すると定めるFIA国際競技規定第14条の存在にある。

また、FIAの司法制度においては国際控訴裁判所(ICA)が最高権威とされており、競技を問わず世界的なスポーツ紛争の仲裁の場として知られるスポーツ仲裁裁判所(CAS)などの外部組織を頼る事はできないと考えられている。

無論、マッサの弁護団もこれを承知しているが、これが障害になるとは考えていない。

英「AUTOSOPRT」によると、マッサの代理人を務めるサンパウロ・ヴィエイラ・レゼンデ・アドヴォガドス法律事務所のベルナールド・ヴィアナは、タイトル奪還に向けた切り札については伏せながらも「現時点で言えることは、外的統制の欠如が争点の1つかもしれないということだ」と説明し、「今ある証拠にかなりの自信を持っている」と付け加えた。

マッサが訴訟を決意したのは、当時のF1を率いていたバーニー・エクレストンが今春、自身と当時のFIA会長マックス・モズレーは、2008年中にクラッシュゲートの真相を知りながらも、それを隠蔽していたと認めたためだ。

だが、王座確定以前に事故が故意によるものである事を知っていた元F1レースディレクターのチャーリー・ホワイティングもモズレーも既に亡くなっているため尋問に召喚する事はできず、また例のインタビューについてエクレストンは覚えていないと主張している。

それにも関わらずヴィアナは、詳細は言えないとしつつも何も問題はないと主張した。

フェリペ・マッサ、2018年4月のフォーミュラE選手権ローマE-PrixにてCourtesy Of Formula E

フェリペ・マッサ、2018年4月のフォーミュラE選手権ローマE-Prixにて

伝えられるところによるとマッサの弁護団には、スポーツ界隈で世界的に知られる法廷弁護士、ニック・デ・マルコの他、商業訴訟や企業訴訟など、幅広い専門知識を持つ者が名を連ねている。

そんな敏腕弁護士団に触れてヴィアナは「この最も優れたチームを見れば、これが法的な冒険や、単なる思いつき、あるいは根拠のない訴訟でない事が分かってもらえると思う」とした上で、「我々が前進しているという事実は多くを示している。有利に裁判を進められると確信していない限り、誰も前進を勧めたりはしないだろう」と付け加えた。

勝訴した場合、ハミルトンは自身初戴冠となった2008年の王座を追われ、ミハエル・シューマッハと並ぶF1史上最多7冠記録を失う事になるが、ヴィアナは「フェリペはハミルトンに恨みを持ってはいない。本件はFOMとFIAの前指導部が行ったことに対するものだ」と述べ、この訴訟はハミルトンを狙ったものではないと強調した。

英「independent」によると先月15日にF1のステファノ・ドメニカリCEO及びFIAのモハメド・ベン・スレイエム会長宛てに送られた訴訟の意思を通告する書簡「Letter Before Claim」は14日以内の返答を求めていたが、期限内の返答は難しいと両者が主張した事を受けマッサ陣営は、期限を9月8日(金)16時に延期した。ただ、これもまた延期となったようだ。

「彼らはもっと多くの時間が必要だと要求している。我々は誠意を持って彼らに時間を与えるかどうかを内部で評価している」とヴィアナは説明する。

「もし彼らの返答が適切で、我々に何か話を持ちかけてくるのであれば、それはそれで構わないが、そうでないのであれば、もし彼らの返答が適切でないのであれば、我々は用意している法的戦略を進めていくだけだ」

ヴィアナはまた、「目的はトロフィーを持ち帰ることだ。金銭的なものではない」と強調し、2008年と2009年に起きた全ての真相を明らかにすると強調した。

「一旦、訴訟が始まれば、2008年と2009年に生じた利害関係者達による裏交渉や会話、全てが明るみに出るだろう。従ってこのスポーツやファン、フェリペやブラジル(注:マッサの母国)、イタリア(注:フェラーリの母国)を欺いた者、法的義務や契約上の義務を守らなかった者は、全ての人々の前に公にされる」

「草の根を分けて虱潰しにやる事になる。訴訟では非常に興味深い事実が明らかにされると思う」