「単なるサプライヤーではない」HRC渡辺社長、ホンダとアストンの一体化が不可欠な理由とニューウェイの「誤解」を語る

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「アストンマーティン・アラムコとホンダは、単なるコンストラクターとパワーユニット(PU)メーカーの関係ではなく、ひとつのチームとして密接に協力しています」

HRC(ホンダ・レーシング)の渡辺康治社長は、ホンダのお膝元である鈴鹿サーキットで開幕を迎えた2026年F1第3戦日本GPの初日にこう強調した。

プレシーズンテストから続く深刻な振動問題が、PU単体では解決できない統合的な課題である以上、この「一体化」はアストンマーティン・ホンダが生き残るための技術的な必然といえる。

実際、栃木県さくら市に位置するホンダのレース技術開発拠点 HRC Sakura では、アストンマーティンのエンジニアがホンダの技術者と共に作業を進めている。PU開発を統括する角田哲史ラージプロジェクトリーダーと、アストンマーティンの最高技術責任者エンリコ・カルディーレとの間でも緊密な連携が取られているという。

鈴鹿サーキットの最終シケインを走行するランス・ストロール(アストンマーティン・ホンダ)、2026年3月27日(金) F1日本GPフリー走行1Courtesy Of Aston Martin Lagonda Limited

鈴鹿サーキットの最終シケインを走行するランス・ストロール(アストンマーティン・ホンダ)、2026年3月27日(金) F1日本GPフリー走行1

なぜ「一体化」が技術的な必然なのか

問題の本質は、ダイノ(エンジンベンチ)での試験では許容範囲だった振動が、実際のシャシーに組み込むことで大きく増幅する点にある。渡辺社長は次のように説明する。

「ダイノ上のテストでは振動は許容範囲でしたが、実際のシャシーに組み込むと、ダイノでのテストを遥かに超える振動が発生しました。従って、PU単体では問題を解決することはできません」

問題は根は、PU単体の振動特性にとどるものではない。実車搭載時の固有振動や剛性、バッテリー周辺の保護構造、さらにはシャシー側のマウント構造など、複数の要素が相互に作用している。

渡辺社長が「PUだけでなくシャシーも含めて問題解決に取り組んでいます」との姿勢を繰り返し強調した背景には、こうした事情がある。

渡辺社長はまた、「最も重要なのは一歩ずつ前進し続けることだと思います」と語り、短期的な結果を追い求めるのではなく、基盤構築を重視する姿勢を示した。

アストンマーティン・ホンダAMR26を整備するHRCのメンバー、2026年3月15日(日) F1中国GP決勝(上海インターナショナル・サーキット)Courtesy Of Honda Motor Co., Ltd

アストンマーティン・ホンダAMR26を整備するHRCのメンバー、2026年3月15日(日) F1中国GP決勝(上海インターナショナル・サーキット)

一方で興味深いのは、渡辺社長がアストンマーティンとの関係について、一貫して前向きな姿勢を強調し続けた点だ。

エンジニア同士の連携は勿論、自身とチームオーナーのローレンス・ストロール、F1チーム代表兼マネージング・テクニカル・パートナーを務めるエイドリアン・ニューウェイとの関係に不安がないことを強調した。

これは「関係悪化」や「責任の押し付け合い」といった印象を否定する意図があるとみられるが、同時に否定しなければならない状況にあるとも受け取れる。

出遅れと開発制約、そして「立て直し計画」

渡辺社長は現在の苦戦の要因として、開発開始の出遅れも挙げた。

ホンダは2021年末にF1参戦を終了した。その後もレッドブルへのPU技術支援は継続され、2026年規則に関する基礎研究も小規模ながら続けられていた。だが組織としては文字どおり撤退状態にあり、英国拠点は売却され、中核メンバーの多くは社内のカーボンニュートラル関連プロジェクトへ異動していた。

活動終了から2023年の復帰表明までの間に生じた空白期間、F1活動は限定的なものとなり、再始動にあたっては組織の再構築に多大な時間を要した。渡辺社長は、この出遅れが新世代PUの開発においてライバル勢に対する大きなハンデとなっているとの認識を示した。

決勝後にピットレーンで勝利を祝うマックス・フェルスタッペン(レッドブル・レーシング)とHRC(株式会社ホンダ・レーシング)の渡辺康治社長、2025年4月6日(日) F1日本GP(鈴鹿サーキット)Courtesy Of Red Bull Content Pool

決勝後にピットレーンで勝利を祝うマックス・フェルスタッペン(レッドブル・レーシング)とHRC(株式会社ホンダ・レーシング)の渡辺康治社長、2025年4月6日(日) F1日本GP(鈴鹿サーキット)

加えて、現在のF1ではPUの開発は原則として凍結されている。性能向上のためにはADUO(追加開発・アップグレード機会)と呼ばれる制度を活用するほかにない。

これは、各メーカーのICE(内燃エンジン)のパフォーマンス指標をレース中のデータから測定し、最も性能が高いメーカーとの差に応じて、遅れを取っているメーカーに特例を認める仕組みだ。

該当メーカーにはアップグレード投入の許可に加え、テストベンチの稼働時間追加やコストキャップ控除など、挽回のための機会が与えられる。

現行PUのパフォーマンスを今季中に必要な水準まで引き上げられるのか、それとも2027年に向けた新開発を優先すべきかと問われた際、渡辺社長は慎重な姿勢を貫いた。

「現行規則の下ではパフォーマンスそのものを向上させるのは難しい」と認めつつ、まずは信頼性の改善が重要との認識を示す形で質問への直接的な回答を避けた。

修正すべき課題が広範にわたる一方、自由に手を加えられる範囲は限られている。したがって今季の現実的な筋道は、劇的な競争力の回復ではなく、ダメージを最小限に抑えながら将来につながる基盤をどこまで構築できるかにあるといえる。

なおシーズン中の「立て直し計画」について渡辺社長は、チームとともに幾つかのプランを検討しているとする一方、「現時点でお話しすることはできません」とした。

ホンダのDNAとニューウェイの「誤解」

ガレージ内でアストンマーティンの2026年型F1マシン「AMR26」を見つめるF1チーム代表兼マネージング・テクニカル・パートナーを務めるエイドリアン・ニューウェイ、2026年2月11日F1プレシーズンテスト初日(バーレーン・インターナショナル・サーキット)Courtesy Of Aston Martin Lagonda Limited

ガレージ内でアストンマーティンの2026年型F1マシン「AMR26」を見つめるF1チーム代表兼マネージング・テクニカル・パートナーを務めるエイドリアン・ニューウェイ、2026年2月11日F1プレシーズンテスト初日(バーレーン・インターナショナル・サーキット)

組織面においては、ニューウェイが抱いた技術者の継続性への懸念に対し、ホンダ独自の企業文化を挙げて説明した。

ニューウェイは今月初め、昨年11月に東京のホンダ本社を訪問した際に開発チームの顔ぶれが以前とは大きく入れ替わっている事実を知ったとし、2021年シーズンにレッドブルと共に頂点に登り詰めた当時の開発スタッフは「30%程度しか残っていないのではないか」との見方を示した。

ホンダには、モータースポーツのエンジニアを量産車やジェット、eVTOL(電動垂直離着陸機)といった先端技術分野へ定期的にローテーションさせる伝統がある。

渡辺社長はこの点に触れ、「これは当初から継続的に続けてきたことであり、おそらく私の説明が十分ではなかったのだと思います」と述べ、ニューウェイの懸念を「基本的には誤解」と位置づけた。

さらに、当時は組織再構築の途中段階であった可能性を示唆しつつ、「現在は十分な組織と人材が整っています」と強調した。

敢えて見方を変えるならば、この「誤解」の裏には、F1という極めて専門化された世界と、広範な技術領域をカバーしようとするホンダとの間に「組織文化のギャップ」が存在しているとも言える。

ピットウォールからガレージに向かって走るチーフ・トラックサイド・オフィサーを務めるマイク・クラック、2026年3月27日(金) F1日本GPフリー走行Courtesy Of Aston Martin Lagonda Limited

ピットウォールからガレージに向かって走るチーフ・トラックサイド・オフィサーを務めるマイク・クラック、2026年3月27日(金) F1日本GPフリー走行

次世代の日本人F1ドライバーへの眼差し

角田裕毅が昨シーズン末でレッドブル・レーシングのシートを失ったため、ホンダの地元レースとなる今週末の鈴鹿には、5年ぶりに日本人ドライバーの姿がない。

日本人ドライバーの存在は国内のF1人気に大きな影響を与えうる要素だが、渡辺社長は「現在も有望な日本人ドライバーは何名かおり、F1にステップアップするチャンスはあると思っています」と述べ、鈴鹿で運営するホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿でF3やF2を目指す若手の育成を続けていることを強調した。

「今後も、F1を目指す若手の育成は強力に進めていきます」

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